ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#001―2

2018-09-09 00:15:10 | 刑事ドラマ'70年代









 
「ゴリさん? あっ、ゴリラのゴリですか!」

「なんだと?」

マカロニ(萩原健一)のニックネームが決まった所で、あらためて先輩刑事たちの徒名も紹介されました。

ゴリさん(竜雷太)のゴリはゴリ押し(で捜査する)のゴリで、殿下(小野寺昭)は貴公子然とした風貌から、そして長さん(下川辰平)は巡査部長という階級からの命名。

そして、これは過去の記事にも書きましたが、早見淳は本来「坊や」と呼ばれる予定でした。だけどショーケンさんが「俺は坊やじゃない!」ってw、猛抗議されたんですね。

岡田Pが「君じゃなくて、早見淳というキャラクターが坊やなんだ」っていくら説明しても、ショーケンさんは頑として聞き入れなかった。それで仕方なく「マカロニ」って徒名がひねり出されたんだそうです。

これはショーケンさんの単なるワガママに見えるけど… いや実際ワガママなんだけどw、もし当初の予定通り「坊や」がニックネームになってたら、どうだったでしょう? 『太陽にほえろ!』は、あんなにヒットしなかったかも知れません。

何が若い世代にウケて、何がウケないかを、ショーケンさんは本能的な部分で察知されてたんじゃないでしょうか? そういうずば抜けた感性を持ちながら、ご本人は自覚してないもんだから「ワガママを言う」「ダダをこねる」ってやり方でしか表現出来なかったのかも知れません。

音楽担当に大野克夫さんを強引に推した事も、最後に殉職って形で番組を(これまた強引に)降りた事も、またしかりです。

ショーケンさんのワガママがたまたま、ケガの功名で番組を大ヒットに導いたように見えるけど、潜在意識下では「こうした方がウケる」っていう予感があったんじゃないでしょうか?

当時のショーケンさんは、本当に感性だけで芝居されてる感じでした。悲しい時にはこんな表情、悔しい時にはこんな動き……みたいな、定形パターンには全くハマらない演技で、ホントに何をしでかすか分からない。

それが我々視聴者にとって新鮮で刺激的で、あれだけの人気を呼んだワケだけど、ご本人は決して意識上では計算されてない。今あらためて見ても本当に神がかり的な感じで、もう「天才」としか言いようがありません。

だけど、後年のショーケンさんにはそんな感じが無いんですよね。黒澤明監督の映画に出演された辺りから、普通の……どちらかと言えば不器用な俳優さんになっちゃった気がします。

巨匠に揉まれて俳優としての自我に目覚め、計算して芝居をするようになった事が、天才少年を普通のオトナに変えてしまった。全くもって私の勝手な解釈だけど、そんな気がしてなりません。

「はい、捜査一係。……なに、殺し?」

ようやく事件です、お待たせしましたw ボス(石原裕次郎)のデスクの電話が鳴るのが事件発生の合図みたいなもんで、全ての出来事を刑事側から描く『太陽』ならではの作劇パターンです。

現場に行こうとしたマカロニはボスに止められ、近くの雀荘にあの人を迎えに行くよう命じられます。勤務中に麻雀を打ってるアウトローな刑事、ボスに次いで七曲署を象徴するあの人=「落としの山さん」こと山村警部補(露口 茂)です。

15年の歴史の中で、山さんほどイメージが変わって行った人はいないと思います。初期の山さんは長さんより髪が短かく、べらんめぇ口調でよく喋るし「へっへっへ!」なんてスケベそうな笑い方をするw、江戸っ子風のキャラクターでした。

それがジーパン(松田優作)時代の後半あたりから刑事コロンボ化し、テキサス(勝野 洋)時代を経てスコッチ(沖 雅也)が登場する頃には、お馴染みのインテリジェントな大学教授風キャラに落ち着きます。

さらに後期になると「第2のボス」みたいな役目を担い、ボスの傍らに立つ構図が定着するんだけど、本来の山さんは独自のルートで情報を収集し、勝手に動いて手掛かりを土産に戻って来る、いたって自由な存在でした。

雀荘に入り浸るのも情報収集の一環であり、さっそく情報屋とコンタクトした山さんは、殺されたシローという男が拳銃密売組織と繋がってたらしい事を突き止めます。

そして、シローを撃ち殺した犯人がマモルという青年である事も、すぐに判明します。マモル=記念すべき第1号の犯人を演じたのは、あの水谷豊さんです。

俳優としては新人同然だったショーケンさんに、現場で色々アドバイスする教育係として、若きベテランの水谷さんが抜擢されたんだそうです。

後に第30話『また若者が死んだ』でも2人は共演し、やがて名作『傷だらけの天使』で探偵コンビを組む事にもなります。水谷さんは松田優作さんとも『太陽』が縁で親友関係を結ばれました。

