ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』とMGCハイパト

2018-09-13 00:05:44 | 刑事ドラマ HISTORY









 
刑事ドラマ、多部未華子、ハリソン・フォード、マジンガーZ(のフィギュア)等、私のマニア心をくすぐる対象は色々あるんだけど、モデルガンもその中の1つだったりします。

銃が好きというより、モデルガンが好きなんです。なぜなら『太陽にほえろ!』の刑事たちが持ってた拳銃は、全てモデルガンだから。(もちろん設定上は本物ですが)

だから、本物の銃が欲しいとか、撃ってみたいとかいう願望は無いし、過去に集めてたモデルガンは、銃身が短いリボルバー(回転式)、つまり七曲署の刑事たちが使ってた、あるいは使いそうな物が大半を占めてたりします。

自分で映画を創ったり脚本を書いたりしたのも、七曲署の刑事みたいな役を自分でやりたかったからだし、多部未華子さんのファンになったキッカケすら『デカワンコ』←『太陽にほえろ!』ですから、私のフェチシズムってのはだいたい『太陽』から繋がってるんですね。

そんなワケで、私をモデルガン好きにしてしまった『太陽』と拳銃、モデルガンとの関係について、ちょっと語ってみたいと思います。

ちなみに、モデルガンというのは弾丸(の模型)の頭にキャップ火薬を仕込み、それを弾倉に入れて撃つと火花と煙とパン!っていう音が出る、限りなく本物に近いメカニズムを持った、精巧な「模型」です。

BB弾を発射するエアガン(あるいはガスガン)ってのは的に弾を当てて遊ぶ「玩具」であり、モデルガンとは趣が違ってたりします。ドラマや映画で使われてるのはモデルガンですから、私はエアガンには興味がありません。

で、『太陽にほえろ!』の歴史はプラスチック製モデルガンの歴史でもあります。番組開始当時(1972年)はちょうど金属製のモデルガンが法で規制された直後で、東宝や日活のアクション映画で使われたステージガンがテレビに流用されてました。

マカロニ刑事(萩原健一)も最初期は「日活コルト」と呼ばれる電気発火式のオートマチック拳銃を使ってましたが、回が進むとS&W風のリボルバー(やはり電気発火式)も使用。この時期は誰がどの銃を使うかっていう決まり事は無く、その時に使える物をテキトーに使い回してたような印象です。

そんな状況を一変させたのが、この年にMGC社から発売された初のプラスチック製モデルガン=ハイウェイパトロールマン41、通称「ハイパト」でした。

マカロニ編の後期から導入されたハイパトは、マカロニの愛銃として活躍した後、ジーパン(松田優作)登場以降は七曲署の制式拳銃として、シンコ(関根恵子=高橋惠子)を除く全員に使われるようになりました。

ハイパトは女性が使うには大きすぎる銃ですから、シンコだけは日活コルトらしきオートマチック拳銃を使用。あと、ジーパン編の後期からボス(石原裕次郎)がなんと、ルガーP08というスペシャルなオートマチック拳銃をしばらく使っておられました。

ルガーP08と言えばかつてドイツ軍が採用したオートマチック拳銃で、独特な外観とメカニズムを持つド派手な拳銃です。日本では後に『大追跡』の加山雄三さんや『大激闘』の渡瀬恒彦さん等も使う事になる、カリスマ・リーダー御用達の逸品であります。

それはともかく、リボルバーのモデルガンとして当時唯一の存在だったハイパトは、『太陽』のみならずアクションドラマ界で引っ張りだこの人気銃となり、後の『大都会 PART II 』でも優作さんはハイパトを愛用されてました。て言うか、城西署の制式拳銃もハイパトだったんですね。

実銃のハイウェイパトロールマン=S&W・M28は『ダーティハリー』で有名になった44マグナム=S&W・M29と同じサイズ(Nフレーム)ながら、38スペシャルなど標準サイズの弾丸を使う銃で、実際アメリカの警察官がよく使ってたそうです。

フレームのサイズが同じって事で、後にMGC社はハイパトをベースに44マグナムのモデルガンも発売。これまた’70年代後半のアクションドラマで大人気となり、優作さんも『俺たちの勲章』や映画『最も危険な遊戯』シリーズで使われてました。

44マグナムについてはまた別の機会に語らせて頂くとして、MGCのハイパトは銃身3.5インチというややコンパクトなサイズ(実銃のM28に3.5インチは存在しないそうです)で、刑事が携帯してもまぁ不自然ではない銃かと思います。

長身の優作さんには長銃身の44マグナムが一番似合ってたけれど、ハイパト片手に軽快に走り回る優作さんも、なかなかどうして絵になってました。

第72話『海を撃て!ジーパン』は、まさに松田優作&ハイパトの絶妙なコラボレーションを堪能出来る、ハイパト好きのガンマニアは必見のエピソードです。

射撃訓練場でボスがジーパンに射撃を指南する場面があるんだけど、石原裕次郎と松田優作が並んでハイパトを撃ちまくるという、『太陽にほえろ!』でしか見られない豪華な2ショットGUNアクションもあったりします。

