きのう(8月5日)の朝日新聞で、意味不明の記事があった。それは、『核不拡散条約の国会承認 昭和天皇「なぜ通らない」 衆院議長やる気出た』である。ネットのデジタル朝日では、『NPT批准、天皇発言で「議長やる気に」 メモで裏付け』が同じ記事である。
「NPT」と「核不拡散条約」とは同一で、1963年に国際連合で採択(賛成多数で可決)された国際条約で、1968年に最初の62か国によって調印(署名)され、1970年に45ヵ国以上で批准され、効力を発した国際条約である。日本は1976年まで同条約を批准しなかった(国会が承認しなかった)。
この記事でわからないのは、(1)記事を書いた朝日新聞の意図、(2)国会はなぜ承認しなかったかの理由、(3)これに対するアメリカ政府の姿勢 である。
日本国憲法は、天皇が政治に直接関与することを禁じている。天皇の意図を受けて、三木武夫首相、前尾繁三郎衆院議長が動いたなら、憲法違反である。
日本政府は1970年2月にNPTに署名しているから、佐藤内閣の終わりから、NPTを支持していた。そうすると、国会内に条約を批准して、それに日本が縛られることに反対した勢力がいたことになる。
極右のはずの佐藤内閣が署名したということは、アメリカ政府が日本政府に批准を求めていたと推測できる。NPTは、1967年1月1日以前に核兵器をもっていなかった国への核兵器供与を禁止するとともに、NPTを批准しない国への原爆の原料となるウランの輸出も禁止する。ウラン燃料や原発を日本に輸出するアメリカ政府として、日本政府が署名も批准も拒否すれば、国際的な体面がつぶれるのである。
きょう(8月6日)の朝日新聞の『與那覇潤の歴史なき時代 刺さり続ける三島の檄文』を読むと、NPTの署名、批准は「日本の核武装の選択肢を封印する」と みなされといたようだ。三島由紀夫は、NPTの署名を、戦前の「海軍軍縮」と同じく、屈辱的と受け取り、これに抗議しない自衛隊に怒り、クーデターを呼び掛けたのだという。すなわち、自衛隊員を集めて「アメリカの傭兵になるな」と呼びかけた。
国会が批准に反対した理由は、まさに、「日本の核武装の選択肢を封印する」ことへの反対だったのではないか、と推測する。NPTが不平等条約だといっている本音は、日本も核武装したいことだったと思う。2011年の原発事故の際、石破茂など自民党議員が原発維持の理由に、原爆を開発できる潜在能力の維持をかかげていた。
5日の朝日新聞の記事は、奥山俊宏 編集委員の署名入りだったので、関連記事を載せて、その意図を説明すべきだった。そうでないと、昭和天皇の政治関与だけに、焦点があたる。たしかに、昭和天皇は敗戦にもかかわらず自分を君主と思っていたようだが、それよりも、日本の核武装、日本の対米従属(アメリカの雇用兵)を明るみにすべきだったのではないか。
これは、日本政府が、2017年国連採択の核兵器禁止条約に、いまだに、署名も批准もしていないことと関連する。この場合、アメリカはこの条約の採択をボイコットした。条約は122か国・地域の賛成多数で採択された。オランダ1ヵ国が反対、シンガポール1ヵ国が棄権を投票した。
核兵器禁止条約は、核兵器保有国と非核兵器保有国と区別せず、すべての国の核兵器保有を禁止する。したがって、もはや「不平等」を理由にできない。
問題はもっと鮮明である。日本は核武装の選択肢を残すのか、それとも、アメリカの従属国家や傭兵であり続けるのか、それとも、核兵器に頼らない独立国であろうとするのか、である。
朝日新聞が、8月5日に広島市で開かれた「核兵器廃絶日本NGO連絡会」で、各党代表が核兵器禁止条約の署名、批准についてどう言ったか、報道しないのは、とても残念である。