金融は緩和より縮小を
2014年10月16日
株式市場や為替市場がまた荒れています。株の動き、為替の動きは実体経済とあまり関係のないところで決まる傾向がどんどん強まっています。関係がないというよりか、実体経済や国際情勢の変化、変動を口実に相場を動かそうとする機関投資家、ファンドなどの動きに振り回され、市場全体が動いてしまうのです。その基本的な原因を探ると、世界の過剰マネーの存在に行き着くように思えます。金融は緩和でなく、縮小に向かうべき時です。
マネー市場の動きを伝える報道はまじめに読んでいると、ばかばかしくなります。多くの人もそうでしょう。つい10日ほど前、「円は110円台定着の見方。年内115円も」という記事が経済紙も一般紙も載せていました。それがどうでしょう。そんな記事が出たころから、一転して円高に振れ、1㌦107円(10月15日)に逆戻りです。「米国経済の堅調、日本の貿易赤字の定着」など、それぞれもっともらしい説明がされていただけに、あの説明はなんだったのかと、腹が立ちますね。
株はどうでしょうか。日経平均が1万6千円台をつけ、さらに上昇かと、安倍政権も気をよくしていたところ、1万5千円割れ(10月14日)です。日本だけの動きというより、米国市場の動きを反映しています。9月中旬まで最高値圏にあったニューヨーク・ダウは一時、1万7000㌦を超えていたのに、このところは1万6000㌦割れです。米国についても、もっともらしい説明がそのたびになされるので、腹立しくなりますね。
米国が金融の量的緩和を縮小し、その後、利上げに向かう予定です。いわゆる超金融緩和の「出口」にさしかかっているのですね。それは「米国の景気がしっかりしてきたからだ」とされ、株価も為替もあがりました。今度は、一転して「緩和終了後の展開を市場が読みあぐねている」とされ、株安の一つの原因にあげられました。
ばかばかしいのは、「雇用統計で、雇用者の伸びが市場の予想を上回り、統計発表後に、ドル高・円安、株高が進んだ」という説明をよく聞くことです。この雇用統計はしばしば相場変動の理由付けに使われます。予想を上回るといっても、何万人という誤差の範囲でしょう。そんなもので本当に、世界の大きなマネー市場の動きが決定されるのですかね。
以前、日銀総裁を務めた方が「市場(大口の投資家)は二度、儲ける。上げで儲け、下げで儲ける」といっていました。相場が動かないと、株も為替も儲けがでません。そこで何かを口実に相場を上げる仕掛けがなされ、ある程度、上がったところで下げの仕掛けがなされるのでしょう。上がったところで売ってサヤを稼ぐのです。次は下がったところでところで、安値で仕込み、値上がりを待つのです。上がったのを待って、カラ売りもするでしょう。
もっとも仕掛けといっても、景気指標や国際情勢の動きに絡めて動きます。それを報道では、経済統計に直結させて、もっともらしい説明がなされるのです。一般の投資家は市場の本当の動きの情報が不足していますから、いつも出足が遅れ、機関投資家やファンドの後塵をかぶるのです。
大手信託銀行の社長を務めたひとが、ある時、担当者に相場の先行きを聞いたところ「先行きとは、いつのことですか」と、逆に質問されました。「2、3か月先だよ」というと、「自分たちが勝負しているのはせいぜい2,3日先のことです」との返答でした。「以前は実体経済にのっとった実需で相場が形成されて、ゆったりとした動きで判断していた。そんな時代は終わったと気づき、社長から身を引こうと決断した」と、、回顧していました。
最近では、1秒間に1000回も売買する高速取引が市場で相当なシェア(米国では7割)を占めています。統計的情報のもとに、独自のプログラムを組み込んで一瞬にサヤを稼ぐ手法です。あらたな動きを瞬時に自動的に処理してしまいますので、その場その場では、ひとの判断が入り込む余地はありません。
世界の市場を動きまわるマネーの規模が巨大になり、マネーサプライ(通貨供給量)、70兆㌦を超えています。特に世界金融危機(リーマンショック、08年)以降に急カーブで増加しています。金融システムがマヒし、凍結してしまったので、主要国の政府、中央銀行主導の金融の超緩和で、集中豪雨のような勢いで、マネーが市場に供給されたのです。
実需の何倍、何十倍ものマネーは回収されないまま株、為替、商品市場になだれ込みました。相場が下落し、実体経済に悪影響を与えるとの判断から、回収されず、さらに「デフレから脱却」とのスローガンのもとに、日本では黒田総裁による異次元緩和がなされました。世界のマネー供給量は実体経済をはるかに上回っており、かつての「胴体(実体経済)がしっぽ(相場)を振り回す」時代から「しっぽが胴体を振り回す」という主従逆転の関係が定着しまいました。
このところ、欧州の景気が芳しくなく、「ユーロ圏、デフレ懸念深く、量的緩和の観測」で、日本の超金融の続編をみているような状況です。他に打つ手がないので、金融緩和に頼らざるをえません。これがマネーの集中豪雨となって、それが世界の「マネー洪水」をさらに招くという悪循環から当分、離脱することはできそうにありません。
金融緩和は、その時には、痛みを伴わないので、歯止めがかかりにくいのです。痛みがでてくるのは、マネー市場の反乱で実体経済が振り回される時です。バブルの生成、崩壊による経済混乱はそのひとつでしょう。財政再建や増税はその瞬間に痛みを国民は感じますので、政治は金融緩和の道を選択しがちです。それが今日の大きな矛盾を招いているのでしょう。
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