先週、知り合いの方より招待券をいただき、歌舞伎座9月興業2日目の昼の部と夜の部を通しで見物させてもらいました。座席がまた自腹ではとっても厳しい等級の場所だったのも豪華で、こんな贅沢をさせてもらえるなんて、何かバチが当たったらと思いました。
もともと今月はかねがね吉右衛門丈には上演してもらいたいと思っていた「競伊勢物語」という演目が出るということを聞いて、自腹を割いてでも観に行かなければ、と思っていたので、それをよい席でご招待いただけるなんて願ったり叶ったりです。お世話になっている日本人形玩具学会の歌舞伎観劇歴大ベテランの先生にもご同行いただきました。その眼目の「伊勢物語」は昼の部のおわり。東京での上演は国立劇場で十数年前にあったかと思いますが、わがままながら当時の配役では観たい行きたいと思わなかったので観ていません。それ以前の東京での上演は昭和40年の歌舞伎座以来ということになり、自分にとってはいつかは吉右衛門丈によって見せてもらいたいと願っていた幻の演目です。
初めて観た印象は流石聞きしに勝る重量感のある演し物だな、ということ、役者さんが揃わないと出せない演目であり、ずーっと出ていなかったのもそんな理由からか、、とも思いました。芝居の綾といいたっぷりとしたもので、正直昼の部の3つの演目の最後に来るのは当然ながら前の2演目を省略してでも「伊勢物語」に集中して観るべきくらいのものだと思いました。人の好みにもよりますが、自分だったら「伊勢物語」だけに観る体力を貯めて臨んだほうがもっとしっかり感じられるだろうと思いました。
昼の部だけでもお腹いっぱいなのに夜の部も見せてもらえるなんて贅沢すぎ。夜の部は「先代萩」の通しで「竹の間」も出ました。これも自分のわがままなのですが「先代萩」だとどうしても関心が「竹の間」「御殿」「床下」までに集中してしまいます。これは人それぞれ好みとか、思い、ご贔屓の役者さんの違いなどで同じ舞台でも目に映り方が違うかもしれませんが、今回の「先代萩」の「御殿」はひどく疲れました。なぜそう思ったかといえば、院本狂言(義太夫節に乗って進む芝居)の代表作のひとつであるのに今回の芝居の進行は何故か「意識的に糸に乗らない」ような印象が強く、チョボ(義太夫節)のテンポがやたら押さえられて渋滞している、子役の演技から鳴りもののテンポまでひどく遅く感じられたのです。その昔、歌右衛門さんの御殿では世評ではやりすぎ、しつこい,長いというような事を言う人もいましたが、それに比べると今回のはもっと長く感じました。そこにどんな差があるかと言えば、歌右衛門さんはチョボに乗るところはたっぶり乗っていたし、子役への思い入れがしっかりあり、単なる手順というものを感じさせなかったように思うのです。今回は「まま炊き」の手順が渋滞しているように感じました。その上「後にはひとり政岡、、」からの愁嘆場になっても内輪というのかドライというのか悲しい気持ちがうわーっと来るというのではなかった感じがしました。あと「松島」が出ないのも変わってましたね。終盤の流れがいつもと違って「天命思い知ったるか」で幕になる手前で流れが変わるんです。
正直今回の「千代萩」の「御殿」までは本当に疲れました。家に帰ってから昔の動画で現・猿翁さんの壮年時代の「御殿」のさわりを観たのですが、こっちは当てすぎるくらい糸に乗り過ぎくらいの芝居なのですが、今回の「御殿」のあと観てみると、昔の動画のほうが何か居心地のよい世界のようにも感じました。でも今回の八汐役の歌六さん、昨年末の岡崎以来の好演できっちり押しのある芝居でよかったし、沖の井の菊之助さんもしっとりよかったと思います。昼の「伊勢物語」の信夫もよかったし菊之助さん大当り。そして吉右衛門丈あってこその歌舞伎の醍醐味ですね。
贅沢させてもらって言いたいこと言って生意気??? でも観客のひとりとしての与えられる自由ではないかとも思います。それにしても今月「伊勢物語」を見せてもらえてよかったです。
幕間には先生に買ってきていただいた「弁松」のお弁当をいただきました。極楽極楽、、。