ありきたりでない本音の議論を
2015年11月16日
パリを襲った「イスラム国」のテロに対する政治的指導者の言動、惨劇の報道ぶりに接していると、なぜもっと本音の議論をしないのかもどかしくなります。「その通り」、「異論はありません」という主張が多く、「だからどうするのだ」というというところが分りません。
ソフトターゲットとは何なの
本題に入る前に一言。「イスラム国」テロを批判する意味で「ソフトターゲット」という耳新しい用語が登場しました。「国家の中枢機関でなく、観光施設、繁華街など守りの手薄な場所で、一般市民を狙った無差別テロを引き起こし、恐怖を広める」とのことです。ずっと昔に前例はありませんでしたか。第二次世界大戦時を思い起こすと、米軍による東京大空襲、ナチス・ドイツによるロンドン大空襲はどうだったのでしょうか。「ソフトターゲット」攻撃でした。歴史は繰り返すですかね。
では、本題です。政治的指導者の発言は、実に格好よく、反論のしようもありません。オバマ米大統領は「全人類に向けた攻撃だ。われわれが共有する普遍的価値への攻撃だ」、メルケル独首相は「私の心は犠牲者、パリ市民と共にある」、キャメロン英首相は「われわれの思いと祈りはフランスの人々と共にある」と語りました。安倍首相も「断固、非難する。フランス国民に連帯の意を表明する」と、述べました。
本質を隠す外交的儀礼
外交的儀礼として、「心は犠牲者と共にある」などの決まり文句があり、それを使っているのです。公式な談話としては、それはそれでいいのでしょう。この場で本音を言ってはならないというのが事実としても、何が問題の核心なのかみえてきません。
メディアはどうでしょう。自由な発言が許されるはずの立場です。「蛮行は世界にとっての悲劇である。卑劣な暴力を許さない」(朝日社説)、「国際社会は結束を強めなければならない」(読売社説)、「国際社会は断固とした対応をとる必要がある」(日経社説)と、申し分ない文言が並んでいます。異論はないにしても、もっとズバッと、本音の主張を聞きたいところです。
仏治安機関の大失態
「イスラム国」という暴力的で残虐な集団に全面的な非はあるにせよ、専門家の発言は事件の核心にきちんと触れています。イタリアのテロ問題専門家・ナポレオーニ氏は「仏治安機関にとっては、襲撃を防げなかったのは大失態だ」と直言しました。米国のブランク氏は「イスラム国に対する空爆を増強しても、欧米の軍事力によっては掃討できない」と、ポイントを突いています。
日本の元外交官・宮家氏も「今回のテロを防げなかったのは、情報を収集、分析するインテリジェンスの失敗、敗北だ。治安当局はなぜ察知できなかったのか、厳しく問われる」と、フランスを強く批判しています。毎日、おびただしい量の情報をメディアは提供しているのに、問題の核心になかなかたどりつけません。かれらの指摘に核心が潜んでいると思います。
世論受け狙う空爆
フランスは直ちに大規模な「イスラム国」空爆を実施しました。国民世論対策として、仏政府は懸命にやっている姿を演出したいのだろうし、効果がないとは申しません。「そんな見せ掛けのことより、もっと本質的な課題があるはずだ」と、メディアなら指摘してほしいですね。
発生後、仏捜査当局は犯人を特定し、「よく調べては、いたのだ」と、思わせました。テロリスト予備軍が欧州全体で5000人、フランスだけでも1700人で欧州最多とのことです。3000人の諜報・治安対策機関では分っていても徹底的に追尾できないそうです。中東に対する軍事行動より、国内対策を増強すべきところでしょう。
中東の民主化はとても無理
さらにいえば、中東のような破綻国家、無政府状態の地域は、欧米がいくら軍事介入しても新たな秩序を作り出すことは無理でしょう。冷酷のようにみえても、王制、独裁、君主制で国家を統治してきた中東に「欧米型の自由化による民主化プロセスを求めることはできない」(宮家氏)との指摘は正しいと思います。このあたりが本質的な部分であり、したがって日本を含めた欧米社会は、自らの守りを優先することが正解でしょう。
オバマ大統領は「世界の警察官にならない」とし、中東などへの軍事的非介入を続けてきました。このところ「オバマ大統領は弱腰だ。現在の米国は何もしない。国際情勢の最大の不安定要因になっている」との批判がよく聞かれ、重い腰を上げつつあります。ブッシュ政権のように軍事力を行使すれば批判され、オバマ政権のようにそれを控えようとすると批判され、国際世論も国内世論も、勝手な要求ばかりするな、いいたくなります。
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