池田首相の所得計画の模倣
2015年9月25日
「あれっ」と思いました。「昔もこんなことがあったぞ」と、思いました。岸首相(安倍首相の祖父)の時代、60年安保闘争で日本が揺れに揺れました。岸退陣の後を受けた池田首相が国民心理を一新するために、「安保から経済へ」の転換を図り、所得倍増計画を持ち出しました。安倍首相のやり方もどこか似ています。
安倍首相が自民党総裁に正式に再任、政権運営の構想を発表しました。アベノミクス(経済政策)は第二期に入るというのです。「新3本の矢」を推進し、国民総生産(GDP)を600兆円(2020年)まで増やすというのです。14年度のGDPは490兆円ですから、数年で100兆円増ですね。
「安保から経済へ」の看板
池田首相の場合は「10年で国民所得を2倍にする」でした。このときは高度成長期にさしかかっており、経済関係者は自然体でも、つまり政策的に支援しなくても、十分に達成できる見通しを持っていました。わざわざ政権の看板に掲げる必要はなかったのに、「安保から経済へ」を印象づける道具に使ったのです。実際に8年でなんと2・25倍になり、軽々と目標を超えました。
安倍首相の今日、安保政策の転換に対するデモで、数十年ぶりに日本は大揺れになり、政権支持率は下降しています。「安保から経済へ」と政権が考えても不思議ではありません。所得倍増計画に比べれば、ささやかな目標です。
打つ手はあるのだろうか
ささやかではあっても、政策的に相当、無理をしないと、600兆円の達成は難しいのです。成長率が実質で2%、名目で3%を数年、続けることが達成の条件となります。日本は低成長、ゼロ成長の時代にはいり、過去20年間、名目成長率が3%を超えた年はありません。安倍首相はどういう手を打つのでしょうか。
安倍政権の発足以来、すでに史上最大の超金融緩和を続け、さらに財政出動により国の債務(借金)は1000兆円に膨れ上がっています。これ以上、金融・財政政策に負担をかければ、効果は乏しく、副作用のほうが多大というドロ沼に踏み込んでいます。3本目の矢として強調した成長戦略(経済構造改革)は失速しています。株価は国際環境もあって、低迷期にはいり、資産インフレを景気対策に使えなくなりつつあります。さてどうするか。
安倍政権で加速した「後世代への負担の先送り」に歯止めをかけないと、18歳まで参政権を引き下げる時代の報復を政治は受けることでしょう。そういう課題にこそ真剣に取り組むべき状況なのです。負担の先送りの回避策こそが今、必要なのです。
まるで少女小説のような美辞
首相が記者会見で述べた目標には、少女小説に登場するような美しい文言が並んでいます。「希望を生み出す強い経済」、「夢をつむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」が新3本の矢です。さらに「希望出生率1・8(現実の出生率は1・4)」、「50年後も人口1億人」などなど。そうあってほしいとだれもが願っています。いうだけならやさしいことです。どうやってそれを達成すればいいのか。
政策の立案、実施にあたる官僚は本気でやる気でしょうか。「一億総活躍」プランを作成することにし、「担当相を置く」に至っては「なに、これっ」ですね。大臣病患者への「気つけ薬」でしょうかね。担当相が何をできるのでしょうか。
首相の真意を掘り下げよう
推測するに、安倍首相は「だめだ、だめだ、できない、できない、という暗い時代には、明るい展望を掲げることが先だ。すべてを悲観的に考えるべきではない」と思っているのではないでしょうか。それは必要なことではあるでしょう。
もうひとつの本心は「安保問題で国が割れ、支持率も落ちた。来年には選挙もある。池田首相がやった安保から経済へ、をまねてみる価値はある。目先を変えてみよう」ではないでしょうか。こちらのほうが本心かもしれません。メディアは政権構想の個々の問題点を拾いあげるのではなく、首相の真意を掘り下げてみるべきでしょう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます