政界も自民も1強多弱の危機
2015年9月9日
安倍首相が自民党総裁に無競争で再選されました。翌日の新聞を広げますと、「えっ、そんなことってあるの」と思いました。首相の一日の行動を伝える日経新聞4面の「首相官邸」(短信コーナー、9日)です。「18時53分、帝国ホテルで日経の喜多会長、岡田社長ら」とあります。他紙は、「同ホテルで食事」と付記しています。
首相は8日朝、再選され、さらに3年の任期に向けて再スタートをきりました。そんな重要な日、まさにその日の夜、日経のトップと個別に食事したのです。日本の新聞、特に政治ジャーナリズムのあり方を観察するうえで象徴的なでき事です。首相がトップと会食する新聞社は他に2社ほどあります。首相が親近感を持っている新聞なのでしょう。
首相と新聞トップの会食の意味
日本の最高権力者が新聞社のトップと会食すれば、社内の記者は、特に政治部記者は「トップが首相と会食するくらいすごい新聞社なのだ」と、自慢げに思うか、「首相に逆らうような記事は書けないよね」と思うか、「たかが会食ぐらいで騒ぐな」と思うか、どうでしょうか。反抗的な記者でない限り、記事を書く際に自制するだろうし、首相側は「頼みますよ」と、そこを狙っているのだろうと考えます。
日本の政治ジャーナリズムには、「政界のインサイダー(内部者)化」という病があります。注意しないと、かかりやすい病です。内部者、つまり取材対象と一体化する病です。きちんと距離を保たないと、中立、公正、客観的な報道ができません。
フランスではありえない
フランスに長く住み、欧州各国の政治事情に詳しい友人がよくメールをくれます。政治権力と政治ジャーナリズムの関係について、「フランスではメディアのトップが大統領と個別に会食するなんて考えられない」と、言って寄こしたことがあります。メディアの側も自らの中立性、独立性を十分に自覚しているのです。
さっそく、日経新聞(9日の朝刊)を読みました。一面に大きく「脱デフレこそ原点」という見出しで、政治部長の署名入りのコラムが載っております。見出しを一本に絞るならば、そんなところでしょう。問題は記事の内容です。政権に好意的です。
「永田町での安倍1強が揺るがないのはなぜか」、「経済の長期低迷から抜け出すには、アベノミクス(財政、金融、成長政策)以外に見当たらないからだ」、「無投票再選によって高支持率に代わる新たな政治力を得た」などなど。日経は社説では、様々な課題を列挙しながらも、「野田氏が出馬を模索したとはいえ、挙党一致といってよい勝ち方である」と、歓迎しています。
二重の1強構造はもろい
わたしは、「国会は、自民党の1強多弱構造」、「自民党内は、安倍首相の1強多弱構造」を日本の政治にとって、もっと問題視しなければならないと思うのです。「二重の1強構造」は、自民党には逆らえない、安倍首相には逆らえないという結果を招くからです。まともな批判勢力のない構造は、「それいけどんどん」で回転しているときはともかく、政治や経済がつまずいた時、転んだ時にはもろいのです。
「代わって政権を担える実力政党がない」、「代わって政権を担える実力のあるリーダーがいない」では困るのです。野田氏には始めから勝ち目はなく、政策綱領があるのかないのかも分らないという状態でした。推薦人20人の確保すらできないでいるのに、首相側の推薦人つぶし、推薦の取り下げ圧力の凄まじさは徹底していたようですね。野田氏があまりに非力であったにせよ、「自民党には多様な意見があるといってもらえる舞台を作りたかった」との正論をはきました。
政界の内部者になるな
安保法制をめぐる国会審議への政局的な思惑を優先したのでしょう。民主主義の原点は、多様な意見を調整する選挙です。党内の選挙とはいえ、それを圧殺してしまったことに、安倍首相の本質が潜んでいるように見えます。新聞メディアは政界の内部者とはならず、そのことにもっと触れて欲しかったですね。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます