それにしてもおかしな朝日新聞社説
2022年7月11日
争点が隠され、盛り上がりを欠いていた参院選は、「与党大勝、改選過半数」「改憲4党が2/3を超す」という結果に終わりました。岸田首相は表情を緩め、何かを決意しているように見られました。
「検討するだけ」「参院選前までは安全運転に徹する」「語る口はあるのか」と、迫力のなさが指摘されてきた岸田首相の政治手腕で、勝利を得たのではありますまい。
大雑把にいえば、「結束できず、有権者の受け皿にならない野党」「日本にも危機感を与えれているロシアによるウクライナ侵略」「安倍元首相の銃撃、殺害事件による同情票」などが勝因でしょう。
岸田首相自身が作り出したわけでない勝因で参院選に勝ち、最も得をしたのは岸田首相という結果だと思います。岸田首相は、これら巡り合わせを「決められる政治」に変えていかなければなりません。
まず、野党が分散し、最大の対抗勢力である立憲民主党が沈み、7月15日に結党100周年を迎える共産党が不振に終わりました。その半面、日本維新の会、民主党が準与党のように、政権にすり寄ってきているのですから、岸田首相にとっては歓迎すべき国内環境になってきました。
国際環境も、岸田首相を後押しする構図になっています。ロシアのプーチン大統領が無謀、粗雑なウクライナ侵略を開始し、案の定、ウクライナに有利が形勢での長期化が予想されています。
「日本はG7(主要7か国)と歩調を合わせる」方針なのですから、ロシアへの圧力はかけやすい。しかも日本の緊張感は高まり、これは政権党に有利に働く。皮肉にも与党大勝の大きな貢献者はプーチンでしょう。
中国、北朝鮮の動きは、憲法改正を後押しする。9条改正に進むにはハードルが高くても、軍事的な侵略、緊張が現実化した場合に備え、緊急事態法制の整備、強化することには国民の賛同が得られそうな環境です。
自民党の党内情勢からいえば、最大派閥の元首相が姿を消したことで、岸田首相の党内政治はこれまでと違った環境に置かれる。
安倍元首相は退任後も、発言力、影響力を維持し、岸田首相に圧力をかけ続けていました。防衛事務次官人事では、首相秘書官として仕えた島田氏の続投を露骨に望んでいました(結果としては、鈴木氏が就任)。安倍事務所には官僚たちが列をなしていたそうです。
日本の外交、安全保障面では、大きな変革をした安倍氏も、アベノミクスに退任後もこだわり、主要国最悪の金融・財政状態の改善に見向きもしませんでした。安倍氏の圧力がなくなった岸田氏は、秋以降、人選が始まる黒田日銀総裁の後任人事でも、独自色を出していく。
安倍元首相の銃撃事件についていえば、犯人の動機は、「特定の宗教団体」に対する私的な恨み、私生活からくる悩みなど、粗雑な思考結果によるものと推察されます。さらに隙だらけだったお粗末な警察の警備体制が犯行を許してしまったという見方が強まっています。
政治テロ、民主主義に対する脅威という次元の事件ではないと、総括されていくのでしょう。新聞社説をみると、日経の「民主主義に対する許しがたい挑戦。投開票が混乱なく進んだことは、テロには屈しないないという私たちの決意の表れである」は、ピンとこない大げさな主張です。
何も国民、有権者を対象にした政治テロではないようです。日経は社説での指摘をもう一度、吟味してみる必要があります。
朝日新聞社説は「安倍元首相の銃撃・死亡事件の衝撃が冷めやらぬなか、自公与党が改選議席の過半数を得て勝利した」と書き始め、「岸田首相は安定的な政権基盤を手にした。民主主義の重要性が再認識されるなか、『丁寧で寛容な政治』の真価が問われる」と、書きました。
「殺害事件→民主主義の重要性→寛容な政治を」という脈絡は、繋がりが悪すぎる。「改憲勢力が維持された選挙結果を受け、岸田首相は数を頼んで改憲に走らないでくれ」とでも言いたかったのでしょう。それと今回の殺害事件を結びつけることに無理がある。
見出しは「民主主義の実践が問われる」です。「テロ事件→民主主義が問われる」と、「改憲勢力維持の選挙結果→憲法改正の可能性→民主主義への懸念」を重ね合わせた奇妙な朝日的な論理構成は疑問を感じます。
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