二冊のエッセイともに面白かった。
まず「だいたい夫が先に死ぬ」から。(102頁)
2020年の日本人の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81・64歳。女性は世界1位、男性は世界2位なのだそうだ。
女性の方が6歳ほど長生きなのである。では夫婦という関係に観点を移して、夫婦の年齢差の平均はどのあたりか、ご存じだろうか。
ちゃんと統計はあって、全婚姻の平均年齢差はほぼ2歳だそうだ。もちろん、夫が妻より年上だ。
ということは、日本の夫婦は平均して「夫が先に死んで、その後、妻が8年生きる」ことになるはずである。では、その8年を妻たちはどう生きてゆくのだろうか。
具体的に3つのケースが紹介してあったが、眠っていた才能を新たに開花させるなど、まさに元気溌剌で亡き夫への感傷なんて微塵も無いのが面白かった。
女性は逞しい・・、我が家のケースで行けば「3歳差」なので、亭主より9年長生きすることになるが、毎日笑顔で元気に暮らしていく様子が目に浮かんでくるようだ、ま、それもいいでしょう・・(笑)。
その一方、妻に先立たれた夫の淋しそうな有様を我が地区でも時折見かけるが、そのたびに絶対に妻よりも先に逝かないと苦労が目に見えているなあ、と決意を新たにしてしまう。
男性は概してもろい・・。
もう一つ・・。著者の高橋氏は毎日新聞で「人生相談」をされているそうだ。読売新聞でも「人生相談」欄があり、毎日目を通しているが、回答者の考え方が色濃く投影されているのをいつも感じる。
86頁にベテランの「車谷(くるまたに)長吉」(作家)さんの回答事例が紹介してあった。質問は次のとおり。
「40代の男性(高校教諭)からの、教え子の女生徒が恋しい」という相談。
「生徒にも人気があり・・、妻と子供二人にも恵まれ、まずまずの人生だと思っているが5年に1度くらい、自分でもコントロールできなくなるほど没入してしまう女子生徒が出現する・・今がそう・・相手は17歳の高校2年生で、授業中に自然に振舞おうとすればするほど、その子の顔をちらちら見てしまいます。
その子には下心を見透かされているようでもあり、私を見る表情が色っぽくてびっくりしたりもします・・教育者としてダメだと思いますが、情動を抑えられません。どうしたらいいのでしょうか」
さあ・・、貴方ならどういう回答をされますか?
まあ、先生が教え子に手を出したら「懲戒免職」は確実だよねえ、それに奥さんからも子供たちからも信用を失ってしまうのは必至・・。
両者を「天秤」に掛けると、もう答えは目に見えてますよね。
ところが、前述した「車谷」さんの回答はこうだった。
「あなたは自分の生が破綻することを恐れていらっしゃるのです。破綻して、職業も名誉も家庭も失ったとき、はじめて人間とは何かということが見えるのです。
あなたは高校の教師だそうですが、好きになった女生徒と出来てしまえば、それでよいのです。そうすると、はじめて人間の生とは何かということがみえ、この世のほんとうの姿が見えるのです」
予想外の回答に驚いたが、言外に「あなたは真剣勝負ができますか?」と、刃の切っ先を突き付けられる思いがした。
で、興味津々で「チャットGPT」に質問をコピーして打ち込んでみたら「回答不能」と出て来たので、内容を変えて「教師が教え子を好きになることはいけないことですか」と訊いてみた。
すると、
「教師が教え子を好きになること自体は、感情の一つであり、完全にコントロールできるものではありません。しかし、教師と教え子の関係はプロフェッショナルな性質を持つべきであり、倫理的な観点からいくつかの考慮事項があります。
1 権力と不平等の関係
教師と教え子の関係は、権力と不平等の関係であるため、教師が教え子に対して感情的になることは、教育的な健全性に影響を与える可能性があります。感情的な結びつきが、公平な評価や指導に影響を及ぼすことがあるため、慎重に扱うべきです。
2 倫理的な配慮
教師と教え子の間に恋愛感情が芽生えた場合、倫理的な問題が生じる可能性があります。このような関係は、法的にも問題となることがあり、教育機関や規則に違反することがあります。
3 専念とプロフェッショナリズム
教師は教育に専念し、プロフェッショナルな態度を保つことが求められます。感情的な結びつきがプロフェッショナルな行動に影響を及ぼすことは避けるべきです。
要するに、教師と教え子の関係は、プロフェッショナリズムと倫理に基づいて慎重に管理されるべきです。教師は教育に専念し、教え子との適切な距離を保つことが重要です。もし感情的な問題が発生する場合、専門的なサポートを求めることが良い選択となるでしょう。」
こちらのほうは「杓子定規」というか至極まっとうな内容ですね。
しかし、自分の問題として真剣に考えこませるという点では「車谷」さんの回答の方が圧倒的に奥が深いと思う。
この辺が「AI」の限界なのかもねえ・・(笑)。
おっと、もう一冊の「本棚には裏がある」にも興味深い話があったのだが、紙幅が尽きたのでいずれ日を改めて・・。