で、ボスはほとんど百発百中の腕前なんだけど、ジーパンの射撃にはムラがある。

「拳銃にだって心はあるんだぞ、ジーパン」

警官だった父親が撃たれて殉職したせいで、ジーパンは拳銃が大嫌いなんですね。馬を嫌ってる人間が馬を乗りこなせないのと同じで(?)、ジーパンが拳銃を忌み嫌ってる限り、いくら練習しても射撃は上手くならないってワケです。

そんなジーパンに転機が訪れます。自分が拳銃を携帯してなかったせいで、同僚のシンコが犯人に撃たれて重傷を負ってしまう。それで目が覚めたジーパンは、拳銃と真正面から向き合う覚悟を決めます。

そしてクライマックス、モーターボートで逃げる犯人を追って、ジーパンがハイパト片手に疾走します。突堤の果てまで走ったジーパンは、慎重に慎重に狙いを定め、初めて人に向けて銃を撃つ。

この一連のアクションがとても丁寧に撮られてて、ジーパン編屈指の名場面となったこの映像は、後に優作さんの追悼番組やドキュメンタリー映画でも繰り返し使われる事になります。

とにかく優作さんの走るフォームが美しく、立ち止まって銃を構える、そして慎重に狙って撃つ、その一挙手一投足が痺れるほど格好良いんだけど、それだけじゃなくて、拳銃にジーパン刑事の魂がこもってるからこそ、屈指の名場面になり得たんですよね。

優作さんが、これほど気持ちをこめて銃を撃つアクションを演じたのって、もしかすると他に無かったかも知れません。

観てる我々も、本来は飛び道具に過ぎないハイパトに、魂を感じたりするんですよね。だからハイパトにとっても一世一代の名場面だったんじゃないでしょうか?

撃った後、ジーパンは呆然となって、自分の手に握られた拳銃を見つめます。その時、クローズアップで撮られたハイパトが、海をバックに反射光でキラキラ光るんですよね。

ハイパトが……と言うか拳銃が、これほど美しく撮影された映像も、もしかすると空前絶後かも知れません。拳銃に対して遺恨があるジーパンのエピソードだからこそ、なんでしょうね。

第82話『最後の標的』では、かつてゴリさん(竜 雷太)に射撃を指南したエキスパートで、殺人を犯してしまった元刑事(北村和夫)と対決する為、ジーパンは命中精度を最優先した拳銃を調達します。

それが「ミリタリーポリス22口径」で、ハイパトのフレームに細長い6インチの銃身をねじ込んだ『太陽』オリジナルのカスタム拳銃です。

S&W・M1917をイメージして製作されたようで、スラッと伸びた長い銃身が優作さんにピッタリで、以降ジーパン専用の銃として大活躍します。

さらにテキサス(勝野 洋)の時代に入ると、他にもハイパトをベースにしたプロップ(劇用銃)がいくつか製作されます。

例えばゴリさん専用としてS&W・M15(マスターピース)風の2インチカスタム、殿下(小野寺昭)専用としてS&W・M19(コンバット・マグナム)2.5インチ風カスタム、といった具合。

『太陽』は銃に関してあまりマニアックな描写はしない番組なんだけど、これほど凝ったオリジナルのプロップを、わざわざ各キャラクターに合わせて造っちゃう番組は他に無かったように思います。それだけ当時の『太陽にほえろ!』はスペシャルな存在で、製作現場に勢いと余裕があった、って事なんでしょう。

ジーパン編の最終回となる第111話『ジーパン・シンコ、その愛と死』は、『太陽』史上でも指折りのハードな銃撃戦が観られると同時に、かなりの異色作でもあります。

何しろ、あんなに拳銃を嫌い、犯人を1人射殺しただけでトラウマを引きずってたジーパンが、この回じゃ十数人に及ぶ暴力団員たちをバンバン射殺しまくるんですよねw

命中精度バツグンのミリタリーポリス22口径で、ハッキリと敵の眉間を撃ち抜く描写まであり、明らかにジーパンは殺意を持って撃ってますw

これは、モラルにうるさい『太陽』の作劇にストレスを溜めてた優作さんやスタッフ達が、現場にプロデューサーがいないのを良い事に「最後だし、やっちまおうぜ」ってw、その場のノリでやらかした事なんだそうです。

後で監督さんは大目玉を食らう羽目になるんだけど、この銃撃戦の最後にジーパン自身も殺されちゃうワケだし、銃の恐ろしさがリアルに伝わって来るこのシークエンスがあればこそ、この回がテレビドラマ史に残る名作になったんじゃないかと私は思ってます。

そんなワケで、実は『太陽にほえろ!』ほど銃という小道具をストイックに描いた番組は、他に無かったかも知れません。

拳銃を持ちたくて刑事になったマカロニ、拳銃に弾丸を込めない主義のゴリさん、拳銃使用に独自の哲学を用いるスコッチ(沖 雅也)、お坊ちゃんの道楽で射撃をやってたドック(神田正輝)etc……

そういう部分のみにスポットを当てても、語れる要素がいっぱいあるのが『太陽にほえろ!』の凄さじゃないかと、私は思います。
 
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする