新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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日本の危機はギリシャ化するか

2015年07月01日 | 経済

 

 首相の再建策は楽観的すぎる

  2015年7月1日

 

 ギリシャの通貨・金融危機について書いたところ、「随分と非難されていますね。自国がどういう状況かご存知でしょうか。日本が崖っぷちということをお忘れなく」というコメントが寄せれられました。「happyヨーロッパ移住」という肩書きを使っているので、日本から移住してお住まいなっている人でしょう。移住のお世話をしている方のようでもあります。


 ちょうど、昨30日、安倍政権が財政再建策を発表しました。そのことでブログを書こう思っていましたら、新聞、テレビはすでにたくさんの解説、論評を扱っています。そこで、「happyヨーロッパ」さんにお答えすることも含め、日本の財政危機とギリシャ危機を比較してみることにしました。


 「日本はギリシャよりひどい」


 日本の財政状況がいかに危機的かを説明するとき、「GDP(国内総生産)比の財政赤字は200%を超え、世界最悪。ギリシャの180%をしのぐ」という表現を使います。日本のひどさを「ギリシャよりひどい」というと、「それは大変だ」と、説得力を持つので、財政専門家の口ぐせになっています。引き合いに出されるギリシャも愉快ではないでしょう。そのギリシャが「いよいよデフォルト(債務不履行)で、統一通貨ユーロ離脱も」などと、報じられると、「財政悪化の数字がもっとひどい日本はどうなるのか」と心配しだしている人はいるでしょう。


 結論からいうと、ギリシャは「今現在の危機」に直面しているのに対し、日本は「将来に向かっての危機」に直面しているということです。低成長で税収は伸びず、高齢化で社会保障費は増える一方なので、このままでは、財政は破綻します。


国内保有率の高さは救い


 ギリシャの国債は7割が公的機関(国際通貨基金、欧州中央銀、ユーロ圏各国など)が保有し、しかもほとんどが海外(非居住者)の保有です。ギリシャ経済による自力の返済は、まず無理です。日本は逆にほとんどが国内保有(居住者)なので、海外に頼らずに、自力で回していくことは当面は可能です。その日本も、デフレ脱却という大義名分で最近は、日銀がもっぱら国債の購入者になってきました。公的機関による保有の増大という点では、日本は健全ではない方向に向かっています。

 

 財政再建に迫られているのは、日本も同じです。6月末に安倍政権が決めた「経済財政運営の基本方針」は、相当に甘い計画で、その実現を多くの専門家が疑っています。「20年度の財政の黒字化目標の堅持。18年度の赤字をGDP比で1%にする」という目標はいいにしても、景気が順調すぎるほど順調に回復し、税収が増え、歳出カットも計画通りに進むという物語です。


 高すぎる経済成長というトリック


 「高めの経済成長率と税収増、思い切った歳出カット」という組み合わせは、これまでに何度も破綻し、その結果が1000兆円を超える国家債務となっています。成長率は「名目3%、実質2%」としています。今は異次元の金融緩和、急激な円安、原油安が重なり、景気回復、デフレ脱却が見えてきたと、安倍政権は胸を張っています。恐らこれは一時的な現象で、20年度まで続くことはないでしょう。


 ギリシャは甘い財政運営どころか、ユーロ加盟の際、財政赤字の実態についてウソの数字を報告しました。赤字のGDP比率は「4%から12%へ、さらに15%へ」と修正されました。2度も虚偽申告していたのです。本来なら国家的犯罪です。日本は虚偽の発表はしていないものの、楽観的過ぎて、すぐに非現実的な計画だと分る失敗を繰り返しをしてきたのです。「そして再び」ですよね。こりませんね。


 法的拘束力がない日本


 安倍政権の新しい財政計画は政治的な願望に過ぎないと思います。政治家は支持率と選挙のために、楽観論を振り回ことを仕事にしているようですね。欧州連合(EU)には、マーストリヒト条約があり、単年度の財政赤字はGDP比で3%以内などと、、規約で定められています。日本も憲法を改正するなら、財政規律を強化する条文を盛り込めという声が聞かれます。政治家は財政を緩めて有権者に迎合しようとする本能で走る動物ですから、日本の政治家はそういう要求に耳を傾けません。規約はよく破られているにせよ、かなり強制力はあり、EUの姿勢は正しいのです。


 経済実績が狂ってきたら、「とにかく成長率を上げることを最優先にしよう。消費税の引き上げ(10%へ)の再度の先送り、景気への悪影響を避けるための歳出削減の先送りだ」もありえましょう。どうも高めの成長率の設定は、そのための布石であるような気すらしてきます。そんなことを繰り返しているうちに、日本も次第にギリシャ並みに近づいていくのでしょうか。


 







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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
国民の民度と政治のレベル (広瀬純子)
2015-07-22 01:31:40
こんばんは

遅くにすみません
ギリシャ危機のニュースを見ていて
「人のことは言いよいな~\(◎o◎)/
日本だって、日本人に産まれた瞬間に一人あたり何百万だか借金があるのに…」

そう思って検索したら
こちらに来れました

勉強になりました♪
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非難ではなく。 (原村)
2015-07-03 21:38:45
中村さんとは別の意見です。
異論反論ですが、非難ではではありません。

お金の足は、個人の懐でも、国家の懐でも大変早いと思っています。
日本国内で国債を消化出るから危機が来ないとの保証はないとおもいます。
ギリシャと全く同じだと思っています。

日本がこのままならその危機は突然に訪れるはずです。
国外に資産を移転できる方は別として、ほとんどの国民はその危機の被害を受けます。
勿論、海外の被害もギリシャの比ではありません。
ブラックマンディー位の被害になるかも。

甘い汁を吸う年金世代と、現役の世代との世代間闘争にならないためにも、改善しなければならないはずです。

自分のブログです。
http://blog.goo.ne.jp/akagera63363556/e/69424c90a4cced9c1899535cad59909d
覗いてもらえれば幸いです。
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日本の再建策? (Happyヨーロッパ移住)
2015-07-02 01:40:48
中村様

ご丁寧に解説ありがとうございます。世代ごとに、そして持っている資産規模によって日本の財政危機も全く別の物のように見えるようですね。

年金世代は自分達が生きている間さえ、日本が持ってくれれば良いと考えるだろうし、若い世代は日本の財政がどうなっているかも分からない人が多いのではないかと思います。

一つ気になるのは「国内保有率の高さは救い?」と言う点です。結局は、財産税や大増税によって国民に負担を強いるという点では全く同じではないでしょうか?

また、日銀は既に220兆円以上の長期国債を買取っていますが、さらに年間80兆円もの国債買取をどれくらい続けられるかに疑問を感じます。仮に10年続けるとどんなことが起こるのでしょう?

日本の財政問題をヨーロッパの友人達に説明するのは非常に困難です。正直に返済する国、返せなくて困っている国、自国でお金を刷ってバラまいている国。そういう意味でギリシャを非難するのはどうかと思いコメントさせて頂きました。



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