名月をとってくれろと泣く子かな
小林一茶
「月夜野百景」の月の頁http://www.tsukiyono100.com/#!moon/c1hanでも紹介していますが、
古今東西、あの月をとってみたい、とって欲しいとの思いを表現したネタは尽きることがありません。
志賀勝さんの紹介していたフランスの民話に「お月さまのジャンたち」というのがあります。
ある年の4月、ある村でブドウの新芽が霜のために全部枯れてしまった。
原因は悪魔のような月のせい、というわけで、切れ者の村長はじめ村人たちが「月刈り」をたくらむ。
桶をかき集めてきて月に向かってせっせと積んでいくが、もう一つというところで月をつかまえることができなかった、という「あほう物語」。
どうも西欧では、歴史的に日本と違って月が悪者扱いされる話が多いものです。
それはともかく、この話、あまりにも月の捕まえ方がヘタです。
月を熟知している月夜野の住人は、こんなヘマはしません。
まず、私たちは正確な月の暦を持っています。
したがって、いついかなる時であっても、東の山から月が出て、西の山に落ちる時刻と場所をしっかりと知ることができます。
ですから、むやみに月を追いかけるなどということはしません。
ただ月が沈む西の方向の山に登って、そこで月が落ちてくる時間に桶を持って待ち構えていれば、
ちゃんとその桶に月はスポンと入るのです。
ただ、月夜野の月は残念ながら、他所の月よりはちと大きいのが難点。
普通の風呂桶ではおさまりきれません。
もうちょっと大きめの「たらい桶」を用意しなければなりません。
しかも、捕まえるときには絶対に角が欠けたなどということがあってはならないので、
ポリ製やドリフのコントで上から落ちてくるブリキのたらいではなく、
昔ながらの木の桶でなければなりません。
町から月夜野の西の見城山の山頂までは約1時間かかります。
このたらい桶をかついで月の入り時刻にあわせて見城山に登り、山頂で、はっと構えれば、すぽんと入る。
このタイミングは月夜野町の伝統技です。
もちろん、月を悪者扱いする西洋とは文化のレベルが違うので、私たちは当然のこととして
「キャッチ・アンド・リリース」
私たちが勝手に月を捕まえたからといって、明日、東の空から月が出てこなかったなどということは、これまで一度としてありません。
月とともに何千年も生きて来た月夜野の住民には、常識としてそなわっているマナーですからね。