迷路にはまった黒田総裁
2014年12月5日
急激に円安が進み、黒田日銀総裁が胸を張る異次元緩和の副作用が心配になってきました。異次元緩和はアベノミクス(安倍政権の経済政策)の主役ですから、この先どうなるか、どうするかで、安倍首相も気が気でないでしょう。総選挙で圧勝できても、景気回復も圧勝とはいきません。
円相場がついに1ドル120円まで下落し、この一月で10円、安倍政権の発足前後からの2年では、40円もの円安となると、異常事態です。日銀の大規模緩和とその追加緩和、安倍政権の圧勝の予測、泥沼から抜け出せない貿易赤字の長期化、米国の利上げ観測による日米の金利差拡大などの複合作用です。最大の要因は日銀の金融政策にあります。
円安には「プラスもマイナスの効果もあるよ」と、これまでのように放置できるのならばならともかく、ここまで円安が進むと、無策であるわけにはいきません。輸入物価が次々に上がり、国民の生活が苦しくなります。輸入資材が値上がりし、中小企業は困惑しています。海外からは日本は為替誘導(円安誘導)しているとの批判が出始め、国際問題に波及していきます。輸出の稼ぎや海外での収益がある大企業は、円換算した数字が円安で膨らみますので、好決算となります。苦しむ中小企業との格差が広がり、産業政策からみても、政治的にみても放置できなくなります。
選挙の圧勝予測も円安促進
ではどうするか。打つ手あるのか。異次元緩和にブレーキをかけてみるか。できないでしょう。ここでアベノミクスの主役を退場させることはできません。黒田総裁は「消費者物価上昇率が2%になるまで何でもやる。さらなる追加緩和もありうる」と断言してきましたから、緩和から撤退できません。「アベノミクスに対する信を問う」としている総選挙で、与党が圧勝する場合の意味は、「アベノミクスを徹底する。」ですから、政治的にも撤退はできません。それらをマネー市場が読み込んだ上での円安という側面も無視できません。
政策的な手詰まり、政策的な矛盾がいろいろと、表面化してくる恐れがあります。円安で消費者物価の上昇はありましょう。これはコストプッシュ・インフレの典型であり、需給関係の好転による物価上昇と違いますから、生活コストがあがり、国民にとってプラスはありません。円安の中で、原油下落が進んでいます。これは国民生活にとってせめてものプラスです。それなのに、日銀は「2%目標」の達成に対しては、物価を下げる原油安は歓迎できない、という気持ちのようです。どこかおかしいですね。
「2%原理主義」という批判
日銀に対して「2%原理主義」との批判がなされるようになりました。「デフレ脱却の証としての2%」を何がなんでも達成することに意義はあるのか、という批判です。実際の物価上昇率は1%程度に低下してしまい、日銀は焦り、「追加緩和も」とささやいています。そこに120円という円安です。みかけだけ「2%」に近づいても、中身のない政策的な手詰まり状態ということになります。円安を促進しかねない「追加緩和」そのものも難しくなりました。
米国は景気が好転し、大規模緩和に区切りをつけ、いづれ金利引き上げに転換するようです。日米の金利差が広がり、円安・ドル高要因になります。円安が海外要因でも進み、国内対策には打つ手に限界がある、その一方で「日本の円安は為替誘導で問題だ」との批判が強まる恐れがあります。これも政策的な手詰まりを意味します。
息切れする金融、財政政策
アベノミクスの第一の主役は異次元緩和、第二の主役は財政出動(2度はにわたる巨額の補正予算)です。財政政策は壁にぶつかっています。消費増税を先送りしたのですから、歳出の増加策はとれず、手詰まりです。安倍政権が「デフレからの脱却が始まっている。株高も進んでいる」といっても、金融緩和と財政に支えられた特効薬的な結果です。経済の好循環の結果としての株高、デフレ脱却とはいえない段階です。第三の主役になるべき成長戦略は時間がかかり、その間のつなぎ役である金融、財政が息切れしては先が思いやられます。
「アベノミクスへの信を問う」の本当の意味は、こうした政策的な手詰まりが生じた場合、どういう手をうつ用意があるかを示すことにあると思います。消費増税の先送りの先に控えている財政再建策(社会保障の削減など)、限界にぶつかりつつある異次元緩和からの撤退計画(いわゆる出口戦略)を示し、有権者の覚悟を求めるべきなのです。経済の好循環(かなりの好景気)にいたっていないのに、金融緩和からの撤退に迫られれば、株高は崩壊しかねません。
ゼロ金利で大量に放出されている円を調達して、円売り・ドル買いに回している海外投資家も多いことでしょう。日本のためによかれと思った政策が、日本を困らせる結果を招いている面もあります。ボーダレス時代における国内金融政策の限界が表面化していますね。
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