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奇怪な外交語が日中交渉を惑わす

2014年11月11日 | 国際

 意味不明瞭さの功罪

                   2014年11月11日

 

 3年ぶりに日中首脳が会談し、日中関係の改善に向け、両国が対話を再開することになりました。こじれきっていた関係の悪化に歯止めがかかることを期待します。ここでいつも頭を離れない問題に触れたいのです。特に日中間となると、飛び交う意味不明瞭、奇怪で特殊な外交用語のことです。 

 

 首脳会談の直前に公表された合意文書には、どのようにも解釈できる表現、言葉がちりばめられています。「ぎりぎりの接点を見出した外交技術といえる」(朝日新聞の社説)との評価もあります。これらは、両国の異なる立場、主張、見解、いわば、異物をくっつける接着剤なのでしょうね。わたしはこうした表現、外交用語を駆使すれば駆使するほど、本当の解決からは遠のくと考えます。これらが外交関係に与える功罪の両面をいつも見なければならならないと思います。 

 

 この世界には、日本語、中国語、英語など言語のほかに、「外交語」なる特殊な言語が存在しているのではないでしょうか。法律用語は厳密な解釈しか許さないような言葉で構成され、法律文書は別の解釈が生じる道をふさいでいます。外交語はどうでしょうか。これを操れるのは外交関係者です。こわれそうな話をこわれないように表現する技術たけている一方で、こわれること恐れるあまり、対立する問題の解決を安易に先送りしてしまうという重大な欠陥を宿していますね。 

 

 また、外交語で日中問題の解説を聞かされると、理解するまでに時間がかかり、そのうち問題の本質を見失ってしまうという経験をわたしも何度もしています。メディア、識者までも外交語で日中問題を語る傾向があり、もっと常識的な表現をしてくれよといいたいのです。 

 

   新たな合意はない

 

 今回の合意文書には、「尖閣諸島など東シナ海で緊張状態が生じていることについて、双方は異なる見解を有していると認識する」との表現があります。この箇所を日本側は「領有権に関する日本の立場を損なうものではない。領土問題は存在しない」、中国側は「領土問題が存在すると、認められた」との解釈でしょう。なるほど、文書では両国の立場は形式的にひとつ文言に一本化されました。これで合意が成立しました、となります。その中身をみると、なんらの歩み寄り、新しい合意は得られていないのです。 

 

 特に日中間で乱発される外交語は、辞書を引いても本当の意味は読み取れません。意味はそれぞれが自由に解釈してよい、という特徴がありますね。こういう手法は便利なようで、問題解決に本当はとりくまないですませてしまい、後に問題が再燃する火種を残します。日中合意の評価は、何年も経ってからでないとできません。「日本の何勝何敗」という解説をみかけました。この時点で評価を下せるほど、単純な世界ではありません。 

 

 案の定、日中首脳会談前の写真、映像撮影で、習近平主席は安倍首相と目を合わせず、目が合いそうになると、意図的そらすという動きを何度かしました。国内向けに、日中は和解したのではないというゼスチャーを示しかったのかもしれません。失礼な対応がありありでしたね。せっかくの合意文書が発表されたばかりというのにね。双方が努力をして、健全な関係を築くことで、今回の合意が意味を持ってくるのでしょう。その時点で始めて評価を下せるのです。

 

   「棚上げ」でも「棚上げ」といわない

 以前から不思議でしょうがなかったのは、「領土問題の棚上げ」という表現めぐる論争です。今回の合意は、「それぞれの見解があっていい」、「この時点では結論をくださない」という意味でしょうから、尖閣諸島の領有権紛争の「実質的な棚上げ」ですね。これが外交交渉となると、つまり日本外交担当者の側からみると、「棚上げ」とはなりません。日常用語と外交語は違うのですね。

 

 過去、「尖閣問題は放置し、以後の解決にゆだねる」とか「この問題を今回は話したくない」と中国の首脳が語り、日中間で「棚上げ」合意があったとされた時期もありました。外務省は「尖閣をめぐる領土問題は存在しないのだから、棚上げもありえない」と否定してきました。ただし、首脳会談などの外交交渉では「棚上げ」という表現はつかわなくても、実体はそれ同じ意味の発言をし、日本側も特に反論しなかった時期があったことは確かでしょう。

 

 「領土問題」も外交語と日常語では意味が違うようですね。日常語の世界では、「日本に帰属する尖閣諸島に中国人が上陸したり、周辺の領海で中国漁船が日本の巡視船に衝突してきたりしている。これはあきらかに領土問題、紛争があるということになる」となります。一方、外務省の公式見解は「あくまで日本の領土なので、領有権を争う領土問題は存在しない」となります。訳が分らなくなるひとは多いでしょう。

 

 結論を申せば、中国が尖閣問題で日本の主張をのむことは、まずなかろうということです。相手が引っ込まないのですから、どういう表現を用いようとも、実質的に「棚上げ」にすることを前提に、「戦略的互恵関係の発展」や「不測の事態に海上連絡メカニズム、危機管理メカニズムの構築」に取り組むしかありません。

 

 メディアなどでも「領土問題では譲るな」など、との主張が聞かれます。日常語では「棚上げしたところで、少しも譲っていない」ということあるのです。メディアや識者は外務省などと違う思考方法で、一般国民も理解できる言語表現で日中問題で発言しもらいたいと思います。実質的な「領土問題」は存在するし、「棚上げという手法」もありえます。第三者までがむきになってナショナリズムをあおる結果を招く心理から卒業しなければなりません。

 

 

 



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