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中国は自国の行方が分らない

2014年04月24日 | 国際

 さ迷える大国でないのか

                   2014年4月24日

 

 最近、新聞を読んでいて、国防省や米軍首脳のブレーンも務め、米国を代表するとされる歴史家、故アーネスト・メイの中国論が目を引きました。「中国がどこへ向かうのか、まったく予想がつかない。中国自身にも分っていないだろう」という言葉です。特に後半の「中国自身にも分っていない」という部分は鋭い指摘だと、思いました。

 

 この引用は、日経新聞の解説コラムから借りてきました。日本メディアの中国報道は、「富国強兵」、「海洋権益の拡充」、「共産党の支配体制の死守」などを国の方針にし、ある方向に向かって、習近平・一極体制が国の操縦かんを握っているというイメージで多くが書かれています。多分にそうした面はあるにせよ、中国が問題を起すたびに、こうした見方をもとに、中国批判を繰り返えしていると、誤った中国観でこり固まってしまうのではないか、と思います。

 

 変化が激しいこの時代に、どこの国も自分の国がどこに向かっているのか、本当のところは分っていません。米国だって98年にリーマン・ショックによる金融危機が発生し、世界全体の危機をもたらすとは予想もしていなかったでしょう。日本もデフレから20年も脱却できないとは、考えてもみなかったでしょう。それでも、国内では政治、経済、言論などの次元で多様な議論、論争が公開される形で繰り広げられ、国をどういう方向にもっていこうとしているのか知ることができます。透明性があります。これは特に民主主義国家での話です。

 

 ロシアはどうでしょうか。言論の自由がある民主主義国家ではなくとも、プーチン大統領の独裁政権ですから、ウクライナ紛争をめぐり、何を考え、どうしようとしているのか、かなり分ります。しばしば欧米の首脳と電話会談もするので、本音はともかく、ロシアの方向性をある程度、予想できます。北朝鮮は虚偽の説明ばかりします。虚偽であるけれども、本当はこういうことなのだろうと推測できます。

 

 中国になると、様子が変わってきます。強がりばかりみせたがる共産党や政府の公式見解、居丈高な報道官の記者会見などを参考にするにしても、何しろ言論の自由がない国なので、権力構造の内部で、どのような議論が本当のところ、おこなわれ、国や個々の政策をどう導こうとしているのか、さっぱり分りません。他の諸国の「自国の行方が分らない」というのと、意味がまったく異なります。しばしばチャイナ・ウオチャーが自分こそ内情を知っていると解説します。その確度のレベルはどんなものでしょうか。

 

 日中紛争はとげとげしさを増すばかりです。そうした時期、習主席に近い胡徳平氏(胡・元総書記の子息)が来日して、安倍首相と面会しました。石原都知事の時に犬猿の仲になった北京の市長の招待で舛添知事が24日から、18年ぶりに訪中します。中国もさすがに日中問題の改善を図ろうと、しはじめたのではなかろうか、という観測がなされました。その矢先に、日中戦争前後の1930年代の船舶の賃借料をめぐる訴訟で、商船三井の船舶が中国に差し押さえられてしまいました。「また中国は古い話を持ち出して、日本困らせようとしている」との反発がおきました。「それみたことか。尖閣諸島や南シナ海の海洋をめぐる紛争は、習一極体制のもとで指揮されており、対日強硬策はその流れだ」との解釈が多く聞かれます。そうなのでしょうか。

 

 中国外務省は「戦争賠償問題と無関係」と説明しています。読売新聞は社説で、菅官房長官の「遺憾だ。日中共同声明に示された国交正常化の精神を揺るがす」との発言を引用し、「賛同できる見解だ。歴史問題で対日圧力をかける習政権の下、日中関係は悪化する」と、カンカンにいかっています。政府、党関係者など当事者ならともかく、マスコミはもう少し距離を置いて、物事を論じる必要があります。経済面では「対中投資落ち込み懸念」という関連記事をさっそく、載せています。習政権の対日政策が背後にあるとの、通念に傾きすぎていますね。

 

 朝日新聞は「日中は冷静に対応せよ」と題して、「この訴訟には複雑な経緯がある。戦後補償問題に絡めて論じるのが難しい特殊な民事紛争だ。民間企業同士の訴訟の扱いだ」と書きます。毎日は「不信で対話を止めるな」とのタイトルで「疑心暗鬼から相手側の行動の意図を読み誤ってはならない。まずいきり立たず、冷静に中国の出方を見守るべきだ」と、読売とは、かなり異なるスタンスです。当事者の商船三井は、40億円をさっさと供託金という形で裁判所に支払い、紛争化するのを避ける道を選びました。国家を絡ませず、民事問題として対処するという意識だったのですね。

 

 中国は共産党の独裁国家で、司法も完全に独立していることはないでしょう。「共産党は船舶の差し押さえをあえてとめなかった」との見方もあります。もし司法の判断を習政権が阻止したら、国内で政権批判が高まり、さらに対日強硬策をとらないと、おさまらない事態に波及したかもしれないのです。習一極体制といっても、磐石ではなく、習総書記は四方八方に気を配りながら、舵取りを続けているに違いありません。格差拡大に不満を強める大衆を敵に回したくない、国際感覚が乏しいとしか思えない軍の膨張主義を黙認しなければならない、党内の権力闘争がくすぶっており、油断ならない、なにしろ国土が巨大で、いつどのような事態がおきるか予想できず右往左往するなど、習一極体制が確立していると、言い切るには無理があるでしょうね。

 

 中国が今後、どういう国になっていくのか、共産党の独裁体制がいつまで続けられるのか、国際社会の中で信頼される大国になれるのかどうか、といった長期的見通しを持てていないでしょう。国内社会の格差是正策、大気汚染対策、中央政府の統制がきかない「影の銀行」対策などを、混乱なく解決していく具体策があるかどうかも、自信を持っていないでしょう。習主席自身がこの巨大な国をコントロールできないでいるのです。

 

 中国は国際的にも、国内的にも許されない問題を次々に引き起こしています。それぞれについて、抗議し、批判していくことは必要です。その一方で、対中問題をなにかと国家的対立に位置づけてしまうと、問題をこじれさせるだけです。中国は「さ迷える大国」と考え、幅を持った多様なアプローチの道を選択していかねばなりません。

 

 

 

 

 

 

 



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