両手両足の感覚が失われる障害の四肢まひを患いながら、油絵の創作に励む人がいる。苫小牧市樽前の障害者支援施設樽前かしわぎ園に入所する細川ひとみさん(49)。完全ではないものの、肘が動くため、前腕に自助具を取り付けて筆を執る。ほぼ毎日キャンバスに向かい、大好きな犬や猫などを表情豊かに生き生きと描く。「いつか自分の作品展を開いて、たくさんの人に絵を見てもらいたい」と語る。
細川さんは十勝管内音更町出身。高校卒業後はアルバイトをして過ごしていたが21歳の時、車を運転中の事故で首の骨を損傷し、首から下の主要な筋肉がほぼ動かなくなった。帯広市内の病院でおよそ1年間の入院生活を経て、かしわぎ園に入所。職員に生活介助をしてもらいながら過ごしてきた。
一時は絶望し、他者との接触を拒んだ。部屋の扉は閉ざしたまま。介助に来る職員と言葉を交わすことはほとんどなく、目も合わせない。「私、ずっとここで何もせずに生きていくんだな」と明るい未来を展望できなかった。
そんな中、10年ほど前に職員に半ば強引に絵を描くことを勧められた。手製の自助具、絵の具や筆、キャンバスは既に用意されていた。最初は水彩画に取り組み、画家としても活動する演歌歌手の八代亜紀さんの作品に憧れ、油絵に挑戦した。
本人は絵を描くのが苦手で、写生会は大嫌いだったと言うが、実際に描き始めると職員も驚く画力だった。「写真を見ながら、好きなように描いただけ」と謙虚だが、キャンバスの中の犬や猫は一本一本の毛まで繊細に描かれ、今にも動き出しそう。施設を見学に訪れる学生からは「人に見せないのはもったいない」とまで言われた。いつしか、笑顔も戻っていた。自分から職員の目を見て、話し掛けるようにもなった。細川さんは「絵は生きがい。絵があるから、毎日生きていられると思う」と言い切る。
自分の部屋で1~2カ月かけて1枚の絵を完成させる。主に大好きな犬や猫、イルカなど動物を題材に、これまで60枚を超える絵を描いてきた。職員の一人は「目が見えなくなってしまった人が、耳はよく聞こえるようになることもある。(細川さんは)四肢まひで自由を失ったことで、何か別の感覚が研ぎ澄まされたのかもしれない」と話す。
車椅子に座りながら自助具を使用するため、キャンバスは大きくて8号。細川さんは「いつか大きな絵も描きたい」と目を輝かせている。
自助具をつかって油絵を描く細川さん
(2016年 6/20) 苫小牧民報
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます