ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『わたしを離さないで』―2

2018-09-16 20:55:46 | 多部未華子







 
「ねぇ、私としてみない?」

「私、したくてしたくて我慢出来なくなっちゃう時があるの」

八尋(多部未華子)が言った中で、最も私の記憶に残った台詞ですw

実はカルタ遊びをするかしないかの話だった、なんていう下らないオチはつきません。これはズバリ、多部ちゃんがセックスを誘い、多部ちゃんがセックスしたくて我慢出来ない気持ちを、正直に表現した言葉なんです。セックスセックス。

いや、多部ちゃん演じる八尋の台詞なんだけど、目の前にいる多部ちゃんの小さな口から、あの美しい声で発せられた事実には変わりありません。

一緒に観てたタベリスト3人衆は、きっとドキドキしながら聴いていた事でしょう。もちろん私は、何とも感じませんでした。私だけは変態じゃないですから、是非とも私がお相手して差し上げたいって、ストレートに思っただけです。

『わたしを離さないで』とは、そういう演劇なのでした。(うそw)

時代設定は近未来になるんでしょうか? 海が近い場所にある寄宿学舎で、青春を謳歌する少年少女たち。彼らは、とある目的の為に生まれた「選ばれし子供たち」なんです。

(以下、ネタバレです)



その目的とは、最先端医療の為に臓器を提供すること。彼・彼女らは、その為だけに生まれ、育てられたクローン人間なのでした。

だけど人間ですから、恋もすれば性欲もある。そして、少しでも長く生きていたいという願望も普通に持ってる。いや、期限が決められてるだけに、その願いは普通の人間よりずっと強かったりする。

観ながら私は、ハリソン・フォード主演によるSF映画の金字塔『ブレードランナー』を連想してました。

労働用に造られたレプリカント(人造人間)達には寿命がプログラムされてるんだけど、少しでも長く生きる為に反乱したり逃亡したりするレプリカントを始末する殺し屋が、主役ハリソンの役どころでした。

だけど、逃げる女性型レプリカントを背後から撃っちゃう冷徹なハリソンよりも、ただ「生きる」って事に執着してるレプリカント達の方がよっぽど人間的に見えちゃう逆転の構図。

レプリカント達には、自分の幼少期や家族の写真をやたら集めたがる癖があるんだけど、それは自分が人間であると信じたいからなんですよね。だけど、それも人間達からインプットされた偽りの記憶である事を知り、絶望する。

多部ちゃんが……じゃなくて、八尋がやたら性欲にこだわってたのは、自分が普通の人間と変わらない存在であると信じたかったから、なのかも知れません。

レプリカントのリーダー(ルトガー・ハウアー)は自分達を設計した科学者に会いに行き、寿命を延ばす方法を聞き出そうとするんだけど、そんな方法は最初から無いんだと突き放され、逆上して科学者を殺しちゃう。

なのに、自分を殺しに来たハリソンが高層ビルから落ちそうになった時、思わずその手を掴んで助けてしまう。そして、ハリソンの目の前でその生涯を終えるんですよね。自分の死期を悟ったがゆえに、目の前にある生命を救いたくなった。

と、いうような内容でしたから、主役のハリソンが悪役のルトガーに食われちゃったってよく言われるのも、決して俳優としての力量で負けたワケじゃなくて、レプリカントこそが主役の物語だったから、なんですよね。

八尋もパートナーのもとむ(三浦涼介)と2人で、寄宿学校の校長に会いに行きます。本気で愛し合ってるカップルのみ、特別に延命が許可されるっていう、根拠のない噂を信じて……

物語としては、やっぱり絶望の方向に行っちゃうんだけど、観終わった時に決して陰鬱な気分にはならないんですよね。それはやっぱり『ブレードランナー』と同様に、ただ生きること、生きていられることの素晴らしさを、逆説的に描いてるからだろうと思います。

『ブレードランナー』にはいくつかの謎が散りばめられてて、その代表的なものが「ハリソン自身も実はレプリカントだったのでは?」ってヤツで、リドリー・スコット監督も実はそのつもりで撮ってたらしいんだけど、演じるハリソンは大反対だったそうです。

どう考えても、ハリソンが正しいですよね。ハリソン君は素晴らしい! あの物語にそんな仕掛けは全く必要ないし、かえってテーマがボヤケちゃうだけだろうと私は思います。

『わたしを離さないで』にも様々な謎が意図的に散りばめられ、ゆえに難解なイメージで見られがちなんだけど、多分そこに大した意味は存在しないんですよね。

だから上記のテーマさえ読み取れば、あとは無視するか、自分好みに勝手な解釈をすれば良いんじゃないかと、私は思います。

本当に素晴らしい舞台でした。演劇の醍醐味を教えて頂きました。寄宿学舎を中心とした大掛かりなセットの数々は、日本的でありながらイギリス的でもあり、古いけど新しさを感じさせる素晴らしい出来映えでした。

そんなレトロモダンな世界もまた『ブレードランナー』に通ずるものがあります。あるいは、特殊な少年少女達が、世間と隔離された場所で集団生活を送る様は、やはりハリソン・フォードが出演した映画『エンダーのゲーム』(エヴァンゲリオンの元ネタと言われるSF)をも彷彿させました。

大きな窓から吹き込んで来る風の表現や、突堤の向こうで波しぶきを上げる海の表現などは、USJのアトラクションを凌駕するほどの臨場感があり、そんな大セットがあっという間に入れ替わる場面転換の手際良さたるや!

また、大劇場の奥行きを最大限に生かした、スモークの表現。何十人もの少年少女たちが霧の向こうからスローモーションで現れ、また霧の向こうへと消えて行く場面は幻想的でありつつ、彼らが棲む世界が空間的にも時間的にも、世間とは隔離されてる事を実感させてくれました。

映像を使わずともこれだけの表現が出来て、これだけの臨場感を観客に提供する事も出来る。しかも、それが全て手作りの物であり、人間が目の前で全てを操作してる。

その温かみだけは、映像じゃどうやったって伝える事は出来ません。CGが進歩すればするほど、その差は大きくなっちゃう。

舞台演劇ならではの魅力って、こういう事なんですよね? 観客にストーリーを伝え、感情移入させるには映像の方が有効だと私は思うけれど、それとはまた違った感動が舞台にはあるんですよね。

少しずつだけど、解って来たような気がします。蜷川幸雄という稀代の演出家をリスペクトしてやみません。

だけど、これまで興味を持てなかった舞台演劇に私をいざなってくれたのは、我らがミューズ・多部未華子であり、敬愛なるタベリスト仲間の皆さんでもあります。ありがとうございます!
 
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『わたしを離さないで』―1

2018-09-16 15:55:04 | 多部未華子





 
2014年春、ヤマリン王、ディープ国のパープリン王子、そしてゴンベ王と合流し、埼京線で埼玉・与野本町へと移動、ファミレスで昼食後、予定通り彩の国さいたま芸術劇場大ホールにて、4時間弱の舞台を鑑賞。

ゴンベ王はトンボ返りで富山県に戻り、その足でお仕事へ。残った3人は『つばさ』以来のタベリストであられるMさんと合流し、一杯やりながら多部ちゃんを語り尽くしました。

素晴らしかったです。関東での公演は今回が千秋楽って事もあり、役者さん達も気合いが入ってたと思うし、大ホールを埋め尽くした観衆が10分以上に及ぶスタンディングオベーションで、クールに振る舞ってた多部ちゃんも最後には笑顔で、客席に手を振ってくれました。

内容は難解と聞いてたけれど、ラブストーリーとして観れば単純に楽しめるし、難解と言うよりは見方によって解釈の筋道が幾通りも出来ちゃう、極めて多面的なストーリーなんですよね。

だから2度3度と観れば感じ方は変わって来るだろうし、客席の場所(視点)によっても解釈が違ってるかも知れません。

とにかく一流の演出と一流の演技にどっぷり浸れる4時間弱、実に贅沢な時を過ごせて、私はとっても幸せでした。

千秋楽って事で、カーテンコールの最後には主役の3人に引っ張られ、演出の蜷川幸雄さんも登場されたんだけど、御歳78というそのお姿が眼に入った瞬間、なぜか私の涙腺が決壊しちゃいました。

久しぶりに拝見したお姿が、当然ながら以前よりも老けておられて、なのに現役バリバリでこれだけの大作演劇を創り上げられる、そのパワーと飽くなきクリエイティブ精神に、感嘆すると同時に感謝の気持ちがこみ上げたんだと思います。

もちろん、多部未華子、木村文乃、三浦涼介の主役トリオは言うまでもなく、脇を固める役者さん達の演技もパーフェクトで、本当に素晴らしかったです。一流シェフによるフルコースのご馳走を、お腹いっぱい頂いた気分ですね。

(蜷川幸雄さんはこの2年後、多部ちゃんと再びタッグを組んだシェイクスピア戯曲『尺には尺を』の稽古期間中に亡くなられました。合掌)
 
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『サロメ』―3

2018-09-16 12:40:08 | 多部未華子




 
とにかく、多部未華子の舞台は素晴らしかった。感動した。わしは演劇をあまり面白いと感じたことが無かったが、これには感動した。

未華子が農家出身のロリータを演じた過去の舞台も、ヤマリン王に見せてもらったが、あれも素晴らしかった。やさぐれた中年男が、自分の娘と変わらない年齢の少女に恋をし、救われ、破滅する物語だった。

いい歳をした中年男が、未華子のような若い娘に萌えるなど、とても考えられんことだ。絶対にあり得ない。奴は変態だな。奴こそ変態に違いない。わしとは大違いだぞ。違うか?

さぁ、踏んでくれ。頼むから、わしのここを踏んでくれ。サロメよ、お前は、いつになったら踏んでくれるのだ? まったく、どうすればお前は、わしのここを踏んでくれるのだ?

わしは今宵、陰鬱なのだ。わしは聞いたのだ、確かに聞いた。宙に乳首の羽ばたく音を。途方もなく巨大な乳首の羽ばたく音だ。だから、踏んでくれ。

な、頼む、サロメ。踏んでくれ、わしのために。もし踏んでくれるなら、欲しいものを何でも言うがいい、くれてやろう。わしの乳首以外なら、何でも欲しいものをやる。ゴンベ王の家にある酒も全部やろう。

「欲しいものなら、何でもくださるって、王様?」

何でもだ、このわしの乳首以外なら。わしの乳首だけは絶対にやらないが、それ以外なら、欲しいものを何でも、銀の大皿に載せて持って来てやろう。申してみよ。わしの乳首以外なら何でも手に入るのだぞ。さ、欲しいものは何だ、サロメ?

「ハリソンの乳首」

ならぬ、ならぬ! ならぬぞ、サロメ。そんなものを欲しがるでない。ハリソンの乳首はやれん。確かにわしは、わしの乳首以外なら何でもやると言ったが、ハリソンの乳首もやれん。

「わたしは、ハリソンの乳首が欲しいの」

良いか、サロメ、冷静にならんとな、ん? 冷静になるべきだぞ、違うか? 後生だから、他のものにしておくれ。ゴンベ王の酒、一年分でどうだ、それならお前は手に入れられる。ゴンベ王にとっては命より大事なものだぞ?

「わたしが欲しいのは、ハリソンの乳首なの」

ならぬ、ならぬ。サロメよ、お前は2年前に、カワタベの乳首を貰ったではないか。あの乳首はどこへやった? お前は一体、カワタベの乳首を何に使ったのだ?

お前に乳首を斬り落とされた哀れなカワタベは、去年から行方不明なのだぞ? あの男は、神から使わされた者なのかもしれぬ。いや、そうに違いない、あれは神の使者だ。

「ハリソンの乳首をちょうだい」

ならぬ、ならぬ。わしにそんなものを求めてはならぬ。恐ろしいことだ、そんなものを欲しがるとは、なんと恐ろしい。人間の乳首など、紛らわしいではないか? そんなものを求めて、何の悦びがあるというのだ?

「ハリソンの乳首を」

ハリソンは、確かに素晴らしい男だ。具体的に素晴らしい点は、特にこれと言って無いのだが、あれより素晴らしい男はハリソンしかいない。

だが、ハリソンの乳首はよろしくない。だいたいハリソンは、気が多い。多部ちゃん多部ちゃんと言ってる割には、ももいろクローバーZのアルバムを毎日のように聴いておる。

宮崎あおい、堀北真希、新垣結衣などにも見境なく萌えておるし、黒木メイサや仲里依紗が脱ぐのを心の底から祈ってるような男だ。

『あまちゃん』は大嫌いなのに、有村架純には一刻も早く脱いで欲しいし、能年玲奈もエネオスのCMで見直したらしい。あっ、エネゴリさんだ! おぉ~ 酒を持ってこい!

そのくせ、小泉今日子の顔は二度と見たくないと言う。節操がない上にロリコンなのだ。どうだ、ムカつくであろう? ムカつくし、なんとも気持ちが悪い。お前は、そんな男の乳首を欲しがるのか? 気持ち悪い男は、乳首もかなり気持ち悪いぞ?

「ハリソンの乳首をちょうだい」

お前は人の話をまるで聞いておらんのか? まあ、落ち着くのだ。わしか、わしは至って冷静だぞ。冷静そのものだ。いいか、よく聞け。ワオキツネザルにも乳首はある。琥珀色の瞳をしたワオキツネザルの、乳首を頭に浮かべてみるがいい。銀色の光線で繋がれたかのような、虎の目のように黄色い乳首だ。お前は、斬り落とせるか?

それだけじゃない、鳩の目のようなピンク色の乳首に、猫の目のような緑色の乳首。乳毛もあるぞ。とても冷たい炎で絶えず燃え続けているような、人の心を悲しませ、自らも闇の恐怖を孕んでいるような、乳毛だ。

「ハリソンの乳首をちょうだい」

もういい、わかった! もう踏まなくていい! わしの負けだ。わしに勝ち目は無い。さぞかし、気分が良いのであろうな。お前は、勝ったのだ。さすが我が姫だ。

何か言ったらどうだ? ん? 惨めったらしい負け犬のわしを、罵倒すればいい。口汚く罵ればよいのだ。隠語を交えながら、この上なく高飛車に、激しく、エレガントに、踏まなくてもいいから、せめて罵ってくれ!

「わたしを、離さないで」

……な、なに? 今、なんと言った? もう一度、言ってみてくれないか?

「わたしを離さないで、王様」

ちょっと待ってくれ。お、王様だなんて、他人行儀ではないか。な、名前で呼んでくれないか? 名前で呼びながら、今の言葉をもう一度……

「わたしを離さないで、ハリソン」

お前は、わしがハリソンだと知ってて、わざと困らせようとしたのか? そう、わしはハリソン。あんな、ヘロデのような、酔っ払いの変態とは全然ちがう。

照れ隠しに、わざと変態のふりをしていたのだ。本当は、踏まれたくも罵られたくもない。わしは至ってノーマルなのだ。ゴンベと一緒にするな。

お前は、わしの気持ちを知っていたのだな? そして、今、その気持ちに応えてくれた。ああ、サロメ、サロメ。頼む、もう一度だけ、お前のその美しい声で、さっきの言葉を聞かせてくれないか?

「わたしを離さないで、ハリソン」

わしは今まで、ずっとお前を見つめておった。ももクロを聴いている時だって、わしの心にはずっと、お前が映っていたのだぞ? お前の美しさは、わしの心を掻き乱した。そして、わしはお前をあまりに見つめすぎたのだ。

ならば言おう。お前は、わしが悲しい時、心が弱った時に見上げる、月だ。お前の笑った顔を見るために、わしはこうして生きている。わしは、お前を愛している。わしは、お前を離さない。永遠にだ。

「うん、ハリソン。わたしを離さないで……を、観に来てね」

もちろんだ、わしは行くぞ。例え宇宙の果てでも、愛するお前の舞台なら、どこへだってわしは観に……なに? ん? なんだと? 舞台だと?

「観に来てね」

……まさかとは思うが、サロメ。これは、宣伝ではあるまいな? もしかして、これは宣伝なのか?

なに? 主演・多部未華子? 演出・蜷川幸雄? 彩の国さいたま芸術劇場? タイトルが『わたしを離さないで』? 宣伝ではないかっ!

なに、共演が三浦涼介だと? あの三浦浩一と純アリスの息子か? まさか、それは本当なのか?

奴はケインだぞ! 『超星艦隊セイザーX』のおっとりヒーロー、ビートルセイザーことケインだ! お前に乳首を斬り落とされたカワタベは、あれの脚本を書いておったのだぞ!? あやつが今になってお前と共演するとは、何という因果か!

