新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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日米首脳会談 近くて遠い二国間

2014年04月29日 | 国際

 会談は実質1時間40分

                           4月29日

 

 オバマ米大統領がアジア4か国歴訪の皮切りに日本を訪問し、安倍首相との首脳会談、天皇の歓迎晩餐会などに臨みました。2泊3日の滞在で、この間、新聞の紙面はこれらの話で埋め尽くされました。日米同盟関係、対中政策、アジア重視のリバランス(再均衡)政策、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の促進など、盛りたくさんの案件がありました。メディアは様々な角度から論評をしていますので、わたしは細目には立ち入りません。

 

 滞日中のやり取り、出来事を通して浮かびあがってきたのは、日米関係は「近いようで遠い」ということです。同盟を結び、アジアでもっとも日本を重視し、日米は「近い関係」にあるように見える一方で、尖閣をふくむ対中政策の微妙なすれ違い、TPP交渉をめぐる対立をみるにつけ、本当は「遠い関係なんだ」とも、思います。

 

 わたしが気になったのは、足かけ3日間も日本にいながら、オバマ、安倍両氏が真剣に協議したのは、迎賓館における1時間40分にすぎなかったという点です。新聞1ページ全面を埋め尽くす共同声明、付属文書の分量に圧倒されながら、話し合いは随分と、短い時間だったのだなと、その落差に違和感を覚えました。会談では両者が交互に発言しますから、本当の意味の意見交換はもっと短かったことでしょう。残念ですね。

 

 国賓待遇にして、天皇の晩餐会などで長時間、オバマ氏を拘束するより、2人はもっと実質的な話し合いに時間を割くべきだったのではないでしょうか。国際情勢が激動し、米国は及び腰の姿勢を批判され、日本は対中、対韓関係の悪化に悩むこの時期に、形式的な行事は後回しでよかったのです。日本側の官邸、外務省は国賓待遇にすることを懸命に持ちかけたそうですね。米側は到着した夜は、「すし店ではなくホテルで夕食をとりながら話し合いをしたい」と希望したと、新聞記事に載っておりました。「おもてなし」に日本側が執着したとすれば、このような外交は時代遅れでしょう。日米間に距離があるからこそ、「おもてなし」が必要になったと、いっているようなものです。

 

 もっとも、日本側は首脳ふたりきりの「サシの会談」の時間を取りたいと非公式に打診したとか。これは秋に米議会の中間選挙を控え、特にTPP交渉で本音がもれるのを嫌がり、米側がのってこなかったとの解説もありました。「すし」か「サシ」とかは、本当のところ分りません。オバマ氏は「おもてなしに感謝する」とおっしゃいました。これは外交儀礼でしょう。われわれが期待したのは、もっと緊密な日米関係、首脳同士の関係強化でした。オバマ氏が欧州諸国との首脳会談に臨む際、「おもてなしをどうするか」など、考えもしないでしょう。日米間ではビジネスライクの首脳会談ができない、それだけ日米は「遠い関係」にある、と思うのです。日本が米国に抱いている親近感と、米国が日本に抱いている親近感はズレがありますね。

 

 安全保障問題では、「日米安全保障条約は、日本の施政の下にあるすべての領土に及ぶ。尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとする一方的行動に反対する」と、共同声明で明記しました。対中国へのけん制になるでしょう。微妙なのは、中国があからさまな軍事力の行使ではなく、偽装漁民による尖閣占拠など、いわゆる「グレーゾーン事態」がおきた場合、どうなるでしょうか。おそらく米軍の出動はなく、「まず日中は、自主的解決を」というでしょうね。

 

 中国に対して、声明は国際情勢に言及しつつ、「中国が重要な役割を果たし得ることを認識し、日米は中国との間で生産的かつ建設的な関係を築く」とも主張しています。米国は中国との関係も壊すに壊せないと考えているのです。尖閣問題を契機に、米中関係を悪化させてしまうリスクは避けるでしょうね。日本側の願望との間に、深い溝があります。安倍首相は記者会見で「日米同盟はかつてないほど磐石だ」と強調しました。これは外交的、内政的表現であり、あくまでも日本側の願望ですね。

 

 APP交渉はどうだったでしょうか。協議が継続になったため、共同記者会見と共同声明の発表を同時にセットすることができないという異例の事態に陥りました。新聞の見出しでは「合意見送り」が躍るなかで、読売新聞が「実質合意」と報じ、「どっちが正しいのだ」との騒ぎになったと、読売自身が書いています。その解説によると「主要論点のすべてで折り合った。あとは事務方がしっかり詰める」ということだそうです。実際は甘利経済財政相(TPP担当)が「実質合意も大筋合意もない。収れんに向かって前進した」というあたりでしょうか。その読売は社説では「TPPは大きな前進があった。来月にも大筋合意できるか」とし、記事の報道が勇み足であったと、受け取れるような表現をとっています。

 

 麻生財務相が「11月の米議会の中間選挙まで答えは出ない。オバマには国内をまとめる力はない」と、記者会見で述べました。日本国内向けのリップサービスでしょう。米国の議会や業界団体が強硬で、支持率の落ちているオバマ氏が苦悩していることは間違いなく、そういう展開になるかもしれません。それにしても、首脳会談の直後の麻生発言は相当に非礼であり、重大な政治的失言でしょう。この面でも、日米は「遠い関係」ですね。

 

 新聞論調をみてみましょう。朝日新聞は「アジアの礎へ一歩を」と題して、オバマ氏が「日本と中国は信頼醸成措置をとるべきだ」、「米国は中国と非常に緊密な連携を保っている」と指摘したことに触れています。そこまではいいにせよ、「関係改善への一歩は安倍氏から」という社説の主張はどうなのですかねえ。「中国も一歩を」ともいうべきでしょう。毎日は「地域安定への重い責任」との見出しで「日米同盟が漂流しかねない状況だけに、対中政策でも日米の緊密な連携が確認されたこと有意義だ」」と、珍しく素直な見方をしています。

 

 読売は「中国念頭に強固な同盟関係を築け」として、「安倍政権の積極的平和主義と、米政権のリバランス政策が相乗効果をあげることだ。日米連携を国際的にアピールできた」と評価しています。以前からの対中強硬路線に沿う主張です。オバマ氏が中国との連携を重視している点を、社説が素通りしているところが気になりますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

   



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