へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

寺ガールお寺に泊まる

2012-02-06 21:03:30 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

土曜日に須庭寺にやってきた寺ガールは、ご隠居さまと住職さまのぎっくり腰になりそうなくらいのはしゃぎっぷりのノリにのせられ、アメリカ軍の焼夷弾にも焼け残った境内を散策している。
「これがうまくいったら、宿坊でも始めんか」
ご隠居の言葉に、
「いいねえ、それ。寺ガール専門で1泊2食付、座禅、説法あり」
と、住職様は袈裟の袂からそろばんを出して、
「5,000円が相場だな」
「何をいうか、このナマグサ坊主、布団の上げ下げ、掃除までさせるとだな、4,000円で十分だろう」
「いやいや、そこはだな、食材費も考えないとだな」
ご隠居さまも電卓を出す。
「また始まったよ」
ぼくとたかのりは、あきれ顔。
「おい、おまえらヒマなら手伝え」
副住職さんがぼくらに、本堂を掃除しろという。
「今晩、もしあの二人が泊まるようならここを提供する」
「え~、マジ?」
本堂に何が出るか、わかってていってるわけ?
「俺はあんなちゃちゃらした女は嫌いなんだ。何が寺ガールだ。どこまで根性があるか、本堂で覚悟をしてもらおう」
ぼくとたかのりは顔を見合わせた。
「でも、ちっともこわくないよ」
「この世の中、おまえらみたいなやつらばかりではない」
副住職はそういって、意地くそわるく笑った。
「やだやだ」
ぼくらは文句を言いながら本堂の掃除にとりかかったんだけど、
「逃げ出すかなあ」
「確かめてみたいなあ」
と、やっぱり好奇心には勝てず、
「ぼくらもお手伝いしてお泊りしまあす」
と、いい、百合絵さまに喜ばれた。
百合絵さまの手料理は思ったより上手で、ことみさんも、
「やっと家事から解放された」
と大喜びで、小さい子供たちの世話をしていた。
そんな百合絵さんの心づくしの手料理と、住職様の説法ならぬボケ話、副住職の座禅と、
「やっぱ、来てよかったね」
「今夜、ホテルとっていなかったから、助かっちゃった」
と、寺ガールたちは大満足。
そして、本堂の須弥壇の前に布団を並べて寝たんだけど、翌朝全員が寝不足な顔で朝ごはんに現れた。
「おや、どうされた」
副住職は、左の眉をわずかに動かした。
「夜中、なんだか物音がして…」
「寒気がして」
「なんだか人がいるような気配がして」
と、しくしくと泣きだした。
「本堂とはそうしたものです。安息の場でもあるのですから」
副住職さんは、わざとらしくおごそかな声を出す。
「安息?」
3人の寺ガールは、再び青ざめると、
「やっぱり、お寺って遊びにくるところではないのですね」
と、口々に言い、百合絵さんの客間で休んでいきませんか?という申し出も断り、須庭寺を後にしたのであった。
「たかのり、細太郎」
副住職さんは、3人の姿が消えるやいなやぼくらの耳をつかみ、
「いたずらしやがって」
と、蹴とばされた。
「ばれてた?」
「みんなも協力してくれたよ」
ぼくらは、ダミーのご本尊さまにからまっている関ヶ原のおじさんと鳥羽伏見のおじさんを指さした。
「てめえらあ、先祖の霊をこき使うとは何事だ」
副住職さんの怒りにも、ぼくらは悪いことをしたとはちっとも思わなかったのだ。
う~ん、ぼくら罰当たり?

コメント (1)
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寺ガール

2012-02-06 07:22:21 | へちま細太郎

おはようございます、へちま細太郎です。

先週、野茂と大げんかをして以来、面白くない。面白くないことに、野茂は学校を休んだ。
休んだ理由がインフルエンザときて、ふんざまあみろ、と思ったもんさ。
週末に入って、またもやヒマになったぼくはたかのりと遊びにいった。
「百合絵さん、割烹着だなんて、イメチェンしすぎですよ」
たかのりは、口が達者でしかも減らない。
「シスターの服の下は坊主かと思いましたよ」
「去年はお式まで美容院へいけませんでしたから、伸び放題でしたのよ」
ジーンズに割烹着姿の百合絵さんは、それはそれで初々しい。
いったいこの人はいくつなんだ。
「このおばさんは、姉ちゃんといっしょだからな、不惑をとっくに超えている」
副住職さんが火鉢で餅を焼く。
本堂には暖房器具を置いていず、須弥壇の前でぼくらは火鉢を囲んで茶飲みだ。
本堂は、須弥壇のある部屋が広く、両脇に14畳ほどの小部屋がついている。普段はふすまで締め切っているけど、法事などがあった時は開け放てばかなり広い座敷になる。
法堂は、本堂から渡り廊下でつながっていて、こっちは昔ながらの寒い作りで、ここで法事や葬式をしている。本堂を使えばいいのに、正座するのが嫌な檀家に文句を言われて法堂のみ使用になっているとか。
と、そこへきゃらきゃらした声が聞こえてきた。
「すいませ~ん」
副住職は若い女の声に、
「?」
と怪訝な顔をして、障子をあけて出ていくと、
「お寺拝観させてもらっていいですかあ」
と、若い女性が3人くらいたっている。
「当寺は観光寺ではないぞ」
と、すごんだ目つきをしてみたが、
「かまわぬではないか」
「当節流行の寺ガールかの?」
住職さまとご隠居さまの声がする。
「はい、藤川家の菩提寺だったんですよね」
美都市の観光案内をぱらぱらめくる。
「なんでそんなのに載ってんだ?」
副住職は不機嫌になったが、
「拙僧がこの隠居と相談して決めた。見学自由、座禅OK、精進料理食べませんか」
という、住職さまのニコニコ顔にいっそう不機嫌になる。
「精進料理って、あんた昼飯はタイカレーだろうが」
「やん、お坊さんもタイカレー食べるんですかあ」
「昼がまだなら、食べていかんか?」
「嫁の手作りでな」
と、百合絵さんを手招きで呼び、
「住職の家内でございます」
と、挨拶して寺ガールをびっくりさせた。
「今はやりの年下婚ですかあ」
「わか~い」
「びじ~ん」
ご隠居さままで悪乗りして、
「わしゃ80過ぎたが、元気だぞ。ばあさあんをおんだしてわしと結婚せんか?」
と言ったもんだから、本堂前は大騒ぎになってしまった。
「藤川家は跡取りが独身バカだから、子供うんだらウハウハですよ」
たかのりもご隠居に調子を合わせたもんだから、余計盛り上がった。
「なんなんだ」
副住職さん1人が不機嫌だったが、ぼくらは副住職さんが焼いていたおもちを食べてしまい、副住職さんは余計に機嫌が悪くなってしまった。
知らんわ。

コメント
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