反対方向を向いている政府と日銀
2023年11月3日
日銀が金融政策決定会合で、長期金利の1・0%超えを容認することを決めました。7月に続く長短金利操作(YCC)の修正で、市場関係者は「徐々に異次元金融緩和の出口に向かう」とみています。
朝日新聞に1面トップのそで見出しが「また緩和修正」でした。まづいことをしているような印象を与える。よくない見出しです。「修正」の繰り返しつつ日銀は出口に近づこうとしているというのが正しい解釈です。
植田日銀総裁の発言の歯切れの悪さは今回も同様で、異次元緩和の段階的な軌道修正の意味を分かりにくくしています。アベノミクスによる大量国債の発行、それを可能にした日銀の異次元金融緩和の後始末が容易でなく、曖昧な言い方しかできないのでしょう。同情はします。
金融の正常化は「日銀の単独ではできない。財政の正常化と一体で取り組まないと進まない」と私は思っています。岸田政権は物価対策として、定額減税1人4万円、給付金1世帯7万円を打ち出しました。その他を含めると17兆円台の経済対策です。「国債を財源にしたばらまきが、またか」との批判が噴出しています。日銀と政府の歩調があっていない。あきれます。
独立財政機関を作り、政権、財務省とは中立の立場から、財政状態をチェックし、助言することが必要です。主要国の中で日本だけに存在しません。いつまでも政治の独走を許しておくわけにはいきません。
日銀はアベノミクスを含め長期にわたる金融緩和政策を検証するといっています。当事者の手による検証には自己弁護が入り込む。異次元緩和と財政膨張は一体化していますから、検証作業は独立財政機関のような第三者のよるべきです。
タイミングがいいことに、前任総裁の黒田東彦氏が日経の人気連載「私の履歴書(1か月)」に登場し、月末まで続きます。まだ評価の定まっていないというか、厳しい批判も噴出している経済人が退任後、1年も満たないのに「私の履歴書」に登場するのは珍しい。
本人も希望しての登場と、想像します。戦後経済史上、日銀史上、最悪最大の負の遺産を残したとの批判に反論したい気持ちがあるのでしょう。自身が信奉するマネタリズム(貨幣数量説)を実践した結果をどうみているのか語ってほしい。弁明は聞きたくありません。
長期にわたるアベノミクスによっては、市場機能が封印され、そのこと自体が経済の自立性を奪ってしまったことをどう思うのか、異次元金融緩和からの脱出(出口)にどのような方法を想定していたのか、1㌦=150円の円安も響いて、日本経済の国際的な地位が急落し、GDPランキングでドイツに抜かれ、4位に転落したことなども前総裁として、虚心に語ってほしい。
本題に戻って、メディアの見出しを見ますと、各社まちまちで「長期金利の1%超え容認」、「長期金利上限『1%めど』」、「金利上昇の新局面」、「政策修正への警戒和らぐ」、「マイナス金利解除(短期金利の修正)へ関門」と多様です。
植田総裁が記者会見で、市場に一方的な解釈を取らせないような言い方に終始したのが原因です。「長期金利の上限のめどを1・0%とする」と言いながら「1%超え」を容認するようなニュアンスを伝えました。両様の解釈をさせたいのです。
同時に「上昇圧力がかかっても1%を大きく上回るとは見ていない」と、けん制しています。市場機能の回復が今後の課題なのだからこうした発言は控えてほしい。7月に事実上の上限を1・0%に引き上げた時も「0・5%-1・0%の範囲」を想定していることを示しつつ、「上昇しても0・7%程度」と余計な発言を付け加え、恥をかくはめになりました。
主要紙の社説をみますと、朝日新聞は「出口に備える議論を急げ」の見出しで「物価目標の2%を3年連続で超えた。出口に向かう場合の手順、影響について議論を深める必要がある」と主張します。財政正常化と一体にならないと、金融の出口はこないことへの言及が欲しかった。
日経は「緩和再修正を機に出口への備えを万全に」の見出しで、「総裁は出口に直結する措置ではないといいつつ、『実現の確度が少し高まってきていることは事実』と強調した」ことに注目しています。そこがポイントとみたのは正解でしょう。
読売新聞は「円安が進んでいる。長期金利を事実上1%に引き上げた(7月措置)のに続き、さらに政策を見直したのは妥当である」と。ここまではいいにしても、肝心の出口論には全く触れていません。そこ言及しないと、社説として及第しない。
読売はさらに「長期金利が上がれば、住宅ローン金利、企業の借入金利が上昇する。悪影響にも丹念に目配りしてほしい」と。政策金利の引き上げというのは、そうした効果を必然的に伴うものであり、「悪影響も」という解釈では金融政策への理解が足りません。
日銀は今回、金融政策の土台となる物価見通しを修正し、23年度は2・8%(7月時点では2・5%)に上方修正しました。24年度も2・8%で、3年連続で3%前後の上昇となり、黒田時代に表明した「2%目標」は達成していると考えられます。
問題はガソリン代、電気・ガス料金への政府補助(消費者の負担軽減=物価引下げ策)をどう計算しているかです。23年度は政府補助がなければ、2・8%でなく、3-4%の上昇です。24年度以降、補助を減らしていけば、物価の上昇要因になり、それを含めて24年度は2・8%ということなのかが不明です。植田氏は何も語っていません。
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