前々回からの続きです。
真空管アンプづくりを始めて60年になろうかという超ベテランの「M」さん(熊本県)がテレビで紹介されていた。
それによると、回路設計を含めて1台当たり2週間ほどで完成とのことで、「使う部品によって音が微妙に変わります。測定器で測れない音色や透明度は自分の耳で確かめるしかありません。」とのことで、これまで500台以上の製作を誇る。
「全国各地から問い合わせがあり、どんなアンプが来ても分かるし、直せます」と息子さん。
ところが、ご本人はいたって謙虚に「ほんとうに求めている音にはまだ到達できていません。究極の目的はいかに音楽を音楽らしく聴けるか、それを真空管を使ってどこまで追求できるかということです。」
「いつまでアンプを作り続けますか?」の問いに対して、「死ぬまでと、言いたいところですが、ま、時間と頭と体が許す限りそうありたいですね。」
見るからに好々爺といった感じの方でお人柄の程が偲ばれるが、朝からとても清々しい気持ちになれた番組だった。
「ほんとうに求めている音にはまだ到達できていない」とはとても印象的な言葉だが、まあ、それだけ欲が深いというのか、奥が深いというのか、これが「真空管アンプ・ビルダーの業(ごう)」というものかもしれないと、つくづく思った。
上達すればするほど現状に満足できなくなる、あの江戸時代の浮世絵師「葛飾北斎」(享年88歳)がそうですね。
臨終の間際に「天があと10年、命を長らえさせてくれたら本物の絵師になれたのに・・」あの天才と称された葛飾翁にしてこの言葉ですよ!
真空管アンプの深遠な世界に思いを馳せると、おそらく「永久に到達できない」というのが真理だろう。
さて、我が家にお見えになったお客さんの話に戻ろう。歩いて20秒ほどの所にお住いの「MI」さんである。
始めに聴いていただいたのは画像付きの音楽が分かりやすいだろうと、テレビに録画しておいたモーツァルトの「ヴァイオリン協奏曲」(ムター)だったが、イマイチ気乗り薄のご様子だったので、今度はアルフレッドハウゼ楽団の「タンゴ」に移った。
そして、とうとう遠慮がちに口にされたのが「幼い頃にラジオで親しんだ美空ひばりの古い唄を聴かせていただけませんか」。
「えっ・・・、大丈夫ですよ。私もひばりの大ファンです。」
CD3枚組の「美空ひばりオリジナルベスト50」から、「東京キッド」「ひばりの花売り娘」「悲しき口笛」「リンゴ追分」「港町13番地・・・・。
何せ戦後すぐの録音なのでジャりジャリとノイズがして聴くに堪えないが、このくらいのことで「美空ひばり」の魅力が失せることはない。 MIさん、大喜び~。
そこで、スピーカーの聴き比べをやってみた。
我が家で唯一の大型スピーカー「ウェストミンスター(改)」と一番コンパクトな「LE8T」の一騎打ち。
聴き終わった後で「どうでしたか?」。
「オーケストラなどには大型スピーカーが合うのでしょうが、私はこちら(LE8T)の方が音のフォーカスが合っているような気がして好きです。」
素人さんの耳は素直で怖い!
80歳を越える“おじいちゃん”のコメントにしばし茫然~(笑)。
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