新刊「新失敗学」(畑村洋太郎)の中に次のような記述があった。(99頁)
「ゆでガエルという言葉があります。カエルはいきなり熱湯に入れると熱くてすぐに飛び出すものの、常温の水に入れて徐々に水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失ってそのまま死んでしまうという寓話(ぐうわ)です」
つまり、「ぬるま湯に浸っていると危機が迫っているのに油断して変化に対応できない」というわけ。
これは真空管愛好家として身につまされる話ではなかろうか。
というのも毎日使っている真空管アンプの出力管や整流管の寿命が尽きかけて次第に音が劣化しているのに気付かないまま代えるタイミングを失っている状況を想像してほしい。
真空管は所詮は消耗品であり、どんなに気に入った真空管であろうと寿命がくるので、日頃からスぺアをコツコツと準備してきた。
我が家で保管している真空管(出力管、整流管など)の一部だが、ご覧のとおり内部構造に変化をきたさないようにすべて「縦置き」にしている。
もちろん、配送するときなども縦置きである。たとえば、オークションで真空管を購入して横向きの状態で配送してきたときは、その人は「素人」さんだと思って間違いはない。
で、STC、ムラード、GECなどイギリス系が圧倒的に多いが、かなりの希少管も混じっているので全部使い切ってから「息」を引き取りたいものだが、それほどタイミングよくいくはずもなく、たぶん無理だろうなあ・・(笑)。
それはさておき、そもそも真空管の寿命ってどのくらいなんだろうか?
それこそ専門家が山ほどいらっしゃる中で「盲目蛇に怖じず」で、あえて言わせてもらうと球の種類やブランドでも違うが、十把一からげに大まかに時間単位でいくと寿命を6000時間として幼年期が1000時間、壮年期が4000時間、老年期が1000時間といったところではないかな。
毎日5時間使ったとして1200日、およそ4年ぐらいの寿命になるわけだが意外に短い。
我が家では9台のアンプを日替わりメニューのように駆使しているが、当然、球の寿命を延長する効果も脳裡の片隅にある。
さて、人間の場合は自分がどの年期に属するかは簡単そのものだが、真空管ともなるとはたしてどの時期に相当しているか、それを見分けるのが実に難しい。
新品を購入して使うのが理想だが評判のいい古典管ともなるとまず無理なのでやむなく中古市場で手に入れたものを使わざるを得ないが、そうすると履歴がわからないので見当がつかない。
これには実は苦い思い出があって5年ほど前のこと「STC」ブランドは長寿命だしと、中古品「4274A」(整流管)をたしか8万円ぐらいでオークションで手に入れたものの使い初めて2年もしないうちにフィラメント切れでお釈迦に~。なけなしのお金をはたいたのにもうガックリ(笑)。
それはさておき、真空管が壮年期に当たるのならもちろんいいが、もし老年期に入ったとするといったいどのくらいで「姥捨て山」に行かせるか、その時期を常に意識せざるを得ないのが宿命だ。
いつぞやのこと古典管の「泰山北斗」氏に真空管の寿命のノウハウに関して伝授していただいたので紹介しておこう。
「まず真空管は頻繁にON-OFFを繰り返しますと著しく寿命を縮めます。真空管の寿命があとどれくらいあるのか推定するのは非常に難しいです。Hickok社のチューブテスタでライフテストを実施するのが最も簡便な方法でしょう。
ご教示ありがとうございました。
とはいえ、現実にはチューブテスタを持っていない人がほとんどだろうから、気になる方は真空管をまとめて専門家に郵送して測定してもらうのも一つの方法ですね。
ちなみに我が家では真空管アンプのスイッチのオン・オフは慎重にしており、1時間以上家を空けそうなときはオフ、それ以外のときはオンの状態にしている。
したがって、家の近くをウォーキングするときはスイッチを入れっぱなしだが、これって夏の時期のエアコンと一緒ですね(笑)。
最後に・・、このほど新規参入をはたしたプリアンプだが常用しており、非の打ち所がない仕上がりでべテランのアンプビルダー「N」さん畢生(ひっせい)の傑作だと思うが、惜しいことにスイッチ・オンするたびに「ノイズ」が出てきて10分ほどするとピタリと収まる。
原因は「電源トランス」と「シャーシ」の取り付け位置に起因するそうで、修繕は無理~。
そこで、対策として毎朝起き抜けにスイッチ・オンし、16時間点けっぱなしで就寝時にスイッチ・オフしている。
真空管の寿命にとって有害な「長時間の連続使用」と「頻繁なスイッチのオン・オフ」との相反する実験ともいえるわけで、はたしてどういう結果になるか興味津々である。
な~に、使っているミニチュア管「12AU7」は有名どころを山ほど持っているので大船に乗ったつもりだけどね・・(笑)。