洋画家の梅原龍三郎が描いた「北京秋天」は、北京の澄んだ青空がモチーフになっています。今や北京の大気汚染は悪化する一方で、絵になりません。街はどんより、地上すれすれまでスモッグで覆われ、マスクやタオルで顔を覆う市民の姿を報道写真で見るにつけ、よくこんなところで人間が生きていられるものだと、思いますね。
異常を通り越して、生命自体に危機的影響を及ぼしている大気汚染は、これまでの中国の発展モデルはもうもたない、つまり終着駅に近づいていることを象徴しています。「北京秋天」か「北京終点」という言葉が頭に浮かびました。
中国の大気汚染は自国民を苦しめ、そして東南アジアの海や南シナ海に覇権を広げようとしている軍事汚染をアジアの国々、他国民は苦々しく思っています。膨張を続ける軍事予算を減らして、環境対策に投入すべきです。「責任ある大国」は中国政府が好んで使う表現です。それを目指してください。中国の発展モデルの転換には、特権階級、利害関係者、これまた特権的存在の解放軍の抵抗が強いでしょう。共産党の新指導部がそれを乗り越え、再び「北京秋天」を取り戻すよう隣人として願っています。
大気汚染について、報道されている要点を整理してみました。
・微小粒子状物質「PM2・5」の濃度は夏場に入っても高く、北京市、天津市、河北省で特に深刻である。北京での交通渋滞は悪化し、河北省には石炭の消費量の多い製鉄所が集まり、汚染の大きな原因になっている。
・企業は環境規制を守らず、地方当局も厳しく監督していない。脱硫装置の性能は低く、稼動も十分していない。暖房用の石炭焼却に伴う排ガスも増えている。
・自動車の台数が30年で30倍以上に増え、排ガス基準もあまい。粗悪なガソリンには硫黄分が多く含まれている。強い政治力を持つ特権的石油業界が粗悪製品で大もうけしている。
・一般家庭も暖房用に石炭、練炭大量に燃やし、大気を汚染している。要するに、製造業、自動車、一般家庭などが汚染源になっている。
別の角度から考えると、経済の急成長による生産活動の無秩序な拡大、自動車の急増、石炭への高い依存度、これらに対する、政府の規制、環境基準の甘さの相乗的結果とされています。
報道写真で見る市民の姿は悲愴です。この中には反日デモに加わった人たちもいるでしょう。そんなことを忘れて、中国市民に同情します。共産主義、共産党は本来、人民を守ることが大義のはずです。そうでなくなってしまった、実体は共産主義ではないことの解説、分析はさまざまな視点から専門家がすでにしております。
北京駐在している日本人の環境問題専門家の寄稿を新聞で見かけました。中国政府は「重点地域大気汚染防止計画」「大気汚染防止行動計画」など、北京市なども「大気浄化行動計画」などを決定しているそうです。このままでは、特権的な共産党指導部、指導者、党員の健康、生命を政治的、経済的特権だけでは守れなくなったと、遅ればせながらさとったのでしょう。
対策予算の原資はあるはずです。2013年の国家予算案では、国防費は前年実績比10・7%増で、20年以上、2ケタ増を続けています。ある軍事専門家は「半植民地化した屈辱の近代史の体験から、軍事力を信奉する特異な安全保障観がある」、「世代交代した党指導者は、強大化した特権的存在の解放軍をどこまで指揮、指導できるのか」と指摘します。日本の安全保障観も、国際的にみると、歴史的体験が背景になって「特異」ですから、こうした指摘は分らないでもありません。
問題は、中国の敵は海外ではなく、国内にいるということです。国家戦略とは、「まず自分たち自身が、自らの生命、健康を脅かしている事態の回避、改善が第一歩であるべきだ」と思いはじめてほしいのです。環境対策では、日本が協力できる分野はたくさんありますよね。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます