東京都心部における第1ラウンドには辛うじて勝利したものの、兜 甲児もマジンガーZも満身創痍、そして光子力研究所も瓦礫の山と化しました。
兄・甲児へのバースデープレゼントを取りに戻った為に、避難が遅れた兜シローは重傷で意識不明、地下シェルターの医療施設で集中治療中です。
「シローとは血液型が同じです。すぐに輸血して下さい!」
「甲児くん! キミは戦闘で疲れている。いま血液を採ることは無理じゃないのかね?」
「大丈夫です。先生、お願いします!」
甲児の性格をよく知ってる弓教授は、彼の意志を尊重します。
「シロー、頑張るんだ。死ぬんじゃない。死ぬんじゃないぞ、シロー! 死んじゃ駄目だ、頑張れ!」
大量の血を抜かれて意識もうろうとしながら、甲児は心中で我が弟を励まします。
ただ戦闘で傷ついただけで終わらせず、こうして更に甲児=マジンガーZを弱体化させる念の入りよう!
決して、マジンガーZが弱いロボットだからやられるワケじゃないんだって事ですよね。創り手の愛を感じます。だからこそ忘れられない名作なんだと思います。
「それにしても酷い傷だ……」
「超合金Zが溶けるとはとても信じられん」
メカニック担当のせわし博士とのっそり博士が、かつて無い傷を負ったマジンガーZを見て驚嘆します。これでは修理にどれだけ時間がかかるか分かりません。
「いま攻撃を受けたら、研究所だけでなく日本全土の最後じゃ」
「敵はいったい何者なんだ!?」
弓教授の疑問に応えるかのように、不気味な声が外から聞こえて来ます。
「間もなくこの世の終わりが来る」
「あっ、予言者の声だ!」
「なにっ!?」
甲児、弓さやか、ボスが急いで外に出ると、例の予言者がまたマント姿で高い所に登ってます。ラストで明かされる彼の正体を思えば、何故こんな手の込んだパフォーマンスをするのか理解に苦しみますw
「兜甲児か……」
「あんたは誰だ!?」
「世界の危機を知らせる為にこの世に遣わされた者」
「なんだって?」
「残念ながら世界の各都市は破壊されてしまった。東京も攻撃を受けたが兜甲児、お前の活躍で壊滅を免れた。しかし、執念深い奴らは大軍を率いて、再度攻撃をして来るに違いない」
「奴らとはいったい誰なんだ!?」
「ミケーネの暗黒大将軍と7つの軍団」
「暗黒大将軍!?」
「暗黒大将軍が世界を征服する時、天と地は暗く、マジンガーZは死の苦しみを味わうに違いない!」
あまりに深刻な予言に空気が重くなる中、ボスが無邪気に質問します。
「ねえねえ、俺の未来を予言して!」
「お前は弾丸となって空を飛ぶだろう」
「うひょ~っ! ボロットが空を飛ぶんだとよ!」
どーでもいいボスの質問にまでちゃんと答える予言者も、何だか面白そうな人物ですw
その予言者は再びフッと消えちゃいますが、話を聞いた弓教授は何やら思い当たる節がありそうです。
「甲児くん、キミのお爺さんの兜十蔵博士が亡くなる前に不思議な言葉を遺した。地底に眠る7つの種類のロボット……人間、ケダモノ、鳥、魚、昆虫、爬虫類、悪霊……そして、暗黒大将軍」
甲児の祖父=兜 十蔵博士、すなわちマジンガーZの開発者です。
「どうやらそこに謎を解く鍵があるらしい。兜博士の遺品を調べてみよう」
結果、ミケーネ帝国とは約3千年前にギリシャ全域を支配してた大国で、大地震でほとんど滅亡したものの、地下に潜った一部のミケーネ人たちが自らの身体を機械化し、再び地上を支配する機会を伺っていた事が判明します。
前述の7つの軍団を束ねる総大将が暗黒大将軍ってワケですが、更にそのバックには「闇の帝王」と呼ばれる支配者がいます。その正体は、2018年現在に至っても謎のままですw
ちなみにマジンガーZの宿敵だったドクターヘルもミケーネ人の末裔で、バードス島に遺されたミケーネ戦闘獣の雛型を、機械獣として再生してたみたいです。もちろん本家ミケーネ帝国が完成させた戦闘獣の強さは、それを遥かに凌いでる。
「これが事実だとすれば、恐るべき敵だ」
「チキショー! 将軍か元帥か知らんが、そんな奴らに勝手な真似はさせられねえよ!」
「彼らを迎え撃つ手段が我々には何も無いのだ」
「マジンガーZがいるじゃないですか! そして我がボスボロットも健在ですよ? そんな奴ら捻り潰してやらあ!」
