ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『出口なし』

2018-09-18 10:00:10 | 多部未華子



 
2018年秋、東京・新国立劇場にて鑑賞。記念すべきタベリストツアー第1回目で観た『サロメ』と同じ劇場です。(ただしサロメは中劇場、今回は小劇場)

参加メンバーはヤマリン王&パープリン王子に私という、前回の『オーランドー』と同じ。ゴンベ王の復帰を酒をご用意してお待ちしております。

演目は哲学者ジャン=ポール・サルトルによる戯曲を小川絵梨子さんが翻訳・演出された『出口なし』。登場人物が大竹しのぶさん、多部未華子さん、段田安則さんの3人プラス1人に限定された、上演時間約80分のワンシチュエーション劇です。

謎の案内人により謎の部屋に連れて来られた女2人と男1人。互いを知れば知るほど相容れない、相性の悪さを実感するにつれ、その部屋に閉じ込められた意味を三人は悟ることになります。

(以下、ネタバレです)



劇中でも早い段階で明かされますから伏せる必要も無いんだけど、三人はそれぞれ罪を背負って現世を去った死者。つまりこの部屋は地獄という事になります。

なるほど、針山や血の池に放り込まれるよりも、全く理解し合えない人間と一緒に密室で過ごす事の方がよっぽど地獄ってワケです。

私もかねてから、そういうシチュエーションに勝る苦痛は無いって思ってましたから、この設定にはすんなり乗って行けました。

加えて、若い女には興味がない段田さんが大竹さんに惹かれ、男嫌いの大竹さんが多部ちゃんに惹かれ、男に依存して生きる術を本能的に身につけた多部ちゃんが段田さんにひたすら迫るという、永遠に一方通行の三角関係。

変な話だけどウチの家族がそういう構図になってるんですよね。もちろん恋愛感情とかじゃないんだけど、一番自分を見て欲しい相手に全く見てもらえない無限地獄。よく解ります。

さらに、これが作者の一番描きたかった事みたいだけど、他者の眼を通してしか自分の存在価値を計れない地獄。鏡はもちろん窓ガラスすら無い部屋で、自分の化粧をチェック出来ない多部ちゃんがその苦しみを最も体現することになります。

つまりは他者にどう思われてるのかが全く読み取れない恐怖。私が単独行動を好むのも、常に「他人は他人」「自分は自分」と口にするのも、実は人一倍それを恐れてることの裏返しなんだろうなと、以前から自覚してたりします。

他にもっと深くて複雑なテーマがあるのかも知れないけど、比較的に分かり易い以上3種の地獄だけで、この物語を自分自身に置き換えることがすんなり出来ました。これまでタベリストツアーで観てきた6本の舞台の中で、本作が一番感情移入し易かったです。

でも、それが演劇として面白いのかどうかは別問題で、映画に例えるとハリウッド大作みたいに大掛かりだった『サロメ』や『わたしを離さないで』で味わったスペクタクル感は皆無で、日本映画が最も地味だった頃のATG作品を観てるような感覚w

私が観た6本の中で最も小規模な、言わばインディーズに近い舞台に超一流のキャストが出演してる不思議な感じは、多部ちゃんが主演した短編映画『真夜中からとびうつれ』を彷彿させるものがありました。

だから、もし出演してるのが無名で華のない役者さんだったら、果たしてこの舞台を楽しめただろうか?なんて思ったりもします。

逆に、純粋に役者さんの演技を堪能するにはこういう舞台が一番良いのかも知れないし、いろんな形があっていいんだと言うほか無いですよね。

タベリスト的には何と言っても、おそらく多部ちゃん史上初であろう「男に依存して生きるズルい女」の役を演じる多部ちゃんが見所です。

芯が強くて他者に媚びないキャラクターが持ち味であり最大の魅力なのに、それを封印して段田さんに甘えまくる多部ちゃんが見られたのは新鮮でした。「いるいる、こういう女」って、特に女性が眉をしかめるようなタイプのキャラです。私の職場にもいましたよ、ああいう女性w

