『満州国演義』第九巻には、引用したいところが山ほどあります。生活に追いつめられ、悩んで、決断して、日本をはなれ、/開拓民/開拓少年/開拓花嫁/として満州に渡った人たちが、逃げまどい、集団自決し、飢え、病気になり、ソ連軍におびえ、厳冬の収容施設で命をおとす。なぜそうなったのか。そこにいたる経過を引用したい。
しかしパスして、〈瀬島龍三〉に関する引用で最後にします。
「ヤルタ会談で、スターリンとルーズベルトのあいだで交わされた秘密協定だ。その協定とはドイツ降伏後にソ連が連合国の一員として対日参戦するということらしい。その暗号電報が握り潰された」
「だ、だれにです?」 / 「これも噂でしかなく事実のほどは不明なんだが、少佐時代に台湾沖航空戦勝利が誤報だったという電報を握り潰した大本営参謀の瀬島龍三中佐」
「それがもし事実としたら、何のためにそんなことを?」
「小野寺少将が送った電報が事実なら(ソ連が参戦するという電報)、大本営方針の対ソ静謐論は意味をなさなくなるだけじゃなく、実に危険なものとなる。対ソ静謐論を変更して対ソ戦に備えるわけにもいかない。精鋭師団は関東軍から引き抜かれて南方へ送られ、飢餓や病気で多数が死に、残っているのは傷病兵だらけ。とにかく、大本営にとってストックホルムからの暗号電報は事実であって欲しくない。それで電文を握り潰し、ソ連にアメリカとの講和を斡旋してもらうという路線を変更しないことに決めたんだと思う」
「問題はドイツ降伏の三カ月後だ」
「何があるんです、三カ月後に?」
「未確認情報だが、三カ月後あたりにソ連が対日参戦をする可能性が高い。 …… 小野寺少将が掴み、大本営に暗号電文で流したらしい。しかし、その電文は大本営参謀・瀬島龍三中佐によって握り潰されたとも噂されている」
「ヤルタ会談の密約についてはストックホルムの駐在武官・小野寺信少将が掴み、暗号電文を大本営に流したという噂を聞いている。それを瀬島龍三参謀が握り潰したともささやかれている。事実関係は不明だが」
「瀬島参謀ならやりかねませんね、台湾沖航空戦勝利が誤報だという堀栄三情報参謀の電文を握り潰したという過去も噂されてるしね」
参謀本部にいた瀬島龍三は、敗戦時にシベリアに抑留され、日本に生還してからは商社マンになり、功成り名遂げた。船戸与一はこの小説の中で、三度も同じ内容の噂、で瀬島を非難している。それをどう見るか。
ぼくは「参謀本部の連中が、瀬島にあらわれたように、/庶民/一般の人々/と、人間として向き合わない、モノか道具のように使い捨てる。都合のわるいモノは切り捨て、将棋の駒を動かすように引き回した」と思います。
参謀のこの感覚は、第一巻から第九巻までずっと同じです。あの戦争全体が、庶民のためでなかった。参謀本部は、庶民を、自分たちに都合のいいように、手足か道具のように動かそうとしました。
その精神がいまも、官僚や政治家にチラチラ見える。それが問題です。
しかしパスして、〈瀬島龍三〉に関する引用で最後にします。
「ヤルタ会談で、スターリンとルーズベルトのあいだで交わされた秘密協定だ。その協定とはドイツ降伏後にソ連が連合国の一員として対日参戦するということらしい。その暗号電報が握り潰された」
「だ、だれにです?」 / 「これも噂でしかなく事実のほどは不明なんだが、少佐時代に台湾沖航空戦勝利が誤報だったという電報を握り潰した大本営参謀の瀬島龍三中佐」
「それがもし事実としたら、何のためにそんなことを?」
「小野寺少将が送った電報が事実なら(ソ連が参戦するという電報)、大本営方針の対ソ静謐論は意味をなさなくなるだけじゃなく、実に危険なものとなる。対ソ静謐論を変更して対ソ戦に備えるわけにもいかない。精鋭師団は関東軍から引き抜かれて南方へ送られ、飢餓や病気で多数が死に、残っているのは傷病兵だらけ。とにかく、大本営にとってストックホルムからの暗号電報は事実であって欲しくない。それで電文を握り潰し、ソ連にアメリカとの講和を斡旋してもらうという路線を変更しないことに決めたんだと思う」
「問題はドイツ降伏の三カ月後だ」
「何があるんです、三カ月後に?」
「未確認情報だが、三カ月後あたりにソ連が対日参戦をする可能性が高い。 …… 小野寺少将が掴み、大本営に暗号電文で流したらしい。しかし、その電文は大本営参謀・瀬島龍三中佐によって握り潰されたとも噂されている」
「ヤルタ会談の密約についてはストックホルムの駐在武官・小野寺信少将が掴み、暗号電文を大本営に流したという噂を聞いている。それを瀬島龍三参謀が握り潰したともささやかれている。事実関係は不明だが」
「瀬島参謀ならやりかねませんね、台湾沖航空戦勝利が誤報だという堀栄三情報参謀の電文を握り潰したという過去も噂されてるしね」
参謀本部にいた瀬島龍三は、敗戦時にシベリアに抑留され、日本に生還してからは商社マンになり、功成り名遂げた。船戸与一はこの小説の中で、三度も同じ内容の噂、で瀬島を非難している。それをどう見るか。
ぼくは「参謀本部の連中が、瀬島にあらわれたように、/庶民/一般の人々/と、人間として向き合わない、モノか道具のように使い捨てる。都合のわるいモノは切り捨て、将棋の駒を動かすように引き回した」と思います。
参謀のこの感覚は、第一巻から第九巻までずっと同じです。あの戦争全体が、庶民のためでなかった。参謀本部は、庶民を、自分たちに都合のいいように、手足か道具のように動かそうとしました。
その精神がいまも、官僚や政治家にチラチラ見える。それが問題です。