なお、この第1話には後に参議院議員となる山東昭子さんも雑誌記者の役で出演し、新聞記者(片岡五郎)とスクープを競いながら、山さんにまとわりついたりするコミカルな演技を披露されました。

この2人の事件記者はセミレギュラーとして、以後も活躍する予定だったのが中止になったそうです。確かに、取って付けたようなコント芝居は『太陽』の空気に馴染まず、明らかに浮いてました。

さて、マカロニはマモルがよく出入りしてたスナック「パークサイド」を張り込み、恋人のユカ(鹿沼えり)をマークします。店内には『少年の魂』というレコード(唄=萩原健一)が流れてましたw

マモルが慕ってるらしい店のマスター(浜畑賢次)が、マモルと同世代で見るからに反体制っぽいマカロニに「なんで刑事なんかになったんだ?」と尋ねます。

「本当は、そのハジキ(拳銃)を持つのが嬉しいからじゃないのかい?」

「だったらどうなんだ?」

「あんた、正直だな。きっと、マモルもハジキを持ってみたかったんだよ」

つまり、マカロニもマモルも似た者どうし。一歩間違えればマカロニだって、人殺しになってたかも知れない……

こうして刑事と犯人の心情がリンクする作劇は、今でこそ古典的な手法と思われがちだけど、当時としては画期的だった筈です。『太陽』以降、ほとんどの刑事ドラマが同じスタイルに傾倒し、結果的に「よくあるパターン」になっただけなんですね。

「マモルが抵抗したら、撃つつもりなのかい?」

「撃つ。それが俺の仕事だ」

そしていよいよ、マモルが店に現れます。ちょうどマカロニと鉢合わせになったマモルは、ユカの「逃げて!」っていう叫びを聞いて、反射的に逃走します。すかさず追うマカロニ!

新宿の人混みの中を全力疾走するマモルとマカロニ。これ以前のドラマなら、すぐに拳銃を抜いてドンパチ始めちゃう所を、『太陽』の場合はまず走る。全力で、ひたすら走る。

これも以前の記事と重複しますが、クランクイン前日まで「やだ。出来ない。降りる」ってダダをこねてたショーケンさんをその気にさせたのは、メイン監督=竹林進さんの「君が全力で走る姿を撮りたいんだ」っていう口説き文句でした。

これもまた、ショーケンさんの中で(無意識に)閃くものがあったんじゃないでしょうか? 結果的に「とにかく刑事が全力で走る」映像が、「殉職」と並んで『太陽にほえろ!』の名物になるワケですから。

でなけりゃ、普通は「走る姿を撮りたい」って言われた位でその気にならないですよね? 本当にワガママなだけの役者なら「そんなの疲れるだけじゃん」で終わってた筈です。

ショーケンさんは本能的に、そういう決定打となる人物設定なり演出なりを、創り手側から引き出そうとされてたんじゃないでしょうか? 買いかぶり過ぎかも知れないけどw、そう解釈するとバッチリ辻褄が合うんですよね。

で、延々と走った挙げ句に袋小路に追い詰められたマモルは、拳銃を抜いてマカロニに銃口を向けます。そして反射的にマカロニも拳銃を抜いた!

「動くな、ぶっ放すぞ!」

……と、言ったものの、マカロニは固まっちゃいます。さっきマスターと交わした会話が影響してるのかも知れません。

「撃て! 撃ってみろコノヤロー!! 撃てねえのかよ? 撃つぞ!」

既に1人殺してるマモルですから、弾みで引き金を引いちゃうかも知れません。

「危ない!」

駆けつけたゴリさんがマカロニをかばった瞬間、銃声が轟きます。ゴリさんは脚を撃たれ、マモルは逃走します。

遅れて駆けつけたボスが、ボーゼンと立ち尽くすマカロニを見て、怒鳴ります。

「馬鹿野郎っ、貴様それでも刑事か!?」

ゴリさんが撃たれて負傷するのも、ボスの「それでも刑事か!?」って台詞も、後々『太陽』の定番メニューになって行きます。ゴリさんは包帯姿がトレードマーク化してましたからw

