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池上彰の自慢の新書「大世界史」の難点

2015年11月19日 | 国際

 

解説の出典を明記すべき

2015年11月19日

 

 ベストセラー作りの名人、池上彰と佐藤優両氏による対談形式の新書は、「大世界史」というタイトルです。「現代を生き抜く最強の教科書」と副題がついています。激震の中東情勢、中国やロシアでの帝国主義の復活、基地移転で揺れる沖縄問題など、日々のニュースの背後にある歴史的経緯、時代の流れを要領よく扱っています。

 

 人気の著者による最強の組み合わせですから、ベストセラーの上位にくることは間違いありません。遠慮しないでこの本の難点をあげれば、250ページの新書のタイトルを「大世界史」にしたことです。学識豊かな歴史学者の大著が「大世界史」ならともかく、なにしろ新書ですからねえ。からかう歴史学者はいることでしょう。出版社の商業主義もここまできましたか。

 

独自の思索の成果なのか

 

 池上氏はテレビには出るは、本は出すはで、時事解説で新境地を開拓し、その異能ぶりには感心しております。今回もニュース最前線のテーマを幅広く扱い、その博学に驚かされます。気になるのは、いつものように参考文献、引用資料を明記していないことです。明記していないとなると、ほとんどが独自の思索、研究の成果によるということになります。いやはや、すごい。

 

 対談相手の佐藤氏は、「先日、イスラエルのインテリジェンス(情報収集・分析活動)機関の元幹部と話す機会があった」と述べ、「中東では国家、もしくは政府という枠が機能しなくなっているとみている」との見解を紹介しています。見解の出所を明記すれば、説得力は増します。著者としては佐藤氏のほうがフェアですね。

 

佐藤氏は出典に言及

 

 佐藤氏は「国には膨張志向の国と収縮志向の国がある。中国は膨張する国、アメリカや日本は収縮する国だ。同じ国でも、時代によって膨張志向であったり、収縮志向だったりする」と述べます。なるほど、こういう尺度で歴史をみると、分りやすい。さらに「1935年に鶴見祐輔氏がこうした伸縮史観を書き、大ベストセラーになった」と、自分の主張の出典を紹介しています。正直ですね。池上さん、どうですか。

 

 そういう難点を問わなければ、この新書はよくできています。米国の意思決定メカニズムはどうなっていくのか。「非白人の人口が増える流れからすると、伝統的なエリート層とウオール街しかみていない共和党は大統領選に勝てなくなる」(佐藤氏)、「勝てません。前回の大統領選が最後のチャンスだった、と言われている」(池上氏)。やはりそうですか。

 

 その米国は中東などの国際情勢とどうかかわろうとしているのか。「現在の米国は何もしない。これが今、国際情勢の最大の不安定要因になっている」(佐藤氏)、「無闇と介入した前任のブッシュ政権の反省の上に立って、オバマ大統領は外交政策を展開している。ただし、その弱い米国が世界に悪影響を及ぼしている」(池上氏)。参考になるけれども、ではどうしたらよいのか。そこは自分で考えてみよ、ということでしょう。

 

安倍政権にきつい評価

 

 安倍政権に対しては、かなりきついことを言っています。最近はやりの反知性主義を2人は論じます。「実証性や客観性を軽視、無視して自分が欲するように世界を理解する態度のことをいう。政治エリートに反知性主義者がいるのは危険だ」(佐藤氏)、「国際的スタンダードの反知性主義というのは、安倍首相や橋下大阪市長のことですかね」(池上氏)、「そうです。あるいはサルコジ(元仏大統領)などを指す」(佐藤氏)。厳しいですね。

 

 「欧州に大量に流入する難民の大波。現代版の民族大移動だ。民族が移動することで、時代が変わる。イスラム教徒の大移動によって、キリスト教社会は大きな変容を迫られる」(池上氏)という視点は大切でしょうね。「直近の動きばかりに目を奪われるのではなく、近過去の歴史から捉え直す」(佐藤氏)。なるほど、参考になります。

 

 

 



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