前々回からの続きです。
今回の真空管アンプキット「2A3」の製作を依頼したMさん(奈良)は、まるで我が家の専属エンジニアみたいで非常にありがたい存在である。
これまでプリアンプを3台、パワーアンプを4台(いずれも真空管式)、それぞれ改造や修理をしていただいたが、アンプを作る人は専門店を含めて個人的にもいろいろ存じ上げているが、なぜ、これほどまでにMさんに固執するかといえば、それはMさんが「この上なく良好なSN比」に象徴されるハイテクニックもさることながら、非常にクラシック音楽を愛好されている方だからである。
「マタイ受難曲」をはじめ、バッハの音楽をこよなく愛されていることにたとえようもない安心感を覚えている。「アンプの設計、製作者には音楽的な資質、教養を必要とする」というのが、40年以上に亘ってオーディオの迷路をさまよってきた自分が秘かに持っているポリシーである。
その理由はあえて記載する必要もあるまいが、「オーディオ機器は単なる工業製品ではない」ということだけ付言しておこう。この件は突き詰めるとかなり奥の深い話になるので別の機会に~。
さて、今回のアンプだが最初から組み立てていただくのはこれが初めてである。これまで改造、修繕ばかりお願いしていたので、思い通りの設計や組み立てというわけにもいかず、さぞやストレスが溜まっていたに違いないと推察しているがどうだろうか。
したがって、今回は思う存分に腕を振るっていただきたいところである。たいへん手前勝手だが(笑)。
当初のご連絡では、「作業マニュアルの1頁分を1日のペースで仕上げます。したがって真空管の送付は来週末(16日)頃に」ということだったが、さすがに練達の士、途中からあっという間にペースが速くなって、12日には「真空管を送ってください」というメールが入った。
そこで、オリジナルの出力管「2A3」(RCAの1ペア)と、それを駆動する真空管「6SL7GT」を4ペア送付した。
その4ペアの内訳とは、左からアメリカ製で銘柄が「GE(1950年代)、シルヴァニア、RCA」の3ペアと残る1ぺアはイギリス製の「STCのCV569」。ちなみに「STC」は周知のとおり欧州のウェスタンと称されている古典管の銘柄である。送付するときに、この4ペアをそれぞれ試聴して、音質のいい順に番号を振ってくださいとお願いしておいた。
超シンプルな回路なので、きっと真空管の性格がモロに反映されるに違いない。まさにオーディオの楽しさ満喫といったところ。
そして、13日(水)に真空管到着後の第一報として次のようなありがたいメールが届いた。
「一発で鳴りました!!各部の電圧チェック中の写真添付します。このあと、じっくりと2階で試聴させていただきます。コンデンサーは、以前のメインアンプに使用したブルーのブロックコンと同じドイツ製のF&T社のものです。」
ところがである。その後、あれほど几帳面なMさんからパタリとメールが入ってこないようになった。試聴に入ったはずの14日~15日の間、一日千秋の思いで待っていたのだがまったく梨の礫(つぶて)。
「ハハァ~ン」と、思い当たる節があったので16日(土)になって次のようなメールを送った。
タイトルは「中間報告を求めます(笑)」
「今日は、試聴の結果はいかがでしょうか?もしかして苦戦されているのではありませんか(笑)。超シンプルな回路の場合、蒸留水のように無味乾燥な音になる可能性があることを充分承知しています。こればかりは組み立ててみないとわからないことです。
そういうときは、高域専用に使いますので一向に構いません!PX25アンプを休ませることができるし、希少管が温存できます。これは狙いの一つとして、当初から織り込み済みです。
以上の話、もしかして自分の取り越し苦労かもしれませんがそのときは失礼の段、平にお許しを。 とにかく、あまり深刻にならなくて結構ですから、そのことをお伝えしたくてメールしました。」
すると、すぐに次のようなメールが返ってきた。
以下、次回以降に続く。