幸いゴリさんは軽傷(と言っても即入院ですが)で済んだものの、マカロニは凹みます。ボスの一喝が心に突き刺さったんですね。

一係メンバー行きつけの小料理屋「宗吉」のマスター=内田宗吉(ハナ肇)が、落ち込むマカロニに声をかけます。彼はシンコ(関根恵子=高橋惠子)の父親であり、かつてボスと同僚だった元刑事でもあります。

「お前さん、ゴリさんがやられる前に犯人を撃ち殺した方が良かったと思ってんじゃないですかい? そんな事を気にするなら、よした方がいいねえ。人を撃つって事がね、どんな事かあんたには……」

宗吉はそこで口をつぐみます。彼にもまた拳銃にまつわるトラウマがあり、それが刑事を辞める原因にもなった。そのいきさつは、後に第13話『殺したいあいつ』で詳しく語られる事になります。

そして翌朝…… マカロニは町のタバコ屋さんで下宿しており、家主のウタさん(賀原夏子)もまたマカロニを心配します。

「昨日はあんなに張り切って出掛けたのに、今日は朝っぱらからギターなんか弾いちゃって…」

悩める時は弾き語りをするっていうのも、現在じゃパロディのネタにされかねない、昭和ならではの懐かしい光景です。

マカロニはスーツに着替えもせず、GジャンとGパン姿のままゴリさんを見舞いに行きます。

「俺、刑事に向いてねぇような気がする」

そんな腑抜けた台詞を吐くマカロニの顔に、記念すべき第1発目のゴリパンチが炸裂しますw これも後々、新人刑事の通過儀礼として恒例化する事になります。

「昨日、刑事部屋でデカい口叩いたのは、どこのどいつだ! 一度や二度怒鳴られたくらいで、何だそのザマは!?」

「怒鳴られて厭になったんじゃねぇんだ! 人を殺さないで責められるなんて、そんな商売が厭になったんだ」

「馬鹿野郎! ボスがお前を怒鳴ったのはな、お前が撃たなかったからじゃない、ホシを逃がしたからだ! 撃たなくて怒鳴られるぐらいなら、俺なんかとっくに……」

そこでゴリさんはおもむろに、枕元に置いたホルスターから拳銃を抜いてw、引き金を引きます。弾丸は入ってません。

「解ったか。ホシを追ってる時のデカには、後ろを振り向いてるヒマなんかねぇんだ。しっかりしろ!」

これも以前ご紹介した通り、ゴリさんはいつも拳銃に弾丸をこめない主義である事を示した場面ですが、上記の台詞だけじゃ視聴者に伝わらなかったかも知れません。

だけどマカロニにはしっかり伝わったようで、彼は再び捜査を開始します。そのバックに流れるのは「マカロニ刑事のテーマ(別名『行動のテーマ』)」で、この曲に乗せて刑事たちの捜査活動をモンタージュして見せる手法も後に定番となり、他の番組に模倣される事にもなります。

ユカのアパートを張り込みながら、マカロニは煙草を吸いまくりますw これも時代ですね。ショーケンさんの吸い方がまた独特で格好良くて、真似したくなっちゃいます。

この場面に流れる曲は『ブルージンの子守歌』(唄=萩原健一)、『太陽』挿入歌の第1号です。(スナックで流れた『少年の魂』はこれのB面)

ここで話は急展開します。口封じの為にマモルの生命を狙う拳銃密売組織が、マカロニの目の前でユカを拉致するのでした。

組織の連中はパークサイドのマスターをリンチし、それを見せつける事でユカにマモルの居場所を吐かせます。この組織は何だか無国籍な感じに描かれてて、ここにも日活アクションの名残りが感じられますね。

一方、七曲署チームも目撃者情報で組織のアジトを突き止め、舞台はトントン拍子に決戦の地(つまりマモルの居場所)=後楽園遊園地へと移ります。

『太陽にほえろ!』が掲げたポリシーの1つに「昼間のアクション」ってのがあって、従来の犯罪ドラマみたいな暗いイメージを避ける為、アクティブな撮影は昼間に、それも屋外ロケが多用されました。

だけど番組開始当時は、どこへ行っても(犯罪が描かれる事による)イメージダウンを恐れて、なかなか撮影許可が貰えなかったんだとか。

『太陽』は日本テレビ=読売系列って事で、何とか後楽園の使用が許可されたワケですが、番組の知名度が上がるまでは本当に苦労が絶えなかったそうです。(ヒットした途端にどこも手のひらを返して大歓迎。現金なもんです)