だが、わしは観に行かんぞ。死んでも観に行くものか。わしが3回にも渡って熱く語って来たこの記事が、すべて新作舞台の宣伝だったとはな! わしは大いに傷ついた! 大いに傷ついたぞ!

タベリスト同盟にも顔向けが出来ん。わしは、彼らの知られざる恥部を、ここで洗いざらい暴露してしまった。後頭部を修正して誤魔化したことまでバラしてしまった。だが、あれは見易くするための修正であって、捏造とは違う。毛根は、確かに存在します! 私たちは200回以上の植毛に成功しています!

わしは彼らに義理を通して、多部未華子の舞台は金輪際、観ないことに決めた。わしは絶対に観ない。わしは、義理堅い男なのだ。気前が良いのだ。

いや、やっぱり観に行こう。わしは未華子の舞台を観に行くぞ。必ず観に行く。なぜなら、木村文乃も出ているからだ。あれはいい女だ。実に素晴らしい女優だ。

未華子と違って、文乃は淑やかで、なんと言っても、胸が…… 未華子と違って、ちゃんとオッパイがあるからな。いや、実際のところはよく判らんが、いくら何でも未華子よりはあるだろう?

こらこら、痛い痛い。蹴るな。蹴るでない。なぜお前が怒る? ミカパイが小さいのは、別にサロメのせいではなかろう? 小さいものは小さいのだから仕方がない、無いんだから仕方がない。あー、ちっパイ、ちっパイ。

痛い痛い。まったく、お前の蹴りは洒落にならんな! 破壊力があり過ぎる。だいたい、お前が悪いのだぞ? お前が先に、わしを傷つけたのだ。しかも、お前は嘘八百を並べてわしを騙したが、わしは事実をありのまま言ったに過ぎないのだ。

違うか? これはただの、事実だ。文乃にはあって、未華子にはない。何がと言えば、オッパイがだ。いや間違えた、ちっパイだ。ミカパイはちっパイなぁ~ ほれほれ、ちっパイちっパイ♪

こら、やめないか。蹴るな、蹴るでない! 痛い、そいつはちょっと痛すぎるぞ。痛い痛い! わっはっはっは! もうちょっと下だ。

……そう、そこだ。そこを優しく、時に強く… ふっ、踏んでくれっ!

(2012年初夏、東京渋谷・新国立劇場中劇場にて観劇。オスカー・ワイルド作、宮本亜門 演出。タベリスト同盟が初めて集結し、多部ちゃん出演ドラマ&映画のロケ地ツアーも敢行した、忘れられない想い出です)
 
 
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『サロメ』―2

2018-09-16 05:55:06 | 多部未華子





 
滑った! 滑ったぞ、乳首ではないか! 悪い前兆だ。とても悪い前兆だぞ、これは。なぜここに乳首がある? その乳首は? なんでそんなところにまで乳首がある?

お前たちは、わしを、宵を催す度に、客人に乳首を見せねば気が済まぬ変態と勘違いしておるのか? わしは違うぞ。わしは断じて変態ではない。サロメ、早くここを踏んでくれ。

「あの日、新宿で…と仰いましたわね。新宿のどこへいらしたのかしら?」

ん? 何だって? 新宿のどこへだと? 新宿と言えば二丁目に決まっておるわ。誰だ、そんな分かりきった事を聞く愚かも… たわらば!? ヘロヘロヘロ、ヘロディア!? なぜ此処にいる!? ヘロディア、我が妻よ、我が王妃よ!

そなたは今、新宿と言ったのか? 新宿とは何のことだ? 地名なのか? 分からん。新宿など知らん。わしは新宿へなど一度も行ったことが無い。行ったかも知れないが、憶えておらんのだ。

わしが行ったのは、三つの県境にある大きな橋だ。ナベ卿に案内されて、タベリスト同盟の変態どもと一緒に橋を観に行った。正確に言えば、橋から見える風景を観に行った。とっておきの場所だ。

もっと正確に言えば、かつてサロメが座った場所に座るために行った。全員、1人残らず変態だからな。姫が尻をついたのと同じ場所に、その汚いケツを代わり番こに下ろしたのだ。鉄板だから太陽熱でケツが焼けそうになったわ!

