安倍首相はもう逃げるな
2014年12月15日
衆院選が14日、投開票され、自公が圧勝しました。不思議な選挙でしたね。何が変わったというのでしょうか。自公が325議席で、定数の3分の2以上を維持し、自民は290議席で公示前の293議席とほとんど変わらず、24日に発足する第三次安倍内閣では、全閣僚が再任されるそうです。選挙の争点はあったのか、なかったのかも分らない選挙でした。安倍政権が順調ならば、もう4年間の任期を付託されたことだけは確かで、待ち構える難しい重要課題にこんどは、逃げないで取り組んでもらわないと困ります。
議席数の上では、安倍政権の継続を有権者は認めたことになります。安倍政権の信任投票という面ではどうでしょうか。投票率が史上最低の52%、つまり有権者の半数が投票所に行きませんでした。冷めた選挙で、信任したというには無理があります。自公の得票率が45%として、掛け算すると、獲得投票数は全体の4分の1程度となります。自公は議席の3分の2を占めたとはいえ、有権者の4人に1人か、3人に1人が投票したに過ぎません。
小選挙区制のうえ、投票率が低かったからこそ、組織票、個人後援会をバックにした政党ほど有利になったのです。安倍政権を信任したくなかったことから生じた低投票率が、安倍政権の圧勝の一因になったとすれば、つくづく妙な話ですね。
解散権を制限せよの声
前評判の悪い選挙でした。元東大総長で政治学者の佐々木毅氏は、雑誌の論文で「4年間を全うする政治を確立してほしかった。英独などでは、不信任案が可決されたケース以外は、解散が禁止されている。日本は首相の解散権を問い直すべきだ」と指摘しました。やはり政治学者の御厨貴氏は「こんな衆院選は歴史上、ない。自民のほかに選択肢もない」と主張しました。
変化があったとすれば、よほどのことがなければ、もう四年の長期政権が確立することです。こんどは任期途中の解散はいけません。安倍首相の政治思想は、原発再稼動、安全保障法制の整備、さらに憲法改正などにより、深まる世界的な経済停滞、混乱が増すばかりの国際情勢を生き抜くために、日本を強靭にすることにあると思われます。重要な国家的課題なのに、総選挙では争点にせず、本音を隠したため、国民的な議論に発展しませんでした。今後は、支持率の低下を覚悟してでも、どう取り組んでいくのかの道筋をはっきりさせていくことです。
国政と地域のねじれをどうする
言葉でいえば簡単でしょう。実際はそうはいきません。議会で圧倒的多数をえても、それをバックに圧勝できる課題は少ないのです。沖縄の小選挙区(4議席)で自民は全敗しました。地元の強硬な反対の中で基地移転をどう進めるのかです。原発の再稼動はいくつかは進んでも、地元の反対が強い地域ほうが多いでしょう。国会での圧倒的多数は、国政を地域問題に落していけばいくほど、少数派になり、身動きがとれなくなってしまいます。国政と地域のねじれをどうするか。
安倍政権は、まずデフレ脱却にこぎつけ、国民に実利を与えて支持を取り付け、日本を強靭にする最終目標に向う戦術をとっていると、わたしは考えます。経済再生と政治的課題は2人3脚なのです。そのことは、デフレ脱却につまづけば、政権が考える最終目標の実現にたどりつけなくなる弱点を内包しています。
過剰マネーが暴れまわる国際金融市場は、国会でいくら圧倒的多数を占めていても、それだけでは制御できません。過剰マネーの反乱(バブル崩壊)を恐れて、あるいはデフレ脱却につなげようとして、あるいは株価を上げようとして、異次元緩和が行われています。そのことが過剰マネーの拡大を招くという自己矛盾に日本も、はまり込みました。
黒田日銀総裁は、消費増税への政府支援として、10月の金融追加緩和を決断したと、思われます。安倍政権の増税・財政再建の先送り戦術、成長戦略の停滞をみて、このままでは日銀にだけツケ回ってくると、警戒し始めているようですね。よほどのことがない限り、次の追加緩和はしないでしょう。日銀にとっては、国際金融市場が最重要の相手です。国会における圧倒的多数の自公勢力とは、それこそ「異次元の世界に日銀はいる」との姿勢をとりだすでしょう。
インフレ税が隠れた狙いか
アベノミクス(経済政策)では、「2年で2%の消費者物価の上昇」を目標にしています。それが相当に難しくなってきたというのが最近の観測です。この後、どうするのか。日銀は簡単には追加緩和に応じないでしょう。目標達成に向け、他に手段がありますか。逆に目標が達成されたらどうなるのでしょうか。2%インフレが4、5年も続いたら、累計で10%の上昇です。そんな物価が上がったら、低所得の人は生活が苦しくなります。
金融資産も10%、目減りします。1000万円つき100万円です。困りますね。国の債務(国債)の発行残高は約1000兆円ですから、実質で100兆円の債務削減を増税なしにできるのです。財務省は喜ぶでしょう。ようするにインフレ税です。そうした本質的な意味を安倍政権は示していません。それは、日本にとって避けて通れない道なのかもしれません。長期政権は、そうした痛みの実態を国民に訴えていくことにもあると思います。
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