新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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消費増税の異常な難しさ

2014年11月06日 | 経済

  税率「10%」で息切れか

                    2014年11月8日

 

 消費再増税の賛否について有識者から意見を聞く会合が始まり、一ヶ月後には安倍政権は結論を出しているでしょう。安倍首相は再増税を先送りしたいとの観測がしきりです。ここで考えるべき本質的な問題は、「政局が消費税を決める」という表面的なことではなく、引き上げの異常な難しさがはっきりしてきたことです。

 

 日本の政治、経済状況からみると、どうにか税率10%にたどりつけてもそこで息切れし、20%はおろか、「いずれは欧州並みの25%以上へ」という政府のシナリオはとても無理だと思います。消費税に期待をかけている財政赤字脱却計画は、全面的な練り直しに迫られるでしょう。

 

 もちろん、通算5回の有識者会合では6、7割の人が再増税の必要性を唱えることなりましょう。日銀の黒田総裁も再増税を後押ししたいかのような気持ちも込め、デフレ脱却向けて金融の追加緩和に踏み切り、株価は急上昇しました。ですから中長期的な視野を優先し、財政再建、社会保障財源の確保のために、予定通りに10%への再増税に踏み切る選択肢もありえます。初日に登場した経済学者で、内閣官房参与の浜田宏一、最終回に登場する本田悦郎氏らは再増税の反対派で、いわば官邸の別動隊です。特異な立場のかれらを除くと、再増税派の学者、識者は過半数を超えます。中長期的な視点から、将来にわたる財政状況の悪さを心配しているのです。

 

   「政局論」より、問題の本質に迫れ

 

 にわかに解散風も吹き出しました。「消費税は政局問題で、再増税は選挙や支持率にもろに影響する」と、「政局論」を唱えるひともいます。選挙で消費税にこりた首相は多く、長期政権を目指す安倍首相も危ない橋を渡りたくないようです。問題の本質は、その「政局論」ではありません。

 

 4月以降の流れをみていると、最終的には25%以上の税率も想定される消費税引き上げについて、「この段階でもたついているようでは、将来はもっと心配だ」、「日本の経済力は消費税引き上げを飲み込む体力を失っている」、「税率を上げると景気が悪化し、政治的にも不評を買う」という問いを突きつけられていると感じます。ではどうするのか。この問いに、政治、経済、財政・社会保障財源の面からどいう答えを出していくかこそが重大な問題だと思います。

 

 長期政権もありうる安部政権の登場、「決められない政治」といわれた「ねじれ」の解消、金融の異次元緩和に大胆に踏み込む黒田日銀総裁の登場というめったない組み合わせをもってしても、消費税増税はこれほど難航しているのです。安倍政権、黒田体制がいづれ弱体化し たらたらどうなるのでしょうか。いずれそうなります。ますます政治は消費増税に及び腰なるでしょう。

 

   軽率だった3党合意

 

 消費税問題を混乱させているもとは、ブログで何度か取り上げてきましたように、「2015年10月に再増税、それを2014年末までに決める」とした、民主党政権下での民自公の3党合意(2012年)の無理からきています。「そんなに短期間で5%も上げるのは無理だ」、「年度途中の来年10月の再増税としたので、2014年4月の3%上げから10ヶ月足らずで次の決断をしなければならないの無理だ」という難問に直面してしまいました。もっとも自民党は「いずれ民主党にとって不利になる話だから、まあ、いいのではないか」という読みで、3党合意にのったのでしょう。

 

 その無理筋の話が自民党にまわってきたわけで、安倍首相に同情します。当時の自民党総裁で、今の谷垣自民党幹事長は複雑な心境でしょうね。民主党が再増税に賛成し、連合も同一歩調をとっているのは、「自民党が困る番だ」という思いからでしょう。わたしは、再増税を半年先送りすれば、2014年の年内決定時期を2015年末まで1年ずらせると、考えてきました。まともな3党合意にしておけば、景気が腰折れしてしまうのか、追加緩和や急激な円安はどんな影響をもたらすのか、政権支持率はどうなるのかなどを、あと1年かけて冷静に見極めることができるはずでした。今は今後の見極めが最も難しい時なのです。

 

  異次元緩和が終わる時

 

 短期と中長期の問題に分ける必要があります。予定通りに来年10月に再増税すると、目先の景気の腰折れ、デフレ脱却の遅れという短期的問題が生じる恐れがあり、政権への批判、支持率の低下を招く一方で、計算上は中長期の課題である財政再建の財源を手にすることになります。

 

 これに対して、再増税を先送りすると、目先の景気への影響を切り離すことができる反面、日本はどこまで財政再建に本気なのかという不信感を醸成することになりますね。「国債金利の上昇などの波乱はすぐには起きまい」という指摘に対しては、「巨額の国債発行を続けれられているのは、日銀が異次元金融緩和で国債を買い続けているからだ。それは止める時がくる。その時、波乱がおきる」との反論があります。その通りでしょうね。

 

 どちらの選択にも難問がまとわりついていきます。安倍首相は短期、中長期的な視点で問題を熟考していかねばなりません。再増税を先送りすると、「日本は景気が悪い、あるいは悪くなるからといって先送りする」、「景気がよくなれば、せっかくの好循環をこわすな、といって先送りする」「結局、結論を先送りする」、「それが日本という国だ」という評価が定着するのがこわいのです。

 



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