へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

宿泊学習初日

2009-05-07 14:39:54 | へちま細太郎
こんにちは、へちま細太郎です。

今日からぼくたち1年生は宿泊学習で、つくばった山のさらに奥の象山(ぞうさん)にある、学校の古い合宿所にきている。
管理人の人がいるだけで、あとは大学生の山ごもりとかゼミの合宿に使われる以外は、ほとんど訪れる人もいなければ、存在すら知られていないそうだ。
「今年は脱走するやつらがいるから、脱走不可能な場所に宿泊だ」
と、中島教授の嫌がらせとぼくらの行動に振り回された校長先生が、苦肉の策で出してきた案らしい。
合宿所の施設は、なぜか温泉つきですべて自炊という、まるで共同宿泊温泉施設みたいな雰囲気だった。
「こういうの、俺、きらいじゃないし」
といったのは上原で、
「飯盒炊飯好きだし」
は、川上だ。
「山歩きは得意技だ」
松井は運動靴の紐をきつく縛りなおして、屈伸運動を始めた。
「水の音がするから川が流れているんだろうね。後で魚を釣りに行こうか」
ぼくたちは口ぐちに勝手なことを話していて、だあれも先生の注意なんか聞いていない。
「いいかあ、ここいら辺の山はなあ、クマも猪も出るから勝手に合宿所を出ていってはいけないぞ」
クマなんているかい。
「万が一、迷ったりして遭難してしまうこともありうるからな」
何で先生たちの視線が僕たちのクラスに集中するんだ。
「とにかく、夜はみんなでカレーを作ることになっているから、それまで各担任の先生のいうことをちゃんと聞いて、各クラスでたてた計画に沿って行動するように」
学年主任の阿南(あなん)先生が、拡声器で怒鳴っているけど、
「各クラスで立てた計画ってなんだ?」
と、ぼくらは顔を見合わせた。
「知らねえよ」
「女子がたてたんじゃないのか?」
ぼくらは女子を見たら、
「大丈夫、適当に作っておいたから」
と、頼もしい返事がかえってきた。
「おまえ、しっかりもんだなあ」
鈴木が感心すると、
「まあね」
と、このクラス委員の女子…野茂がVサインを出した。
そんなぼくらと対照的に、どんよりと今にも気絶しそうな表情をしている担任の赤松先生は、他の先生たちの影に隠れるように小さくなっていた。
なんとなく気の毒だ。




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