新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
政治、経済、社会問題、メディア論などのニュースをえぐる

北方領土の日ロ対立を米国は歓迎

2015年09月23日 | 政治

 

 

 返還交渉は政治シンボル化

2015年9月23日

 

 安全保障関連法案が成立するタイミングを待っていたかのように、岸田外相がモスクワを訪れ、日ソ外相会談が開かれました。次官級による平和条約の締結交渉の再開に合意しただけで、北方領土の返還問題はまったく進展しませんでした。


 北方領土は明らかに日本の領土であり、旧ソ連が世界大戦における対日参戦の代償として、米国の了解のもとに占領し、戦後も占拠を続けているという歴史的解釈は正しいのでしょう。戦後70年経っても、日本の返還要求をロシアが拒否し、日ロが接近する障害になっている現状もまた、米国にとって好都合です。


数十年前の極秘電報


 丹波・元駐ロシア大使は、自著「日露外交秘話」で「戦勝国は日本に千島列島を放棄させ、放棄させる列島の範囲をあいまいにしておけば、この範囲をめぐって日ソは永遠に争うことになる。そういう趣旨を記した極秘電報が存在し、在京英国大使館から英本国宛てに送られた」旨、書いています。もちろん米国の意向でもありました。数十年前のことです。


 今回の安保政策の大転換は、米国の要請でもあり、当然、日本の選択を歓迎しています。「では北方領土の返還では、米国は日本に理解を示すだろう」ということはありません。プーチン大統領のウクライナ、クリミヤ侵攻・併合に対する西側包囲網を強化するため、日ソが領土問題を契機に接近しては困るのでしょう。非情な国際情勢の現実が日ソ接近を阻むのです。


 ロシアも本気で日本の返還要求に応じるつもりはありません。岸田外相が「領土問題で突っ込んだ議論をした」と述べているのに対し、ラブロフ外相が素っ気なそぶりをみせ、「会談で協議はしなかった」とまで言い切りました。一時は二島返還(歯舞、色丹)を先行させ、一定期間はロシアの施政権を認め、島の共同開発を進める構想(川奈会談、橋本政権)が浮上しました。すでにそれも消えました。


カード化する領土問題


 特に日本は、解決する見通しがつかないのに、「領土問題」というカードを使う意欲は強め、国内政治的にどう使うか。そんなゲームに変質してしまったように思います。日本にとっては、領土返還に執念を燃やしているという外交姿勢をとり続けることは政治家にとって必要だし、「頑張っている」との印象を国民に与えることができます。対ロシアより、対国内向けの意義が高まっているのではないでしょうか。


 かりに返還されたらどうでしょう。日本から復帰する人、移住する人は少ないでしょう。ロシアの若者ですら、学校を卒業した若者は進学や就職のためにサハリンや本土に移っていくという新聞記事を読みました。まして少子化が進み、かつての居住者も高齢化した日本からの移住者はどれだけいるのか。領土問題は政治シンボル化してしまってような気がします。


叫び続ける政治的意味


 ロシアには「クリル発展計画」があり、首相が現地を訪問するなど、活用する意思はあるようですね。日本にとっては、漁業資源としての価値はあるし、日本列島防衛上の戦略的意義は今後も消えません。だからこそ、政治家は「4島一括返還」と叫び続けるのです。愛国心を刺激するには絶好のカードでもあります。


 実際は、返還の可能性はますます弱まり、政治カード化はますます進む領土問題です。領土交渉のニュースに接するたびに、むなしさを感じるのは、わたしだけではないでしょう。


 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