「マジンガーZは修理に時間がかかる! 今のままでは無力に等しい……甲児くんは分かってる筈だ」
「…………」
本来、甲児は誰よりも威勢が良い筈なのに、今回は押し黙ったまま。ミケーネの戦闘獣がどれほど強いか、実際に戦った甲児が一番よく知ってるワケです。
「どうなるの日本は? 世界は!?」
不安いっぱいで問いかけるさやかに、答えられる者は誰もいません。
無情にも、既にミケーネは暗黒大将軍の片腕「獣魔将軍」率いる戦闘獣軍団を日本に向かわせていました。人間型戦闘獣バルマン、アルソス、鳥類型戦闘獣オルビィ、昆虫型戦闘獣ワーダム、爬虫類型戦闘獣グロスデン、猛獣型戦闘獣ブルンガ、魚型戦闘獣アルギモンと、第1ラウンドより更に数が増えてます。
深夜、かろうじて潰されずに残った自室で独り、甲児は父=剣造と祖父=十蔵の遺影に語りかけます。
剣造はマジンガーZの兵器開発中に爆発事故で亡くなり、その後Zを完成させた十蔵はドクターヘルの刺客により、甲児の目の前で殺されました。
「お父さん、お爺さん……暗黒大将軍の誇る7つの軍団が、いよいよ攻めて来ました。それに、マジンガーZは傷ついています。しかし、このままじっとしてるワケには行きません」
甲児の様子を見に来たさやかが、その悲壮感に息を呑みます。
「マジンガーZは、暗黒大将軍の野望を打ち砕く為に、出撃しなければならない……正直言って、出撃することが怖い……」
初めて眼にする甲児の弱気な姿、その涙に、さやかもまた胸が引き裂かれそうになります。
「でも僕は、マジンガーZと共に命を懸けます。生死の間をさ迷うシローを残して行くワガママを、許して下さい……」
死を覚悟した甲児は出撃準備を整え、治療室のシローを見舞いに立ち寄ります。まだシローは意識不明ながら、どうやら一命は取り留めた模様です。
そこでいよいよ敵襲来のアナウンスが流れ、甲児は弟に別れを告げます。
「シロー、早く良くなるんだ。先生、シローのことは頼みます」
ドクターにシローを託し、出撃しようとする甲児を弓教授が呼び止めます。
「待ちたまえ、甲児くん!」
「出動させて下さい!」
「マジンガーZの修理はまだ終わっていない!」
「修理が完成するのを待っていられません!」
「甲児くん、キミは多量の輸血をして身体が弱っている。いま出撃することは、死を意味する」
「覚悟は出来ています。いま出動しなければ、世界は暗黒大将軍のものになってしまいます! 闘って、闘って、それでも適わぬ時は、マジンガーZと一緒に死ぬだけです!」
「甲児くん!」
教授の制止を振り切り、甲児はジェットパイルダーの格納庫へと駆け込みます。そこにはパートナー=さやかが待ち構えてました。
「甲児くん!」
「話なら後だ!」
「シロー君のプレゼントよ」
さやかは、シローが命懸けで取りに戻ったバースデープレゼントを甲児に手渡します。
「甲児くん……」
「…………」
もう、二度と会えないかも知れない……けど、何を言っても甲児の意志は変わらないって事を、さやかが一番よく解ってます。
無言で見つめ合う2人。脚本では、ここで2人がキスする展開だったのに、絵コンテの段階でカットされたみたいです。
アニメでは遂に描かれなかった甲児&さやかのラブシーン。2人に思いっきり感情移入してた私としては残念だけど、このストーリーの流れを考えると、カットして正解だったと思います。
さやかは何も言えないまま甲児の元を去り、パイルダーに乗り込んだ甲児はプレゼントの包みを開けます。中身は可愛いメロディーを奏でるオルゴールでした。
「シロー……ありがとうよ」
戦闘の傷跡も痛々しいマジンガーZが起動しますが、夜明けの直射日光を受け、よろけてしまいます。
「くそぉ、日の光で目眩を起こすなんて……」
操縦士が目眩を起こしても、ロボットまで普通よろけないと思うんだけどw、兜甲児とマジンガーZがもはや一体化してる事を、この映画はことさら強調してるんですよね。それがこの後の展開でメチャクチャ活きてくるんです。
ジェットスクランダーと合体し、飛行体勢になったのも束の間、悪霊型戦闘獣ダンテの放ったブーメランに翼を折られ、Zは墜落します。
