新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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短篇=二分された反安保デモ報道

2015年09月17日 | メディア論

 

 

自ら招く若者の新聞離れ

2015年9月17日

 

 与党にも野党にもうんざりしています。安全保障関連法案の国会審議がまだ決着していません。わたしのすぐ横で、野党の採決引き延ばしをNHKテレビが延々と実況放送しております。野党は時間稼ぎのため、与党はガス抜きのために、ムダ遣いと知りながら貴重な情報時間を空費しています。視聴料金は割引すべきですね。


 新聞はどうでしょうか。激しさを増す反安保デモの報道が二分されています。昨夜、デモを熱心に報道するテレビの報道番組をみました。今朝の新聞朝刊がそれをどう扱っているか。「扱いが大きすぎる」と、「いくらなんでも扱いがひどすぎる」に分かれるのです。


朝日はデモを過大報道


 デモ支持派とみられる朝日新聞は、一面トップに大きな写真を載せ、「多くの警察官に囲まれながら、抗議の声を上げる人たち」との説明文です。社会面では、もっと大きなサイズで、廃案を絶叫しているひとの写真に、「抗議の声を上げる人たち」と、一面とまったく似た説明文です。


 他の面では、「学者もママも学生も、叫び続けるNO」、さらに別の面でも「公聴会の会場周辺でもみ合い」などなど。日本が反安保デモで覆われたかのような大展開です。中東名物の反欧米放送局、アルジャジーラが「日本の近代では史上最大のデモ」と、誇張して伝えていました。


読売の「交通妨害」にも疑問


 朝日が反安保派とすると、親安倍政権派とされる読売新聞は、これまた極端なのです。一面に載せたのは、「衛視ともみ合う野党議員、混乱する理事会室前」、しばらくめくっていくと、「公聴会後、寝そべり通行妨害。反対の人たちに取り囲まれた車を守る警察官」という写真が見当たりました。


 朝日は抗議デモに参加した人の抗議を主人公にし、読売は「取り囲まれた車を守る警察官」が主人公になっています。両紙はデモの位置づけでも正反対ですね。デモ隊が主人公か、警察官が主人公か、まるで違います。いくらなんでも警察官を主人公にすることはないと思いますよ。


 同じ動き、現象を追いながら、こうまで違うと、新聞の信頼性が失われます。テレビやネットを見ていると、動画でデモの規模、デモと警官の小競り合いの様子は手にとるように分ります。国会の野党の動きに彩りをつけるめに朝日はデモを過大に扱い、デモを「通行妨害」と断じる読売は過小評価なのです。


速報性より速評性の時代


 民主主義には多様な言論、多様な新聞が必要である、とは新聞社の日ごろの主張です。それには、社会の多様な動きを公平、中立に扱うことでしょう。事実を公平に扱った上で、問題があるのならば、解説、批評、論評を加えるべきです。ネット、テレビの速報性、同時性に新聞は勝てないのですから、編集方針の重点をそこに置き変えるべきでしょうね。新聞自らが、読者の新聞離れを誘ってはいませんか。


 過大報道の朝日はともかく、読売は若い世代の参加が増えているデモをなかなか報道しようとしてきませんでした。社論では、「若年層はもっと政治に関心を持て」、「選挙権年齢の引き下げ(18歳)に向け政治意識の高まりを」などとしています。社論と実際の紙面が矛盾しないようにする必要があるのですね。

 





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