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東芝の粉飾決算の不正は事件に

2015年07月23日 | 経済

  

 

 トップダウンの操作指示に絶句

 2015年7月23日

 

 東芝は日本を代表する大企業ですよ。社長が3代にわたってトップダウンで犯罪的行為を続けてきたとは、驚きました。組織ぐるみという甘いものではありません。部下の抵抗も押しのけて、社長自らが「不正」をせよと強制してきたとは。一流とされる大企業では、まず前例がなく、絶句します。


 驚きは3代の社長の行動ばかりではありません。社長会見における見えい透いた言い逃れもそうです。さらに第三者委員会の調査報告書の不可思議な甘さもそうです。ついでにいうと、記者会見にあらわれた麻生副総理・財務相が、あきれたといわんばかりに、書類を机の上にポンと投げだし、「日本のマーケットの信頼性を失いかねない」と語りました。新国立競技場の建設問題で、散々、責任のなすりあいをして、批判を浴びながら、民間企業が問題を起こすと、「お前たち、なんだ」ですからね。


聞いていられない社長の発言


 田中・現社長の記者会見における発言はしらじらしく、とても聞いておられません。部下に不正を迫ったという認識があるのかという質問に「直接的な指示をしたという認識はない」と発言しました。3代の社長が不正決算を次々と直接、命令していたことが明らかになっています。今後、事件になったり、訴訟が起きたりした時に備えての防御的な発言でしょうか。「直接の指示」、「認識」の否定は、裏を返せば、「自分が指揮したとはさすがに言えない」ということを物語っているにすぎません。


 不正が始まったとされる西田・元社長は「暴走してもいいから、営業損益に貢献せよ」、「こんな数字は恥ずかしくて公表できない」、「利益見込みにプラスのチャレンジをお願いする」と、圧力をかけていたそうです。「暴走してもいい」、「チャレンジせよ」は「不正をせよ。不正にチャレンジせよ」の意味でしょう。こんな露骨な表現で不正決算を命じていたとすれば、事件になった場合、真っ黒な証拠となります。


企業史に残る暴言に数々


 佐々木・前社長は「会社が苦しい時にノーマル(正常化)にするのは、よくない」、「引き当て(損失、費用の事前計上)を入れたら、部門の利益がゼロになってしまう」と怒鳴ったといわれます。会計原則にのとった適正な処理をしてはならない、という命令ですよね。こんなことをいわれた部下はたまりません。


 「そのような不正操作はできない」と押し返そうとした部下がいたようなのは、せめてもの救いでしょう。トップが不正を押し返えしたのではなく、部下がそうしたというのは、順序が逆ですよね。結局、トップには逆らえず、不正が実行されました。


本当に「創業以来の危機」


 事件が明るみになり始めると、「東芝は創業以来の危機に直面している」と、言われるようになりました。初めは複数年で500億円の利益の粉飾、その後、7年で1500億円の粉飾へと、増大しました。わたしは「創業以来とは大げさな」と思っていました。3代の社長にわたる露骨な圧力の言葉、多数の黒い証拠、予想される海外投資家による損害賠償訴訟を考えると、本当に「創業以来の危機」なのでしょう。


 不可解なのは第三者委員会(弁護士、公認会計士、元検事)の調査報告書です。「不適切な会計処理」という表現が何十回もでてくるのに、あくまで「不適切」で押し切っており、「不正」とか「粉飾」という表現はないようですね。どうしたことでしょうか。問題企業が専門家を選択し、依頼した報告書が企業寄りになる例はいくらでもあります。どこまで事件として広がるか分らないので、「この段階では、抑制しておこう」、との判断でしょうかね。報告書自体が問題になることもありえます。


信じがたい第三者委報告書の甘さ


 「違法という認識がないものもかなりある」と、委員長は説明しました。変ですね。部下が違法だからといって抵抗したのを、トップが押し切ったという証言がいくつもあるのにねえ。経理部や財務部の専門家もいるし、監査法人のチェックだって決算のたびごとにあるし、「違法という認識がないものも」とでは、通りません。重ねた不正操作は、決算処理の初歩の初歩の原則を逸脱しており、「認識がない」ではとても説明がつきません。「違法性の認識がかなりある」の間違いですよ。


 東芝の利益史上主義への批判があります。今回の事件は利益至上主義以前の問題でしょう。見かけだけの利益至上主義とでもいうのでしょうか。この種の経済事件が大好きな米国が早速、「株価下落による損失で、損害賠償請求」へというニュースが伝わってきました。国内における民事、刑事両面からの事件化の恐れといい、東芝は泥沼に足を突っ込みました。


 

 




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