混迷と混沌が続く
2014年3月27日
ウクライナをめぐる国際情勢が混乱から混沌の状態にはまり込み、国際的問題を仕切るのにある程度の影響力をもってきた主要8か国(G8)体制からロシアを当分、排除することになりました。当分といっても、長期化するか恒久化するかでしょうから、G8体制の崩壊になりましょう。その意味するものは深刻です。
これまでかろうじて冷戦終結後の国際秩序は、米国の一強体制というか一極体制(あえていうならG1)を背景にG8体制で主導されてきました。オバマ米大統領は米国の経済力の低下、他国への軍事介入の拒否という国民世論の高まりから「米国は世界の警察官ではない」というようになっております。国際情勢を主導するリーダーが不在になっていることを指して、「Gゼロ」という言い方にされるようになっています。
どこの国が、どういう国際機構、組織が世界情勢を形成していくのに影響力を行使できるのか。だれもいなくなってしまったではないか。そう思い、ブログにタイトルのひとつに「混乱と混迷が続く」とつけました。恐らくそうでしょう。この状態を別の視点からみると、もうひとつのタイトルである「国際情勢のビッグバン」ともいえる時代に入っているように思います。オランダにおける諸国の離合集散をみていて、そんな印象を受けました。
ビッグバンとは大爆発による宇宙創造、宇宙誕生の壮大な物語です。最近のニュースとして、138億年前の宇宙誕生直後に、宇宙が急膨張したことを示す「信号」が始めて観測されたとの発表がありましたね。急膨張する際に生まれた「原始重力波」の影響を受けた光の痕跡を、電波望遠鏡でとらえたそうです。ノーベル賞級の発見、理論の立証に近づいたといいます。
宇宙のビッグバンにはロマンがあります。国際情勢のビッグバンはロマンではありません。これまでとは違ったいくつかの「重力波」が随所で作用し、巨大な混迷と混乱に陥っていることを意味します。そこから先に新しい価値観をもった世界が生みだされて、安定に向かうのか。統制の効かない爆発したままの状態が永続するのか。それは分りません。ビッグバンはそうしたことの比喩です。
オランダで開かれた核安全保障サミットでは、本来の主旨から離れ、G8からロシアを除いたG7会議、日米韓会談、米中会談、中韓会談など多様な外交も繰り広げられました。ウクライナ情勢への対応の中で、国際的な非難を浴びているクリミア編入でロシアが譲歩しないため、日米欧によるG7とロシアの対立が決定的になりました。中国は共産党独裁で、民主主義体制をとっていないため、もともとG7,G8のメンバーではありません。
主要国はこれでG7、中国、ロシアに割れた状態となります。ウクライナ問題そのもののより、ぬきさしならない3極対立に陥った意味は重大です。そのほか統率のとれていない新興国群、国家解体の危機が深まっている諸国との対立もあります。ここで各紙の論調を少しのぞいてみましょうか。
朝日新聞は「G7の役割ー普遍の価値観を説け」と、なにやら難しい題をつけて、「世界の警察官を任じてきた米国の力が後退し、Gゼロと叫ばれるいま、どうやって世界の秩序を守ればいいのか。中ロを含む大国が拒否権を持つ国連安保理は機能不全である」と指摘します。その通りでしょう。もっとも米国が警察官として世界各地に軍事的出動をすることに、猛反対してきたのが朝日です。そのこととの整合性をどう考えているのでしょうか。
毎日新聞は「世界の漂流を止めよ」と題して、「ロシアで、帝国主義的な領土拡張主義が亡霊のようによみがえった。ロシアは柔軟姿勢に転じ、G8復帰への道を歩むことを望みたい」と訴えています。望んだところで無理でしょうね。だたし、「世界の漂流」という表現は、今の国際情勢を掘り下げた指摘になっています。
読売は「クリミア編入を前例にするな」と題して「他国の領土を力で奪う前例とならぬよう、国際社会は結束すべきだ」と主張しています。もっぱらクリミヤへの言及が主で、なんども書いてきた主旨の範囲ですね。クリミア問題は、恐らく、米国は口先の激しさから連想するほどは深入りしない、欧州も混乱がこれ以上は広がらないレベルで終息すれば上出来、というところが本音でしょう。そういう意味では、読売の社説は時代の状況に対する大局観がかけています。
さきほど「いくつかの重力波」という指摘をしました。ロシアについてはどうでしょうか。ソ連最後の指導者のゴルバチョフは東欧の衛星圏を失い、後継者のエリツインはソ連邦を瓦解させ、それを「20世紀最大の地政学的惨事」とプーチン大統領はみている、との解説を読んだことがあります。そうした流れもあって、クリミア編入を、ロシア国民は圧倒的に支持しているとか。領土、領域の膨張を願っているのかもしれません。
中国も強力な重力波を放射しています。民主主義とは程遠い共産党独裁で、国内では所得格差の拡大、大気汚染、言論弾圧を是正せず、対外関係では尖閣諸島や南シナ海を含む海洋主権の拡大を目指しています。民主主義国家における国内の政治的対立の激化、市場経済化のもとでの格差拡大、財政赤字、繰り返される金融危機をみて、「民主主義国に学ぶべきものは少ない」とでも、考えているのでしょう。確かに民主主義国もこのところの政治、経済、社会情勢をみると、胸を張れませんよね。中国の膨張主義は衰えないでしょう。
米国はグローバリゼーションという新しい膨張主義を掲げました。経済的な国境を取り除いて、世界市場を築き、いわば新しい金融、経済帝国の中心に米国が座ろうという考え方です。いち早くグローバル化が進んだマネー経済では、リーマンショックという世界各国に及んだ金融危機を起してしまいました。大失敗でしたね。
中国は米国に対し「新しい大国関係」という表現で、中国の膨張主義を認めさせながら、世界を米中二極(G2)で仕切ろうという戦略を見せ始めています。そうなると、日本は中国の勢力圏に入るのですか。中国モデルに組み込まれるのはご免ですね。
膨張といえば、情報爆発による重力波もそうですね。インターネットによる情報の拡散は、新しい社会モデルを作りだす一方で、その過程において、政治的な混乱、波乱をもたらしています。メディアではウクライナ問題があふれかえっています。本当の問題は、ウクライナを超えたところにあるような気がしてなりません。
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