古代日本国成立の物語

素人なりの楽しみ方、自由な発想、妄想で古代史を考えています。

◆途絶えた倭国による朝貢

2016年09月11日 | 古代日本国成立の物語(第一部)
 魏の後に成立した晋についても正史である「晋書」が書かれている。その晋書にある倭国に関する記述で特に魏の終末期以降の状況を見てみよう。

 まずは「晋書四夷伝(東夷条)」にある魏から晋に政権が代わるタイミングの記述。「宣帝之平公孫氏也、其女王遣使至帶方朝見、其後貢聘不絶。及文帝作相、又數至。泰始初、遣使重譯入貢(句読点は筆者による)」。当時の政治背景を含めて以下のように解釈できる。晋の初代皇帝である司馬炎(武帝)は建国後、晋の礎を築いた祖父の司馬懿を高祖宣帝と追号した。その宣帝である司馬懿は魏の時代、遼東を支配していた公孫氏を破った。公孫氏の影響を排除した結果、倭の女王は遣いを帯方郡に派遣して朝見を果たすことができた。以降、倭国は魏との朝貢を絶やさなかった。宣帝の子である文帝が魏の宰相となった後も倭国はたびたびやって来た。その後に晋が建国された泰始年間の初め(後述の武帝記の泰始2年の内容と同一と考える)、遣使が重ねて入貢してきた。
 魏の終末期に倭が朝貢を続けたことは倭人伝と整合がとれている。そして政権が晋に代わってすぐに朝貢してきたという。通説ではこの朝貢は台与によるものとされているが、少し詳しく考えてみたい。倭人伝の記述は張政の帰国に対して台与が掖邪狗らを随行させたところで終わっている。張政は来日した247年以降、卑弥呼の死、男王即位、内戦、台与即位の事態を経たあと、台与を激励して魏へ帰国した。台与即位の時期は247年の数年後といったところか。とすると泰始2年(266年)の朝貢まで10年以上が経過している。張政の帰国時において倭国と狗奴国の戦争状態は継続していたが、さすがに266年には終結していたであろう。そして「泰始初、遣使重譯入貢」の一文には「倭国」とも「倭国の王」とも「倭国の女王」とも書かれていない。このことから、泰始2年の朝貢は台与によるものと断定することはできず、むしろそうではない可能性が高いと言えよう。

 次に「晋書武帝記」の泰始2年(266年)の記述として「十一月己卯、倭人來獻方物」とあり、これは先の「晋書四夷伝(東夷条)」のことを指すと考えられるが、266年11月に倭人がやって来て産物を献上したことがわかる。ここでも倭人と書かれているだけで誰が誰を遣いとして送ったのかが書かれていない。いや、書かれていないどころか、その朝貢主体を倭国でもなく女王でもなく、ましてや邪馬台国でもない一般名称である「倭人」という表現にしている。その後の太康10年(289年)には「是歳、東夷絶遠三十餘國、西南二十餘國來獻」とあるが、この東夷絶遠の30余国を倭国と考える説もあるがここでは既に「倭人」の表現さえない。そしてこの後、倭、倭国、倭人など「倭」という語が登場するのは266年から数えると147年後、いわゆる空白の4世紀を経た義熙9年(413年)の次の記述となる。「是歳、高句麗、倭國及西南夷銅頭大師、並獻方物(この年、高句麗・倭国および西南夷・銅頭大師、並びて方物を献ぜり)」。ここでは「倭国」となっているが、相変わらずその倭国の王や遣使の名に触れることはない。

 以上の通り、晋書において「倭」は何度か登場するものの、その扱いは魏志倭人伝と比較にならないほど簡潔で内容が薄い。晋書は唐の太宗の命により648年に編纂された史書である。従来の史書はすでに誰かが書いた書物をベースに史書に仕立て直すという作業が行われたが、晋書においてはゼロからの書き起こしであった。それを前提に理解をしなければならない。つまり編纂時は過去の史実を全て把握した上でどうにでも話を作ることができたということである。当然、中国正統王朝である晋にとって都合の悪いことは書かれなかったはずである。魏の時代に狗奴国と戦っていた倭国が勝利し、晋の政権樹立に合わせて朝貢してきたとすれば、おそらくその事実は記録として残されたであろう。狗奴国を破って日本(少なくとも西日本)を統一した強国が朝貢してくるということは威信を示すには十分な事実である。逆に敗れていたとすれば威信を傷つけることになる。魏の時代に十分な応援をしただけに敗戦はなおさら伏せるべき事実であった。泰始2年に朝貢があったのは事実であろうが、それは倭国の王、すなわち台与によるものではなく、北九州倭国のいずれかの国が捲土重来を期すために晋の後ろ盾を得ようとしたのではないだろうか。しかし、晋にとっては敗戦国を支援することはもはや無意味であったろう。

 前漢、後漢、魏と続いてきた中国王朝と倭国の関係は狗奴国の勢力拡大による劣勢下で一気に冷え込むことになった。これが空白の4世紀の実態であったろう。この期間は日本側(倭国)からの朝貢が途絶え、中国王朝にとっても史書に記述するほどの価値がない国になってしまった。



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