急激な円安で効果が帳消し
2015年10月16日
あい変わらず、多くのメディアは政府の発表をそのまま信じて報道しているようなものですね。21世紀の新貿易秩序となるTPP(環太平洋経済連携協定)で日米など12か国が合意しました。メディアは重要な点を忘れて報道していませんか、と言いたいのです。
消費者からみると、TPPの発効で関税が撤廃・引き下げされる結果、日々の暮らしがどのくらい楽になるかに大きな関心があります。ですからメディアがそこに焦点をあてるのは間違いではありません。
協定によると、「主な農水産品は関税が段階的に撤廃される」、「野菜は最終的には関税が全て撤廃される」、「工業製品は全体の87%の関税が即時、最終的にはほぼ100%の品目で撤廃」などとなっています。
「消費者に恩恵が及ぶ」は誇張
その結果、「農産品の値下がりは幅広く、消費者に恩恵が及ぶ」、「工業製品も輸入関税が下がれば、海外の製品を安く買える」などと、解説しています。焼肉チェーンで一人前700円のハラミは関税(現在12%)がなくなれば、数十円は値下げできるといいます。オレンジは1個60円が関税(16、32%)撤廃で50円になり、国産ミカンに近づくそうです。
そうなのでしょう。輸入品が値下がりすれば、競争上、国内品の相場も下がり、じわじわと波及効果が広がります。鶏肉、ウナギ蒲焼、アジ、サバなどには10%程度の関税がかかっており、10年から10数年かけて撤廃していきますから、これらも全体として値下がりするでしょう。
円安圧力はすっかり忘れる
ここでちょっと待てよ、ですね。つい最近まで、円安によって輸入品が値上がりして、消費者を直撃しているという記事があふれかえっていました。日銀の異次元金融緩和によって急激な円安が進み、安倍政権の発足後、一ドル=90円が125円(最近は120円程度)まで円が下落しました。
円安になると、海外への支払いが増えます。米国産オレンジが1個90円だったとすれば、120円となります。実際は流通段階の合理化努力で値上げ幅は圧縮されるにせよ、幅広い分野で輸入品が国内の消費者物価を押し上げる要因になりました。
円安を帳消しにできない
その話とTPPによる関税引き下げは、どこかでつながっているはずですよね。ごく単純にいうと、円安による輸入価格の値上がりを帳消しにするほど、関税は下がらないのです。ほとんどの品目で関税は10%以下ですから、それをゼロにしても、差し引き、円安による値上がり分を取り戻せないのです。
将来、円高に向かう可能性はあります。それはいつになるか分らないし、安倍政権、日銀は今の円安を歓迎(消費者は反対)していますから、2、3年でかつての1ドル=90円に戻ることはないでしょう。
要するに、円安による輸入品の値上がり効果を少し取り戻せるという程度の規模なのです。TPPでは、工業製品の輸出促進、知的財産の保護、国営企業への優遇措置撤廃など、輸入関税以外の分野を含めた貿易、投資拡大により、世界経済を活性化することを狙っています。
また、今回の協定に、アジア最大の中国は加わっていません。あまりにも中国の経済、貿易慣行が異質で、加わろうにも加われないということでしょう。中国主導の経済秩序の膨張に歯止めをかけ、ルールをわきまえない中国経済に圧力をかけることがTPPの重大な役割でもあります。
恩恵ばかりなぜ強調
ですから円安と関税削減の関係は、全体の部分でしかありません。それならそれで、メディアはそこに言及しなければなりません。大きな一覧表や図解入りで、「家計に恩恵」などとだけ報道するのはいかがなものでしょうか。「これまでの円安で多くの輸入品や原材料がすでに相当、値上がりしている。少なくとも当分の間、取り戻せるのはごく一部」と、なぜ書かないのでしょうか。経済専門紙の日経でも、そうした指摘にはお目にかかっていません。
なんだ、、、TPPに反対!って言いたいだけか?