「現れたな、化け物め! 光子力ビーム!」
しかし、ビームはダンテの身体(幻影?)を虚しく通過しちゃいます。
「フハハハ! 無駄な事はよせ。お前の力はこの私には通じない。それよりマジンガーZ、後ろを見ろ!」
Zの背後には獣魔将軍と7機の戦闘獣。ダンテを含めて敵は総勢9機! 第1ラウンドでZは4機を倒すのが精一杯だったのです。
「マジンガーZというのは貴様か」
「お前は何だ?」
「ミケーネ暗黒大将軍の片腕・獣魔将軍だ。お前を地獄に送る為に来た」
「笑わせるな!」
「相手はオモチャのようなロボットだ! 叩き潰せっ!」
「ふざけるなっ! 光子力ビーム!!」
如何なる状況でも強気の姿勢を貫く甲児&Zですが、全ての攻撃を跳ね返された上、片目を潰され、翼と放熱板を溶かされ、ロケットパンチも噛み砕かれ、あらゆる武器が無力化されて行きます。
「強い……手が出ない!」
「甲児くん、Zを諦めてパイルダーで脱出しなさい!」
光子力研究所では弓教授、さやか、ボス、所員らが固唾を呑んでモニターを見守ってます。
「くそぉ、俺が助けに行ってやりてえやい! しかし今からじゃ間に合わねえ」
「ボス、空を飛ぶのよ!」
「ええっ? どうやって!?」
「いいからいらっしゃい!」
ジェットスクランダー完成前でZがまだ空を飛べなかった頃、小型ロケット2機を両手に持って暫定的な飛行に成功した例がありました。
さやかはそれを応用してボスボロットの両足にスキーよろしくロケットを履かせ、まるで弾丸みたいに発射させちゃいます。予言通りですw 飛んだところでボロットが戦闘獣を倒せるワケが無いのですがw
……と思いきや、第1ラウンドで仲間をやられた恨みを晴らさんとZをいたぶる悪霊型戦闘獣ダンテが、カミカゼよろしく特攻して来たボスボロットの巨体をモロに食らって爆死した!
「兜、どうだ! ボロットの強さを見たか!?」
「ボス! 危ない!!」
昆虫型戦闘獣ワーダムの鎌で跳ね飛ばされたボロットは、そのまま光子力研究所までトンボ返りする羽目になります。
「トホホ、早いご帰還でした……」
こういったオチャラケ演出が必要か否か、意見が岐れるところかも知れませんが、あまりに絶望的なこの展開の中、一瞬だけ緊張の糸を緩める(チビッコ観客を怖がらせない)創り手の配慮なんだろうと思います。
しかも、弱点がまるで見えない悪霊型戦闘獣を一撃で倒したワケですから、ボスボロットもあなどれません。
だけどホッとしたのも束の間、戦闘獣たちの集団リンチは更に激化し、我らがマジンガーZはサンドバッグ状態。主役ヒーローがここまでズタボロにされちゃう作品って、他にあったでしょうか?
この映画の公開直前、私は子供向けテレビ雑誌(確か『テレビランド』)に掲載された本作のハイライト画像で、ズタボロ状態のマジンガーZを見て大きな衝撃を受けました。
無敵のスーパーロボットがここまでやられてる!っていうショックは勿論のこと、それと同時にズタボロのマジンガーZが「やけにカッコイイ!」っていう意外な発見。
それ以来、私は学校の授業中、教科書にズタボロのマジンガーZばっかり模写してましたw 別にドSな趣味じゃありません。どっちかと言えばドMな趣味でしょうw
大人になってから、私と同じようにズタボロのマジンガーZに魅せられたガキンチョ(当時)が無数にいる事を知りました。あれを再現したイラストやジオラマ写真がボビー雑誌に掲載され、フィギュアにもなり、漫画やアニメでリメイクされたりもしてるワケです。
生身の人間だと陰惨なだけなのに、ロボットだと妙に格好良く感じてしまう。マジンガーZだからこそ、かも知れませんが。
閑話休題。いよいよZはパイルダー(操縦席)の風防を破られ、巨大な鍬で腹部を串刺しにされ、岩壁に磔にされてしまいます。もう動けません。
獣魔将軍による電撃攻撃を受け、甲児も気を失ってしまいました。万事休す……このまま世界はミケーネ帝国に支配されてしまうのでしょうか?
そんなワケはありません。マジンガーZがここまで悲惨な目に遭わされたのには、次なるヒーローを引き立て、新番組を盛り上げるという目的があったのですw
そう、いよいよ「偉大な勇者」がやって来るのでした。
(つづく)