長期政権の確立で何をする
2014年12月3日
衆院選は14日の投開票に向け、街は候補者の舌戦でにわかに騒がしくなりました。安倍首相は「この道しかない。アベノミクスへの信を問う」と、大声を上げるものの、相変わらず解散・総選挙に踏み込んだことの真意を隠したままです。アベノミクスを最大の争点にするものですから、野党も対抗上、アベノミクス批判の声を上げないわけにいきません。有権者は「争点がなかったはずなのに、争点が作られてしまった。???」と、理解に苦しんでいますね。
そこでどう考えるかです。安倍首相が語っていない部分に本音が隠されていると、みたほうがいいようですね。最近、メディに登場した政治学者、専門家の「本当のところはこうだ」という分析をいくつか読んで、「なるほど」と思った部分を紹介しましょう。細かな争点にとらわれず、距離をおいて政界をみていますから、なかなかの切れ味です。
求心力のピークは過ぎる
米コロンビア大学のアリシア小川氏は「米国市場では首相の求心力はピークを過ぎ、政権が衰退期過程に入っているとみている」といいます。自公で326議席という圧倒的多数を持ちながらも、利害関係が錯綜する数多くの課題、懸案の解決に取り組んでいくと、支持率が低下するのは当然ではあります。そこで、「長期政権に向けた権力基盤の強化を総選挙で狙うのは明白だ」と分析します。つまり、今のうちに解散すれば、議席の目減りが少ないという計算でしょう。
こんな見方もあります。「勝機を狙う以外に理屈も理由もいらない」と、御厨貴東大名誉教授は、ドライに割り切っています。たとえば消費増税先送りは選挙選を勝つための手段であり、これが大きな解散動機だと政権がいうのは、理由の後付けにあたることになります。ドライに割り切る見方はありうるにしても、有権者不在の選挙戦術ですよね。
ちょっと難しく、「非決定権力」という政治学の概念を持ち出しているのが、谷口尚子東工大準教授です。「これは、難しい問題を浮上させないようにする権力のことをさす。今回もみられた」のだそうです。「首相が意欲を示す安全保障問題や憲法改正という国論を二分する大きな争点がある。それには強くて長い政権でなければ取り組めない」。本当の争点が浮上すると、支持率が落ちるので、それを伏せて、とにかく「長期政権を確立しよう」というのが首相の本音だというのです。
期待感の強さを確認か
学者も唐突な解散といいます。「政策的に行き詰まっていない、任期の半分にも満たない時点での解散は唐突である。与党が勢力を伸ばすことも考えにくい」と、待鳥聡史京大教授は指摘した上で、「なぜ」と考えます。「決められない政治からの脱皮を有権者は歓迎している。その継続を望むかどうかを総選挙で問おうとしている。期待感の強さを確認する選挙だ」と解釈します。さらに、地方統一選、参院選など、今後の大型選挙を前に「機先を制し、政策過程での主導権を維持しようとしている」とも指摘します。なるほど。
河野勝早大教授は「圧倒的に大勝すると、次の選挙で議席を減らすというパターンが確立している。従って安倍氏の決断は異常で非合理ようにみえる」といいます。さらに「与党勢力が大きいほど、解散までの期間が長くなると、多くの議席を失うとの懸念にかれらはとりつかれる」と、権力者に見られる心理状態を観察しています。今回はまさにそうなのかもしれません。早く解散をやってしまいたいというのは、政治権力者の焦りからくるものなのでしょう。有権者にとってはこれも迷惑な話です。
「今回の早期解散について、政権のパーフォーマンスが今後、落ちるとのシグナルだという見方がある」というのが、加藤創太国際大教授です。問題はそこから先にあり、「政権自身が自らパフォォーマンスの低下を予想していると、有権者に勘ぐられ、その場合、支持率が下がる。そうなると、自民党は当初の想定ほど議席をとれないかもしれない」と、主張しています。
勝敗は事後的な解釈に
それぞれ安倍首相側の心理、動機を解明してくれていて、一読の価値はあります。「なるほど」と思うと同時に、議席で勘定すると、なん議席なら勝ちなのかという疑問がわきます。待鳥教授は「選挙結果の意味づけが事後的な解釈にゆだねられる、というリスクがある」というのです。
安倍首相は「過半数をめざす」といいます。野党の立ち遅れをみると、自民の過半数割れはまずないでしょう。そんな低い数字を勝敗ラインにしたのは、「どんなことがあっても、おれは辞めないよ」という意思表示なのでしょう。そうはいっても、安倍政権が信任されたか、されるかどうかは、国会における野党の出方、自民党内の動き、メディアの評価など、事後的なものに左右されるのでしょう。議席数が現状(自公で326議席)より、3、40前後も減るとか、投票率が50%前後(前回59%)まで下がったりするとか、そうなればとても信任されとはいえないでしょうね。安倍さん、どうですか。
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