それはともかく、ストーリーのまとめとしては、他者による自分の評価を気にしながら、いろんな他者と関わって生きていくのは地獄のようにツラい事だけど、一歩引いて客観的に見ればこんなに滑稽なんだよと。いくら悩んだって出口はどうせ見つからないんだから、開き直って気楽にやって行こうよと。多分そういう事なんでしょう。私もそうありたいと常々思ってます。

私としては自己投影しやすくて面白かったけど、尺が短くスペクタクルが無いぶん、物足りなさは否めませんでした。今回はお色気サービスも無かったし、良くも悪くも至極まともな演劇を観たなぁという印象です。

分かりやすく、しっかりした内容で、なおかつ安心して観てられる超プロフェッショナルな出演陣で本当に素晴らしい反面、何もかも整いすぎて退屈と言えなくもない。

すっかりナマ多部ちゃんに対する免疫も出来てしまった今、『サロメ』の時と同等の高揚感が味わえるのは、もはや多部ちゃんが脱いだ時だけかも?なんて言ったらマトモなファンに叱られそうだけど、それが私の偽らざる感想です。
 
コメント (2)
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『オーランドー』―2

2018-09-18 00:00:20 | 多部未華子






 
舞台『オーランドー』のパンフレットに、多部未華子さん、小芝風花さん、戸次重幸さん、池田鉄洋さん、野間口 徹さんの座談会が掲載されており、タベリストとして非常に興味深いくだりがありました。観劇が叶わなかったファンの皆さんへのお裾分けとして、その部分のみ抜粋します。


池 田「多部ちゃんとは映像での共演はあるけど、舞台は初めて。あらためて、すごい女優さんだなあと思います。まだ段取りで追われている時でさえ、しっかりと役に入っているように見えるから、さすがだなと思いました」

多 部「ここで皆さんにお訊きしたいです! 稽古というのは、段取りを覚える為ではないのですか?」

戸 次「というのは?」

多 部「私は、稽古はすべて段取りの為にあると思っているのです。感情が乗るのは本番だけで。それに、役に入るということもあまり分からなくて……」

池 田「あれで感情が入ってないんだ」

多 部「(演出の)白井さんが『今はざっくりでいい』と仰るじゃないですか。でも私は、稽古期間中ずっとざっくりなんです。稽古場で本意気を出すことは一度もなくて。それが例え通し稽古だったとしても、衣裳をつけたとしても。たくさん舞台に出ていらっしゃる皆さん方は、どのタイミングで本意気を出されるのですか?」

戸 次「僕は稽古期間中の後半かなあ。演出家にしてみれば、初日の幕が確実に開けられるという安心が早く欲しいと思うんです。だから『よし、これで劇場入りできる』と思ってもらえるものを見せようとしているかな。稽古の時は感情を入れないと多部ちゃんは言うけれど、本番のように自覚していなくとも少し滲み出ていると思うんだよね」

多 部「そうなのでしょうか……」

野間口「さっきから出ている『感情』のことを言えば、僕は稽古も本番も本意気ではないかも知れないな」

戸 次「おっと、もっと凄い人が現れた」

多 部「それは、どういうことですか!?」

野間口「感情が入る、というのを一度も経験したことが無くて(笑)、稽古中に全部システムとして身体に組み込んでいるだけだから。多部ちゃんは本番の時、お客様に乗せられる感じ?」

多 部「う~ん……自分の内面が変わる感じ、でしょうか」

池 田「感情の問題はさておき、本番に向かって徐々に上がっていく感じなの?」

多 部「そうですね。少しずつ周囲の声が聞こえてきて、皆さんの台詞や動きが徐々に分かってきて、全体が見えてくる、という感じかも知れませんね」

池 田「でも、我々コーラスがまだバタバタしている中で、多部ちゃんはオーランドーとしてしっかりそこに居る感じが伝わるから、凄いと思う」

野間口「そうそう」

多 部「あの、もうひとつ伺いたいのですが……コーラスを演じられる皆さんの、心の拠り所を知りたいです。私はオーランドー、風花ちゃんはサーシャと、私たちは役割が明確で、特に私は一人の人生を歩めるので分かりやすいのですが、皆さんは本当に色々な役で登場されるので、難しいだろうなと」

池 田「野間口くん、これまで拠り所を見つけて芝居をしてきた?」

野間口「やってないですね(笑)」

池 田「そう思った(笑)」

多部・小芝・戸次「あはははは!」

野間口「真面目に答えると、僕の心の拠り所はいつもお客様です。お客様がどう思うかな、というのを拠り所にしていますね。だから、僕が一番大事にしているのは、台本を最初に読んだ時の印象なんです。読みながら疑問に感じたことをチェックしておいて、稽古を進めていく中で、どうすればその部分をお客様にちゃんと伝えられるだろうと思いながら修正していますね」

↑ このくだりを読んで、同じ一流の俳優さんでも、人によって演技への取り組み方がこんなに違うっていうのが面白いと思ったし、本番しか感情を入れない(けど端から見れば稽古からずっと入ってるように見えちゃう)多部ちゃんに、本番ですら感情が入らない野間口さん等w、驚くと同時に「ああ、なるほど」ってw、何となくキャラクターと一致して納得しちゃいました。

それぞれの違いと言えば、次のくだりでは俳優さんたちの素顔がよく分かります。


多 部「さっき野間口さんの話をしましたけど、池鉄(池田鉄洋)さんも感情がすぐ顔に出ますよね。天性なんでしょうね(笑)」

野間口「僕は顔だけど、池鉄さんは全身に出ますよね。漫画でよくある負のオーラみたいなものがグッと出る時は、皆で一斉にハッと気づきます」

池 田「それは良くないね。気配りの出来る大人を目指して、一時期、自己啓発やアンガーマネジメントの本をたくさん買って読んでみたんだけど……」

多 部「そういう努力を!?(笑)」

池 田「でも、ちっとも変わらない。変わろうと思っているのに、全然変わんない。電車の中で邪魔になっている人にも、つい注意しちゃうし。顔に出るどころか、声に出して言っちゃう。もう感情を抑えられないんですよね」

野間口「僕たち似ていますよね(笑)」

池 田「役者は出すのが仕事じゃないですか。でも普段は抑えなきゃいけない。なのに、出ちゃうんですよね。いつか、ひどい目に遭うんじゃないかな(笑)」

多 部「私も思っていることが、つい顔に出てしまうみたいで……。だから池鉄さんのことは非難出来ないどころか、共感を覚えるくらいなのです(笑)」

戸 次「どこも触れられないような瞬間が時々あるけれど(笑)。それだけ大変な役というか責任を担っているから、ということだと思うよ」

多 部「というよりも、今回の座組は、自分の気持ちを素直に出しやすい雰囲気だからだと思います。だって、天真爛漫な人に、ご自身の意見をしっかりと持っている人、感情が顔に出る人に、はっきり意見を言う人が揃っていて(笑)、そこに小日向さんですから!」

小芝・戸次・池田・野間口「あははは!」

池 田「小日向さんは、素晴らしいです。あの穏やかな語り口調もそうだけれど、お日様みたいな雰囲気が有難いなあって思います。稽古中、自分の出番がない時でも、ちょっと雰囲気が悪くなってきたら、自然に和ませてくれるでしょう? 天真爛漫だけではないというか」

小 芝「稽古場がとても平和になります」

池 田「あなたにも助けられていますよ。稽古場ではいつもニコニコしてくれているので、和みます」

小 芝「いやいや、私なんて何も出来ていないですから。とにかく皆さんの中に入る為に、精一杯です」

↑ 補足しますと、多部ちゃんの仰る「天真爛漫な人」とは風花ちゃんのことで、「意見をしっかりと持っている人」が戸次さん、「感情が顔に出る人」が池田さん、仏様のように見えて実は「はっきり意見を言う人」が野間口さん、であると(それまでの流れから)思われます。

この座談会の他にも、演出の白井 晃さんと小日向文世さんの対談に、キャスト全員それぞれのコメントも掲載され、写真も豊富だし、当たり外れのありがちな舞台パンフレットとしては、とても充実した内容だと思います。
 
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