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當麻寺 梅原猛に学ぶ世阿弥の世界(ノート)

2013年12月13日 | 歴史、過去の語り方

2013年5月に行った当麻寺、高野山、斑鳩の里の雑感は以前書きました。

http://blog.goo.ne.jp/hosinoue/e/ecec0200b5904f93c63e75178042a321

そこでは当麻寺についてはほとんど詳しく触れなかったので、ここにおさえておきたい資料と

梅原猛の世阿弥観にでてくる「当麻」の関連事項を、ちょっと面倒な引用が続きますが、

大事なところなので書き記しておきます。

 

 

『当麻曼荼羅縁起』 二巻本 鎌倉市光明寺蔵

 

一、「大炊天皇(淳仁天皇)」の御代、「よこはきのおとと」という人の姫、

  深く仏の道を尋ね、仏法の悟りを求む。

  それで「称讃浄土教」一千巻を書いて当麻寺に納める。

二、姫、出家。天平宝字七年(七六三)六月十五日のことである。

  そして生身の阿弥陀如来を拝したいと切に願うが、六月二十日、一人の老尼(化尼)が現れて、

  それならば、その御姿をお見せしよう、と言い、まず蓮の茎百駄を集めよと言う。

  姫は忍海連(おしぬみのむらじ)に命じて近江国からそれを集めさせる。

  老尼はその蓮の茎をたちまち糸とする。

三、初めて井戸を掘る。すると水が満ち、そこへ糸を浸すと糸は五色に染まった。奇瑞である。

  またこの地の奇瑞といえば、天智天皇の御代、井戸のほとりに、夜な夜な光を放つ石あり。

  その石の形、仏に見える。刻すると弥勒三尊であった。

  それで精舎一堂を建立、糸を染めた井戸の奇瑞によって、寺の名を「そめ(染)寺」とした。

  またそこにはかつて役行者が植えた一本の桜があった。

  その桜は霊木であったが、世々を経て朽木となった。

  しかしその霊験は残って種を残して花を咲かせる。

四、四月二十三日、若い女(化女)がやって来た。天女の如く美しい。

  この女は、灯火や織機を要求した。

  そして戌の時(午後七時)より始まり寅の時(午前三時)までのたった八時間で、

  縦横一丈五尺の曼荼羅を織り上げると、たちまちに、五色の雲に乗って去って行った。

五、そこには「九品浄土」の有様が見事に描かれていた。

  姫は、老尼に「あなたはいったい誰ですか」と喜びの涙を流しつつ聞く。

  老尼は、「我こそは西方極楽の教主(即ち阿弥陀如来)と言い、曼荼羅を織った織姫は、

  私の弟子の観音菩薩である」と言う。

  そして姫の涙もかわかぬうちに老尼も姿を消す。

六、それから十三年後、光仁天皇の御代、宝亀六年(七七五)三月十四日、姫往生す。

  そして姫を迎えに現れた二十五菩薩が、歌舞を披露しながら、姫を「極楽」へ連れてゆく。

 

これが「当麻寺建立縁起」の大まかなストーリーである。神仏の申し子である姫が、

念仏に依って往生したという奇瑞が哀しく美しく描かれている。

             (以上、梅原猛『世阿弥の神秘』角川学芸出版より)

 

 

「当麻」も「西行桜」と同じく甚だ花やかな美しい曲であるが、

    「西行桜」よりはるかに宗教性が深い。

「西行桜」を美の夢物語とすれば、「当麻」は美と宗教が一体となった夢物語と言えよう。

                                     梅原猛

 

 

役行者この仏庭に、末代の法苗のため一本の桜樹をうへられたり。

人みな霊木といへり。花のいろ芬ぷくせり。

そののちおほくのよよをへて、かけのくちきとなれり。

しかれともそのたねおひかはりて、はるやむかしのいろをのこせり。

かの霊地にあひあたりて、この井をもほられたるにや。

         (光明寺本『当麻曼荼羅縁起』)

 

ワキ 〽げにありがたき人の言葉、即ちこれこそ弥陀一教なれ

   「さてまたこれなる花桜、常の色には変わりつつ、

    これもゆえある宝樹と見えたり

ツレ 〽げによく御覧じ分けられたり、あれこそ蓮の糸を染めて

シテ 「懸けて乾されし桜木の、花も心のあるゆえに

   〽蓮の色に咲くとも言えり

ワキ 〽なかなかなるべしもとよりも、草木国土成仏の、色香に染める花心の

シテ 〽法(のり)の潤ひ種添へて

ワキ 〽濁りに染まぬ蓮の糸を

シテ 〽濯(すす)ぎて清めし人の心の

ワキ 〽迷ひを乾すは

シテ 〽ひざくらの

地  〽色はえて、懸けし蓮(はちす)のいとざくら、懸けし蓮のいとざくら、

    花の錦の経緯(たてぬき)に、雲のたえまに晴れ曇る、

    雪も緑も紅も、ただひと声の誘はんや、

    西吹く秋の風ならん、西吹く秋の風ならん

 

 

                 梅原猛『世阿弥の神秘』角川学芸出版

梅原猛のうつぼ舟シリーズ。

この『世阿弥の神秘』は、秦河勝をめぐる『うつぼ舟、翁と河勝』『うつぼ舟 観阿弥と正成』ほどのダイナミックな論理展開はないけれど、読んで良かった。

これまでの能楽の専門家たちが語ってこなかった世界。

お能についての専門書を何十冊読むよりも、このシリーズを読む方がずっと広く深く理解できる。

 

 

 

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