老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

凄く美味しい

2022-01-30 09:21:37 | 老いの光影 第7章 「老人のねがい」
1789 凄く美味しい



家族のために食事を作っている
85歳の婆様のお名前は、渡辺香菜婆さん
要介護1の認定を受け、週に2回小規模デイに通っている

彼女の右足は交通事故の後遺症により「く」の字に曲がり
両足はごぼうのように細い
長い時間立ち調理をするのは大変
両手の指はリウマチで反っている

デイに通う日もいつもの朝と同じく起き、朝食を作る
デイから帰ってもひと息つく暇もなく夕食をつくる
普通ならば「おばあちゃん夕ご飯ができたよ」の言葉を聞き、食卓に向かう
香菜婆さんは愚痴ひとつこぼさない

気分転換と足(脚)の筋力を維持も兼ねてデイに行ってみないか、と話す
彼女は「家を空けることはできない。やることもあるし」、と行けない理由を答える
「試しに一回だけでも行ってみないか」、と執拗に声かけする
隣にいた娘は「ばあちゃん、一度行ってみたら、行って嫌だったら行かなくていいし」

四日後、小規模デイ「青空の家」のスタッフは迎えに来た
「青空の家」についたら、手を消毒し、トイレに行く
用を足したあと洗面所で手を洗いうがいをする
テーブルにつくと、彼女の好きなコーヒーが出される
目を細めながら「美味しい」と、一言

昼食は手作りの熱々のハンバーグがだされ
一口食べたとき「こんな美味しいもの食べたことがない、凄く美味しい」、の言葉を連発

いつも家では作っている彼女
人に作ってもらい食べることがこんなにも美味しく、嬉しい
そんな彼女の気持ちが伝わってきたような感じがした

いまも香菜婆さんは「青空の家」を楽しみにしている
平日、婆さん4人をお供にして
駅前の美味しい珈琲屋さんに行った
淹れたてのコーヒーを味わえた香菜婆さんは至極満足な顔をしていた