そもそも私たちは、政府の掲げる成長戦略をとても信じることができない。
そこそこの結果が出だしているようにも見えるが、およそ信じていない。
そんな国民は意外と多いのではないでしょうか。
わたしたちの業界は1996年をピークにずっと下降線をたどっている。
抜本改革は簡単なことではないことはわかる。
だからこそ、まずはデフレ脱却こそ最優先課題だという。
「世間」の景気浮遊こそが、解決の糸口であると。
ん~~ん、
振り返ってみて欲しい。
「失われた十年」をようやく脱却したかに見えた1990年代。
多くの人は忘れているか、いや記憶にないかもしれないことですが、2002年から景気は回復軌道に乗り出しました。
それは「いざなぎ超えの景気拡大」とも言われた。
いざなぎ景気の57ヶ月に対して、70ヶ月という記録的な景気拡大があった。
そんなことが最近あったなどと国民のどれだけの人が記憶しているだろうか。
実態はどうだったか。
浜矩子は語る。
「あのいざなぎ超えの景気拡大過程において、果たして、どれだけの人々が好景気を実感したか。どれだけの人々に新たな雇用機会が提供されたか。どれだけの人々が幸せを噛みしめたか。戦後最長の景気拡大の中で、人々はむしろ格差社会化の進行に伴う痛みを噛みしめたのではなかったか。(略)思えば、ホームレスと化す人々の増加も、ワーキングプアという言葉の流行も、ネットカフェ難民たちの出現も、いづれも、リーマン・ショックがもたらした現象ではない。まさに、あの『いざなぎ超えの景気拡大』の時期から、根を下ろし始めた問題なのである。」
浜 矩子の「新しい経済学」 グローバル市民主義の薦め 角川SSC新書 (角川SSC新書) | |
浜 矩子 | |
角川SSコミュニケーションズ |
景気拡大の数字がもたらしていたのは、所得の移転に過ぎなかったのではないか。
まずはデフレ脱却こそが、最優先の課題であるという経済政策の人々。
おそらくそれが今の多数派であることに間違いはないだろうと思われます。
私も、半分くらいは確かにそうだと思っています。
しかし、その先に行われることは、いつも騙されているのではないでしょうか。
国全体の数字を底上げするには、より影響力の大きい分野、企業の数字をあげることが先だという政策。(数字を出すためだけなら、おそらくそれは正しいだろう)
高額所得者が海外に逃げていかないような優遇税制にする方が、国の景気回復には大事。(目先の数字を出すためだけなら、おそらくそれも正しいのかもしれない)
でも、こうした政策の結果、世界でおきていることは、大手企業の史上最高利益の更新。
もちろん、ただ「大手」だから利益をあげているのではなく、それなりの努力を重ねた企業のみが利益をのばしているのはわかります。
個々の企業努力は大事ですが、国全体の数字、世界全体の数字でみれば、分母のベースは明らかに「金余り」こそが、底流の大きな流れ。
デフラ脱却の手だてをこうじるほどに、より利益の出しやすい海外へ円の流出を加速するのでは。
これらの結果、確実に進行してしまう「格差の拡大」。
財政再建のため、
景気回復のため、
まったく同じ言葉によって、まったく同じ構図のもとで、
使いたくもない言葉ですが「アベノミクス」は、過去の誤った方法論の上塗りをしようとしている。
株価の上昇や景気判断の上向きなどから、浜矩子の予測は外れた、1ドル50円時代の到来などはありえないなどを言っている人も多い。
でも、世界経済の基本構造の何が変わったというのだろうか。
強いアメリカの復活を標榜している都合、声高には言えないドル安誘導。
多くの国々がかつてないほど深刻な財政破綻と経済的行き詰まりの危機に直面し、その打開策として国内的な保護主義を強化するため、対外的には「自由化」をおしつけあう流れ。
アメリカが金とドルの交換を停止したニクソンショック以来、加速し続ける世界の「カネ余り」現象。
日本は「ゼロ金利」政策ベースによって、どんどん「円キャリートレード」で「おカネ」は海外へ出て行く。
それでも債券大国であり続けている日本の強さ。
こういうことを言い出すと、すぐに、あなたは経済成長そのものを否定するのか、と言われる。
とんでもない。
もちろん、今までのような経済成長は否定しますが・・・
「・・・・・新しいぶどう酒を古い革袋に入れる人はいない。もしそのようなことをすると、革袋は張り裂け、ぶどう酒は流れ出し、革袋もだめになる。新しいぶどう酒は新しい革袋に入れるものだ。そうすれば両方とも保たれる」(「マタイによる福音書」『聖書』)
産業革命から近代資本主義が発達して以来、今、世界ではどのような変化が起きているのか。
これから始まる未知の領域の答えを出すことは、確かに簡単なことではありません。
しかし私たちの暮らしを破壊し続けたこれまでの古いやり方を、やめること、脱却することをせずに、真の持続する成長と国民の幸せはありえないと思います。
常に辛口でズバズバ語ってくれる浜矩子さんは、えてして冷たい論客にみられがちですが、これほど血の通った経済学を明快に語れるひとをわたしは見たことがありません。
数字でものごとをより客観的に把握することは、決して間違いではありません。
数値目標を掲げることも間違いではありません。
しかし、社会の「価値」、人の「価値」を見ること、語ることのできない数字は、人間の学問ではありません。
大きな時代の変わり目の今、外してはならない大事な視点を、浜矩子さんは私たちに示してくれています。
成熟ニッポン、もう経済成長はいらない それでも豊かになれる新しい生き方 (朝日新書) | |
橘木俊詔,浜 矩子 | |
朝日新聞出版 |
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