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市場に手を焼く日銀総裁 

2014年04月17日 | 経済

  悪循環にはまるか黒田効果

                     2014年4月17日

 

 黒田日銀総裁の異次元金融緩和から1年間は、黒田効果というか、アベノミクス(安倍政権の経済政策)の魔術に加え、心理的効果も手伝い、株が上がり、地価が上がり、物価が上がり、いよいよデフレから脱出できると、強調する声も聞かれました。2年目にはいったところで、本当にシナリオ通りにいくのだろうかという懐疑的な声が強まっているような気がします。

 

 4月9日のブログ「異次元緩和から丸1年 金融が覇権を握る」で、各国で緩和を重ねるごとにマネー市場が巨大化してしまい、その機嫌を損ねると、報復を受ける、報復を受けたくないからまた緩和を続けるという悪循環にはまっているのではないか、との指摘をいたしました。市場に心理的ショックを与えるつもりが、逆に市場に引っかき回されることを、わたしは懸念しています。

 

 最近、おやっと思ったニュースがありました。黒田総裁が安倍首相と4月15日、首相官邸で昼食を交えて、一時間、会談したことです。総裁は記者団に「2%の物価上昇目標に向け、道筋を着実にだどっている、支障をきたす恐れがあれば、ちゅうちょなく政策調整を行うと首相に話した」と語りました。今は微妙な時期ですから、両者が会談することは避けるか、目立たないように話し合うかが普通でしょう。そうはしなかったのですね。

 

 微妙というのは、消費増税後から景気が停滞する、物価上昇(消費増税を除く)は円安による輸入価格のアップによる、株価は昨年末をピークに下落し、息切れしてきた、経常赤字が恒常化しそうな気配だ、などの声が強まっている時期だからです。官邸、日銀はそういう時期だからこそ、両者の会談をセットし、市場にシグナルを送り、誘導したかったとの解説が聞かれます。

 

 株価は実際、1日で420円もあがりました。マネー市場の応援団といわれる日経は、目についただけでも4本の記事を載せました。「黒田効果を首相が演出」、「政策調整、ちゅうちょなく」、「株価、要人発言に敏感」と書きました。さらに「それでもしぼむ先高観」との見出しで、「政府もアベノミクスへの期待をつなぎとめようと必死だ。中長期の先高観を醸成する新たな起爆剤が必要になる」と、政府、日銀以上に力が入っています。

 

 市場では、すでに「追加金融緩和」への期待が高まっており、「7月には日銀は動く」との観測も流れています。黒田総裁が記者団に「首相から追加緩和の要請は特になかった」といいながら、「必要なら、ちゅうちょなく政策調整をすると首相に話した」と、はぐらかしました。煙に巻いたとつもりでも、ここまで発言してしまい、後で追加緩和を避けた場合、マネー相場は失望売りから下落するでしょう。追加緩和をしても、サプライズを与えるため、その規模を想定以上にすると、「そこまでやって日本経済は大丈夫なのか」と、いわれかねません。

 

 日銀内部からも、「追加緩和は副作用が大きい。過度に金融政策に依存すべきでない。緩和頼みの相場はもろい。成長戦略や構造改革で経済の底上げを」との主張が聞かれます。正論でしょうね。こうした声は少数派だそうで、総裁は「ちゅうちょなく」派です。そうしたやりとりをみていると、市場を誘導しているつもりが、いつのまにか日銀が市場に誘導され、立場が逆転しかけているような思いがしてきます。

 

 黒田総裁はデフレ脱却のために、「戦力の逐次投入はしない」と1年前、断言しました。今、どうでしょうか。巨大化したマネー市場に、日銀が「逐次投入」を迫られている状況ではないでしょうか。総裁は大胆なことをいってしまったと、今頃、思っているかもしれません。

 

 もうひとつ、おやっと感じた動きがありました。総裁の記者会見は、4月8日からテレビなども同時生中継できるようになりました。欧米ではすでにそうしています。総裁発言の一字一句をリアルタイムで報道してよいということです。市場は一字一句に寸秒を争って反応し、もうかるか、損をするかの勝負をします。残念ながら、総裁発言の意味を熟考して、投資の方針を決めるという時代ではなくなっております。

 

 今、寸秒を争ってと、申し上げました。実際は、コンピューターに特殊なプログラムを組み込み、一秒間に数千回もの売買を繰り返す「超高速取引」が、売買金額の半分をしめるようになっています。ファンドなどの機関投資家がニュース通信社などから金融、経済、政治情報をいち早く入手し、それをもとに低リスクの超短期の売買を無限に繰り返して、確実に利益を積み上げるのだそうです。一般投資家は、中長期の取引はともかく、短期取引で、かれらに勝てるわけはありません。

 

 そこで総裁会見については、発言内容をリアルタイムで流し、テレビやネットを通じて、情報入手で時間差がつかないようにし、不公平にならないようにする、というのが今回の措置の狙いでしょう。総裁が強調する市場との対話も、コンピューターとインターネットの時代ならではの配慮が必要になりました。

 

 市場との対話についていえば、対話と称して、市場をある方向に引張っていくことは容易ではないし、害があるかもしれません。市場は多様な見方が交錯し、その結果として、相場がきまるのでしょう。対話が成功して、市場の動きが一方通行になってしまっては、バブルの発生と崩壊のように、その反動も大きくなってしまいます。

 

 黒田総裁は、いろいろな意味での異次元に踏み込んだようですね。あまり市場との対話を強調しないで、市場を疑心暗鬼にしておくほうが、市場本来の機能を生かせるのではないかと思いますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               



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