さすがは第1話だけあって、七曲署チームvs密売組織の大立ち回りにはボスも参加し、日活仕込みの華麗なるアクションを見せてくれてます。

この場面にゴリさん(入院中)がいないのが、唯一残念でした。ゴリさんのパワフルな立ち回りは『太陽』アクションを代表する見せ場ですからね。

マカロニはマモルを追って、再び走ります。遊園地から球場へと乱入し、ゴミだらけの客席をがむしゃらに走る2人の若者。追い詰められたマモルは、またもやマカロニに拳銃を向けます。

「撃てよ。お前もハジキ撃ってみろよ!」

「いや、俺は撃たねえ。拳銃置いて来たんだ。マモル! 俺だってお前と同じだよ。拳銃が好きだ。でも、俺が撃ちてぇのはお前みたいなヤツじゃねえんだ」

「うるせえーっ! 俺をナメやがって!」

逆上するマモルに、ボスの怒号が炸裂します。

「馬鹿者っ!」

ボスに睨まれると、あらゆる犯罪者がフリーズし、戦意を消失しちゃうんですよね。理由は、ボスだからですw

「早見の言う通りだ。俺たちは人殺しじゃない。お前だって人を殺したくて殺したワケじゃあるまい? 銃を捨てろ。捨てるんだ!」

「……俺、ただピストルが欲しかったんだ。持ってみたかったんだ。ピストルってカッコイイもんなぁ」

最後に犯人が、泣きながら犯行動機やいきさつを語る描写も、定番中の定番ですよねw 『太陽』以前の番組にそういうパターンがあったかどうかは不明ですが……

『太陽』の場合は特に、全ての出来事を刑事側から描くドラマですから、犯人に心情を吐露させるのはこのタイミングしか無いんですよね。マモルはどうやら、拳銃を買った相手から脅迫されて、弾みで撃っちゃったみたいです。

「俺、初めから誰も撃つ気なんか無かったんだ。ホントだよ! ホントに、誰も撃つ気なんか無かったんだよぉ~!」

後の『傷だらけの天使』における「アニキぃ~」を彷彿させるw、水谷さんの泣き演技でした。

「ご苦労だった、早見刑事」

ボスはそう言ってマカロニの肩をポンと叩き、颯爽とひとり、歩き去るのでした。このパターンは『大都会』『西部警察』の渡哲也さんに受け継がれて行きますw

この場面で、ボスが「マカロニ」じゃなくあえて「早見刑事」って呼んでるのが、ちょっと不思議だったりします。もし、マカロニを1人の刑事として認めた事を表してるのだとしたら、ニックネームが「坊や」だった初期シナリオの名残りなのかも知れません。

さて… 事件は解決し、ゴリさんの病室でビールを乾杯するw、一係の面々。シンコが花瓶に花を飾ろうとしたら、既にステキな花の贈り物がそこに。「えっ、いったい誰が!?」と色めき立つ刑事たち。

そこで照れ臭そうにして部屋を出て行くボス、ってな場面もまた、『太陽』定番メニューの1つですよねw

外に出て煙草を一服するボスの横に、マカロニがやって来ます。並んで歩きながら、ボスがマカロニに語りかけます。

「もし、あの時… 犯人が拳銃を捨ててなかったら、お前どうしてた?」

「……ボスならどうしますか?」

「さぁな、俺にもよく分からん。だが1つだけハッキリ分かってる事がある」

「……?」

「それはな、人間が人間を平気で撃てるようになったらお終いだって事だ」

↑ このボスの台詞こそが『太陽にほえろ!』全エピソードに通底するテーマであり、それを極めてシンプルなストーリーで語りきった、実に素晴らしいファーストエピソードです。

この番組ほど、拳銃という小道具に対して真剣に向き合い続けた刑事ドラマは他に無かったと思うんだけど、それもこの第1話に凝縮されてますよね。

もちろん新人刑事の成長物語として、個性豊かなキャラクタードラマとして、さらにアクションドラマとしての面白さも全部詰まってて、このシンプルさ。

15年の長きにわたる歴史、その幕開けに相応しい、これぞまさしく「神」エピソードと言えましょう。

セクシー画像は、ユカ役でゲスト出演された鹿沼えりさん、当時19歳。この『太陽にほえろ!』第1話が女優デビュー作でした。

'78年の日活映画『時には娼婦のように』主演からロマンポルノの看板女優として活躍、'82年に5歳下の俳優・古尾谷雅人さんと結婚し、女優業を引退されてます。
 
コメント (2)
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