トランプ氏がアメリカ大統領になることが決まって、一夜たった。
日本のメディアはほとんど討ち死にだったが、一社だけ勝ったメディアがあった。日経BPの日経ビジネスオンラインだ。ほぼ圧勝だろう。10月14日から「もしもトランプが大統領になったら…」という特集を始める。各界の論者に話を聞くという内容で集めた人物も政治家から経済界や哲学者まで含めた多士済々だ。だいたいのところはヒラリー優先で、あくまでももしもということなのだが、このころから始めているというのがすごい。その記事数16本。そして11月10日配信のメルマガでは16本!つまり「もしトラ」で準備をして、メディアとしても報道姿勢にバランスをとって置く。その際に有力な人を押さえておき、「万が一ですけど、トランプ氏が大統領になったらすぐにコメントが欲しい」といって約束して置く。もちろんヒラリーが当選したら話はそちらに切り替えるつもりでもあっただろう。その上多分、「もしも」が「もしかすると」に変わった先週末あたりから、午後4時くらいの時間を予約して、9日の11時ころフロリダが接戦になったあたりで準備を初めて、コメント取りに走ったとしか思えない。
そうしないと絶対に抑えられない人物がいるからだ。自民党の石破氏だ。もしかするとシン・ゴジラ特集からこの話は始まっていたのかもしれない。石破氏はこの特集でも出ているのだ。
なお石破氏は、日本の政治家にトランプ氏と知己の人は知らないといっている。確かに日本人でトランプ氏にインタビューしたのは一人しかいないと言われている。だが今日安倍首相とトランプ氏の会談が決まったことから、日本の外務省は早くから動いていたと考えられる。そして日本の安保問題を早めにブリーフィングしていた可能性が出てきた。
とにかく、この圧勝ぶりはぜひ見ていただきたいものだ。
石破氏はもしトラで「トランプ氏はトランプを演じている」といっていた。
WEDGE Infinityもこのサイトとしては頑張って4本記事が出ている。この中で秀逸なのが一本ある。「貴族だったトランプがアジテーターに転向した理由」だ。トランプ氏はそれこそアメリカのエスタブリッシュメントそのもので富豪から大富豪になった人物だ。しかも生粋のニューヨーカーで、父は中産階級から貧民へのアパート経営で財をなしたが、本人は金持ち相手のホテルやマンション、リゾートやカジノで財をなしたのだ。そういった人物がなぜこんな暴言を吐くのかというのを書いている。
アプレンティスというトランプの下でビジネスの手腕を競い合うテレビ番組があったが、そこでトランプは「クビ!」というのだが、実はこんな言い方だった。
「あなたは賢明な女性だ。だが、今回は売り上げが最下位になってしまった。ビジネスとは冷酷なものだ。君はクビだ。ありがとう。家に帰りたまえ」。
イメージがかなり変わるだろう。プア・ホワイトの語るような言葉ではない。それがなぜできるようになったのかだ。実はアメリカのプロレス団体WWEのオーナーだったことがある。WWEとは自分のホテルやリゾートでの興行で知り合いだったのと、オーナーのマクマホン氏とは1歳違いで共にユーヨーカー。で、このマクマホン氏が面白い人で、斬新なマッチメイクを考えたのだ。90年台後半にレスラーが冷遇されているとマクマホン氏にたてつくようになり、そしてマクマホン派と反マクマホン派に分裂、憎まれ役をオーナーが引き受けるのだ。札束で選手の顔をひっぱたくなどの演出や、反マクマホンからの攻撃を受けたりしていたようだ。その時の決め台詞は「お前はクビだ!」
で、トランプ氏と「お前はクビだ!」の言葉はどちらが先かで争うのだ。そうして大富豪の対決が始まる。自分の方がWWEをうまく経営できるといい、私の方が金持ちでハンサムで背も高いと挑発する。会場の天井で札をばらまいたりする。そしてついに対決するのだ。すっごいマッチメイクだよ。
