新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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ノーベル賞授賞式に見た希望の星

2014年12月13日 | 海外

  期待したい人間の意志と知性

                       2014年12月13日

 

 今年のノーベル賞授賞式から、何かいつもの年とは違う何かが伝わってくるような気がして、それは何だろうとしばらく考えていました。ふと心に浮かんできたのが、混沌とし、失望や怒りばかりを感じることが多い現代史の中に、「人類、人間にはまだまだ期待できる希望の星がある」ということでした。

 

 17歳の少女に平和賞、3人の日本人に物理学賞という組み合わせの妙に感慨を持ち、じっとニュースを見つめていた人は多いでしょうね。パキスタンのマララさんの動じない態度、物腰を見つめていて、わたしは「とても17歳とは思えない落ち着き、強い意思」を感じとりました。「1人の子供、1人の教師、1本のペン、一冊の本が世界を変えられる」という有名になったメッセージを授賞演説でも繰り返しました。簡明な文章に意思、決意を凝縮する能力、知性に感嘆しましたよね。

 

    1冊の本が変えうる悲惨な世界

 

 同時に、少女の指摘と、たとえば日本の現状との落差の大きさは何なのだろうと思いました。テロリズム、学校の破壊、子供、特に少女たちに対する偏見、無理解から、パキスタンや他の途上国における教育の現状は、マララさんが指摘したように悲惨です。日本はどうなのでしょうか。学校があっても、12万人もの小中学生が不登校(登校拒否)です。日本では学校があまって、山間部では廃校が増え、一方、マララさんは「パキスタン北部のスワートでは、400もの学校がタリバンのテロで破壊され、少女たちは学校に行くことを禁じられました」といいます。

 

 パキスタンでは1冊の本さえ与えられない子供が無数にいるというのに、日本はどうでしょうか。本があっても「1月に1冊も本を読まない人は47%」(文化庁調査)にのぼります。書籍は年間、7万5千点(1日あたり200点以上)も出版され、その40%が書店から返品となり、断裁(廃棄)されます。マララさんの演説から、人間の意志と計画があれば、この欠乏と過剰をつなぐ方法があるはずだという思いが浮上してきます。現代社会の矛盾を17歳の活動家につかれました。

 

    頭脳が変えうる21世紀の世界

 

 物理学賞の3人の日本人科学者は、世界の将来への希望を想い起こさせてくれました。日本人の粘り強い頭脳、研究が青色発光ダイオード、さらには白色ダイオードの開発の成功をもたらしました。これで発光効率は100分の1になり、「21世紀の光源」として普及し、省エネルギーの面で、まだまだ活用の余地があるといいます。久しぶりに日本人の自信を取り戻させてくれました。

 

 表彰式でみせた3人3様の人間像の対比が見事でした。天野浩さん(54)の浮かべた表情からは、ノーベル賞受賞の喜びの大きさが伝わってきました。こんなに率直に喜びを表現した受賞者はまず少ないでしょう。この日本人に感銘を覚えたのは、われわれ日本人ばかりではないでしょうね。中村修二さん(60)は金メダルへの感想をたずねられ、「だだの金属ですよ」。これには驚きました。赤崎勇さん(85)は体調をいたわっていることもあり、終始、控えめながら、気品に満ちた知性を感じさせました。そっと付き添う3夫人の美しい着物姿といい、世界に新たな日本人像を焼き付けてくれたことでしょう。

 

 人間の意志と知性が多くの困難を解決し、新たな世界を開拓していくことへの可能性を凝縮して、われわれに見せてくれた瞬間でした。

 

 

 

 

 



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