新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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エネルギー基本計画めぐり対立

2014年04月13日 | 経済

 多神教対一神教

                      2014年13日

 政府は中長期のエネルギー政策の指針となるエネルギー基本計画を閣議で決定しました。原発、再生可能エネルギー、火力などの最適な構成を目指すとしています。その核心は原発の扱いですから、国民、政界、メディアなどの評価は二つに割れ、対立しています。原発なしに経済、産業活動は大きな影響を受けずにまわっていけるかどうか、論争は10年は続くでしょう。

 

 対立は不毛ではありません。反対側から問題点を指摘されるたびに、謙虚に自分たちの主張を検証しなおし、誤っている点があれば修正していく機会にすればよいのです。この3年間、わたしもいろいろな場で、原発をめぐる賛否の議論を繰り返してきました、結果はどうかというと、双方ともに譲らず、いつもケンカ別れになります。それでも論争は有益なのです。特に政府は今回の計画で示したように、原発を「重要なベースロード電源」に位置づけ、再稼動を進めていくとの立場ですから、反対派からの指摘に耳を傾け、より安全な原発政策へと練り直していくきっかけにしてもらいたいのです。

 

 わたしのブログでは、何度も原発問題に触れてきました。太陽光発電が脚光を浴びすぎていることを批判した「脱原発で太陽神信仰が復活」(昨年10月22日)、反原発ブームに乗った細川、小泉連合が敗北した都知事選の予想、分析、検証(1,2月)、複数のエネルギー源を持つべきだとする「エネルギー多神教の勧め」(2月15日)、電力業界が崩壊したら反原発派も困ることになる「東電バッシングの因果」(2月23日)などです。

 

 最近、注目したニュースをふたつ紹介しましょう。「東芝子会社がウクライナに対する原発燃料棒の供給を20年まで延長」という見出しの記事で、「ウクライナには原子炉が15基あり、発電量の5割をしめる。天然ガス、原発燃料棒も大半をロシアに依存している。エネルギー源の多様化が安全保障上、重要としている」と書いています。今、国際情勢でもっとも注目されているウクライナの話です。あのチェルノブイリの原発事故を起した経験を持つ国の話です。

 

 もうひとつはトルコのエネルギー政策です。トルコもガス輸入の半分をロシア産に頼っています。外相がインタビュー記事で「ウクライナ危機の前からエネルギーの調達先の多様化を進めている。原発建設がロシア依存の代替策だ」と述べ、日本の協力に期待を示したそうです。エネルギーは国の安全保障の根幹であり、海外依存、それも特定の国、地域に偏ることを修正し、自給率を高めることがいかに必要かを示していますね。

 

 反原発を単一の争点にしようとして、都知事選に惨敗した細川・小泉連合は、いわば反原発一神教です。とにかく原発を即時ゼロにすれば、皆が代替措置を必死になって考えるから、多様化も進むという楽観論です。それに対し、原発依存度を下げるにせよ、徐々に下げていかないと、経済社会に大きな混乱がおきると考え、有権者は一神教を否定したのです。

 

 世論調査をすると、原発否定が7割近くになります。なんの前提条件もつけず、原発ゼロの副作用も示さず、原発に「賛成か、反対か」を聞けばそうなるでしょう。都知事選で示した有権者の判断は現実的で、エネルギー問題には多様なアプローチが必要と判断したのでしょう。原発容認の自民党側が参院選、衆院選、都知事選の圧勝を続けたことの解析を反原発派からぜひ、聞かせてもらいたいのです。

 

 わたしがエネルギー多神教というのは、複数の視点からエネルギー政策を考えていかなければならないという勧めです。

 

・エネルギー源の多様性としては、火力(石油、天然ガス、石炭)、原発、水力、太陽光、風力などの組み合わせです。それぞれに重要な長所、短所があり、補完しあわねばなりません。今、火力が電源の9割を占めているのは異常で、温暖化対策に逆行します。再生エネルギーの比率を2割に引き上げるには、太陽光だけなら東京・山手線内の10倍の用地が必要です。風力なら2万基がいるという試算もあります。

 

・もっと全体的な多様な視点としては、国際情勢(エネルギーの安全保障、安定供給)、自給率の引き上げ、経済成長との関係、貿易赤字(対外的な支払い)の抑制、国内の経済、産業活動への影響、環境への影響、省エネルギー政策の効果と限界などいろいろあります。

 

 ここで新聞論調をのぞいて見ましょう。朝日新聞は社説で「これがメッセージか」という題で「もう原発に依存できないことは電力会社も分っているはずだ。原発は巨大事故のリスクからまぬかれない。この計画は安倍政権が続ける焦点外し戦略である」といいます。毎日新聞は「これは計画に値しない。原発など電源別の数値目標は盛り込まれていない」と指摘しています。かりに数値を盛り込んでいたら、根拠のない無責任な数値だ、批判していたことでしょう。

 

 いっそのことこうしたらどうでしょうか。「原発はゼロにする。こうすれば、経済、産業活動をやっていける。コストも適正水準である」という提言案をだしたらどうでしょうか。政府計画を論評するのではなく、自分たちの構想を議論してもらったらどうでしょうか。

 

 読売新聞は「原発活用は現実的な戦略だ。正常化する大きな一歩である。再稼動も明記した」と評価しています。気になる点はあります。昨年10月の社説では「貿易赤字の主因は、火力発電所向けの燃料輸入の急増にある」と、書きました。今回は「追加燃料費は年3・6兆円にのぼり、巨額な国富流出が続く」と、表現が変わっています。朝日は「国富流出との言いぶりには、各方面から疑問の声があがっている」と、ポイントをついています。

 

 貿易赤字の長期にわたる拡大をめぐり、大きな議論が始まりつつあります。貿易赤字は、円安による輸入代金の増大、円安下でも伸び悩む輸出などによるのであり、燃料の数量は節約により減り気味との分析がみられるようになりました。貿易赤字と原発停止の関係について、客観的、中立的に検証すべき時でしょうね。

 

 



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