「決着は、マクマホンとトランプがそれぞれ擁立したプロレスラー同士を戦わせるという奴隷戦士を決闘させるローマの貴族のような展開。さらにマクマホンがトランプの生え際不明瞭なヘアスタイルをからかって「負けたほうが丸刈りになる」というルールに決まった。試合はトランプが場外でマクマホンにラリアットをかましてなぜかKO勝ち。マクマホンはリング上でトランプのバリカンで髪を刈り取られ、WWEの株も買い取られた(というお芝居)。」
この試合はWWEの最高視聴率を取る。そこでWWEはドナルド・トランプ氏に殿堂入りさせた。確かにマクマホンにラリアット食らわせたのだからレスラーだったのかもしれないが、このアングルはクラクラする。そしてのちにWWEの株式を2倍の価格でマクマホンに返すのだが、これまた良くできた試合だった。
この時に覚えたプアホワイトの取り扱い方が、今回に生きたというのだ。00年に大統領予備選に出た時にブキャナン氏を下品だと思ったトランプ氏は、下品でないと票を取れないとわかってやっていた。そう考えると、トランプの策士っぷりが感じられる。
まあ、本当に仮面でなければいいのだが。CNNだが、「フィリピンのドゥトルテ大統領が「トランプ大統領を祝福したい。万歳!」と表明。さらに、「2人は共に悪態をつくのが好き。ささいなことでもののしることで似たもの同士」とも続けた。」と書いているが、全然似ていないから。
とはいえこの二人の会談が早く始まらないかと、世界中が楽しみにしているだろう。私の周辺でも、この対談があるといえば、だいたい爆笑してくれる。
ただ世界の趨勢は決定したと思う。この10年の流れは全てトランプ大統領出現という現象で一点に絞られた。資本主義の現状とその割り切れなさが、極端な保守派へと人を向かわせている。ポピュリズムはもしかすると正しいのかもしれない。タイのタクシン政権から始まる、いやもう少し前からなのかもしれないが、イギリスのEU離脱やヨーロッパの極右の拡大や、フィリピンのドゥテルテ大統領の出現も、貧富の差を超えた怨嗟を感じる。
怨嗟を拡大すればそれは中東の話であり、アフリカの今の話でもある。そうアフリカの今なんか誰もわかんないよね。国を超えて部族間調停という世界では、正しさなんてもう過去の話なのだ。妥協のためには人権侵害もありうるという話になっている。
もしかするとアメリカが増大させた資本主義が、今世界中から拒否されつつある、その中にトランプがいるとすれば、さらなる混乱が起きるだろう。
ビル・ゲイツとバフェットは賢いのかもしれない。早々とそこから逃げた。
トランプも逃げる最高の戦略として、大統領選に臨んだ可能性もある。
なおアメリカに工業が戻るのかといえば、私はかなり悲観的だ。サービス業でもかなり難しいだろう。プアホワイトというレベルが、なぜプアなのかという話なのだ。言い訳するのはまだ可愛い。サボる。盗む。そういった話はよくある。ボスに魅力がないからだ、そう言われるとどうしようもない。ザッポスの成功は有名だが、そこでは共感できない人は採用しないというのがある。つまり最初っからサボる人は採用されないのだ。そして過酷と言われるアマゾンは、そうしないとダメだったからだと、真面目に思っている。
ただ、こういった話をすると日本人はそうならないという人がいる。日本人には勤勉のDNAが組み込まれているという人もいるが、現実はまったく違う。貧困は未来がないことだ。未来が少しでもあれば勤勉であろうと努力するが、未来が窺い知れなければ、人は必ずズルをしようとする。それだけの話だ。今ある状況が変えられないのであれば、楽な方向に人は必ずゆく。
二極化というのはそういったことだ。
コモンウエルは確実に喪失した。資本主義は次の段階に移らなければいけない。それは共産主義ではないのは間違いがない。だがそれが民族主義や宗教原理派に移っているのが問題なのだが、誰も言葉を持つことができない。いっそAIに任せてしまおうかとなりそうなのは、さらに怖い。