証拠もあるぞ? 見ろ、ナベ卿が撮ってくれた写真だ。ヤマリン王、ゴンベ王、ディープ国のパープリン王子、そしてこのわしが写っておろう? 後ろ姿だが、間違いなくわしらだ。

なに? 4人とも後頭部が不自然だと? 言うな! それを言うでない! そなたにはナベ卿の思いやりが解らぬのか? それぞれが歳相応に変化しておるのだ。わし以外はな。

他にも、爽やかで出来た男と姫が出逢った学舎や墓地にも行った。駅も回ったぞ。新宿などとは違う、小さな駅だ。かつてサロメがアオチン姫に手を振ったホームで、わしらも同じように手を振った。変態そのものだ。

極めつけは川越だ。パパ卿に案内されて、変態4人が老体に鞭打って自転車を漕ぎ、汗だくになって町中を駆け巡ったのだ。死ぬかと思ったぞ。だが楽しかった。かけがえの無い思い出になった。ナベ卿とパパ卿には足を向けて寝ることは出来んのだ。

そんなワケで、わしは新宿へなど行っておらん。行っている暇などあるものか。新宿を去る者は、新宿を失う。それにカエサルは、わしの敵であるカッパドキアの王を、新宿に呼びつけることを約束してくれたのだ。あやつめ、新宿で身ぐるみ剥がされるかもしれぬ。つまり、いいか、彼こそが主なのだ。

「主は、来られた! 人の子は、来られた! 時は来た! ハリソンよ、さっさと本題に入れ!」

なんだ、ヨカナーン。まだ其処におったのか? お前はその貧弱な乳首でも洗っておれ。それに、わしはハリソンではない。ヘロデだ。王様だ。しかしハリソンは、素晴らしい男だ。まったく、ハリソンというのは、非の打ち所がないな。

おお! おお! 酒だ! わしは喉が渇いた。サロメ、サロメ、仲直りをしようではないか。とにかく、わかるであろう、……その、何を言おうとしてた? ん、何だった? ああ! 思い出した!

わしはあの日、新宿でプレイした後で、タベリスト同盟の連中と初めて顔を合わせたのだ。最初に、わしが新国立劇場の表で靴ひもを結んでいると、ゴンベ王が酒を呑みながら声を掛けて来た。

そしてイギリスのロックミュージシャンみたいな出で立ちをした、ちょっと若返った石橋蓮司が歩いて来たと思ったら、それがヤマリン王だった。

ディープ国のパープリン王子は、開演ギリギリまで身体を鍛えていたらしい。いつ何時、お前に踏んでもらえる機会が訪れるか分からないからな。

そうして変態4人組が集結し、なんと最前列で多部未華子の舞台を観ることが出来たのだ。すべてヤマリン王のお陰だ。初めて多部姫の舞台を観るわしは、たいそう緊張しながら隣を見たら、ゴンベ王が酒を呑んでいた。

舞台と客席の間は深い堀になっており、水が張ってあった。そこは地下の牢獄という設定で、開演前から成河という男がウロウロと歩きながら、観客に乳首を見せびらかしていた。

とにかく、奥田瑛二という役者が素晴らしかったな。いや、奥田瑛二の演じた役こそが素晴らしかった! あれは、男の中の男だ。世界一、いや、宇宙一の英雄だ。その妻を演じた麻実れいの存在感も凄かったぞ。他を圧倒しておった。

だが、なんと言っても輝いていたのは、多部未華子だ。よく通る美しい声、小さい身体で舞台中を駆け回る躍動感。延々と続く長台詞も淀みなくこなし、なんと危なげが無かった事か!

そして、純粋無垢な処女の清らかさと、淫靡な血を受け継いだ小悪魔の妖しさを同時に表現出来る才能は、演出の宮本亜門にして天才と言わしめた、多部姫ならではの本能的なものだ。

そんな多部姫が、わしら変態4人組の目の前まで迫って来た時、彼女は全身ずぶ濡れだったのだぞ? あの多部ちゃんが、未華子が、びしょびしょの濡れ濡れの状態で、しばらくわしらの目の前に立っておったのだ!

濡れている未華子を目の前にして、わしは一体どんな顔をして良いのやら分からず、目のやり場に困って隣を見たら、ゴンベ王が酒を呑んでいた。

(つづく)

 
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