自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

地域ミュージアムで考える(69)

2017-08-21 | 随想

8月20日(日)。日曜日ということもあり,ミュージアムは多くの来館者で一日ごった返しました。うれしいことです。

さて,わたしが案内役を務めていた時間帯,一人の青年がわたしに声を掛けて来られました。そのやり取りをご紹介します。内容はミュージアムの特性を活かす大きな手掛かりとなるように思えます。

館内の床に,ミュージアムの位置を象徴する一本の線を床テープで表示しています。白線の中央に赤線を重ね,だれの目にもしっかり触れるようにと考えたのです。じつに簡易な手です。これまではその表示がなく,貴重な財産“位置情報”が明示されていないのはあまりにももったいない,これを活かした集客努力がなされていない,との思いで,わたしの提案で実現したものです。はっきりいって,表示がなかったのは運営のあり方に甘さがあったからだとわたしは感じています。

そのライン上で,ラインを指差してわたしに語り掛けてこられたというわけです。

青 年「この赤い線は北緯〇〇度がここだってことですよね」

 

わたし「そのとおりです」

青 年「そうしたら,この線をまっすぐ伸ばして東へ東へどんどん行けば,アメリカ合衆国に行くのですか」

わたし「そうですよ,そのとおりです」

青 年「じゃ,海の上を歩いてまっすぐ行けば,アメリカに着く。へぇー! おもしろいなあ。そしてどんどん歩いて行ったら,またここに戻って来るってわけですか」

わたし「そのとおりです。日本では千葉県が東の端にあたります。こちらにご案内します」

千葉県から太平洋上に出てアメリカ合衆国に向かい,それに続く国々を書いた解説図をご覧いただきました。

青 年「わぁー。すごいじゃありませんか。夢があるなあ」

わたし「どんどん行くでしょう。すると,反対側から戻って来ます。反対側の説明図をご案内します」

その位置に移動。

わたし「最後が韓国。そして日本海を経て島根県に帰って来て,このミュージアムに戻って来ます。東へ東へ進むと,やがて西から帰って来るのですね。いかがですか」

青 年「ほうー! ぼくにはスゴイとしかいえません。海も山もどんどん通り過ぎて,ただ真っ直ぐに歩けばここにきっちり戻って来る。この線の表示,発想がいいなあ」

傍に設置して回転している大きな地球儀にはこの線が黄線で表示されています。この線と床の赤線とが重なります。それを解説することによって,さらに納得していただけたように思います。

 

青年との対話に,わたしはちょっとしたロマンを感じました。「これぞ,このミュージアムが拠って立つ原点なんだ」「もっとアピールしなくちゃ」という思いを抱いたんです。青年がこうなんだから,少年のこころをもっともっとくすぐりたいなあ。 

いずれ,テープに替えてカラー陶板でも埋め込み,もうすこし重厚な感じにできればと願っています。それはちょうど,グリニッジ天文台にある本初子午線の案内に近いものです。本家にはとても及びませんが,それを現代化して子どもをはじめとする来館者を引き付ける手にしたいのです。線上で記念撮影したくなるようなインパクトがあれば申し分ないのですが……。

新しい発想が生まれ,それが生かされる施設は停滞・退歩とは無縁でしょう,たぶん。わたしたちのミュージアムもそうありたいのです。