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墜落事故、独首相はなぜ謝罪しない

2015年04月01日 | 海外

 心身が凍りつく惨劇の責任

                      2015年4月1日

 

  ドイツ旅客機の墜落事故は航空史上、最も悲惨なできごとになりました。これは精神障害の疑いのある副操縦士による乗客道連れテロでしょう。副操縦士、航空会社の責任追及ですむ事件ではなく、航空規制当局、さらに独政府の責任でもあります。歴史に残る国家的な惨劇を起してしまったことを、メルケル首相は道義的責任からも国際社会に謝罪する必要があると思います。

 

 イスラム過激派のテロ事件に対し、メルケル首相も先頭に立って、「テロを撲滅する」、「テロに屈しない」と抗議しています。事件の背景、次元、動機はまったく異なるにせよ、今回の事件は、身内の乗客に対するテロに等しい殺人、殺害事件であり、そのことの意味を踏まえ、首相がわびなければ、過激派テロを批判する資格を失います。

 

  日本のメディアの報道を見ていると、メルケル首相はオランド仏大統領とともに、事故現場に向かい、追悼したという短い記事はありました。正式にきちんと国際社会に対し謝罪したと伝わる報道に、日本ではまだ接していません。副操縦士の周辺、航空会社の安全管理などの捜査、調査が進行中なので、一段落してからと考えているかもしれません。事故原因、衝突にいたる経緯がはっきりしてきており、一段落を待っているような甘い状況ではありません。

 

 民間の問題で終わらない

 

 6月上旬にドイツでG7サミット(先進国首脳会議)が開かれます。航空市場の急速な拡大、格安航空会社の安全管理という面では、共通の問題になりえます。ほとんどの航空機事故の責任は航空会社にあり、その国の首脳が謝罪するという必要はまずないでしょう。今回ばかりは、「民間側の問題だ」と、素通りできない深い傷跡を残しています。

 

 メルケル首相に対し、このようなことになぜこだわるかといいますと、3月に来日した際、「ドイツは過去に向き合い、総括したことが戦後社会に復帰する基礎となった」というような意味のことを印象深く話したからです。日本に謝罪(この場合は侵略戦争)の仕方を教えようとしたという解釈が聞かれました。わたしも同感する点が多かっただけに、今度は、独首相がきちんと国際社会に謝罪をすべきだと、思うのです。

 

 今回の悲惨な墜落事故では、関係国、被害者、航空会社関係だけの問題ではありません。「機体が山の斜面に激突した勢いで、多くの遺体が深さ4,5メートルの地中に埋まった」、「激突直前、機内から悲鳴があがった」、「機長がドアを開けろと、絶叫し、ドアをナタで叩き割ろうとした」、「副操縦士が取り乱すことはなく、正常な呼吸音がボイスレコーダーに記録されている」など、あまりにも生々しすぎる様子に、報道に接した人たちの身も心も凍りつきました。

 

 ドイツは政府も民間も、航空機の安全に対する信頼を失墜させたこと、事故当時の様子を知らされた人々にも精神的ショックを与えたことに対し、心底から謝罪すべきです。国にとって道義的な責任は重いのです。謝罪のありかたを重視するドイツならできるはずです。謝罪から次の解決策が生まれることをドイツはわれわれに教えました。

 

 生々しすぎる恐怖の代償

 

 副操縦士については、「意図的な操縦で事故を招いた」、「過去に自殺の傾向があった」、「ウツ病など精神的な慢性疾患があり、通院していた」、「病気を隠して乗務していた」、「皆が私の名を記憶するようになると、元交際相手に語っていた」などです。事実とすれば、航空会社および規制当局、政府全面的な責任があります。この面からも国としての謝罪が必要なのです。

 

 航空会社の経営トップは「副操縦士は100%、乗務できる状態だった」と、報じられています。恐らく被害者への賠償を念頭に、会社としての責任を回避する思惑があるのでしょう。今後、賠償、補償請求が具体化します。被害者を恐怖のどん底に突き落としたことを考えると、前代未聞の金額になるのではないかと予想されますね。

 

 



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1 コメント

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メルケル首相の謝罪 (原村)
2015-07-04 22:31:21
以前から違和感を覚えて居たので一言。
(それはメルケル首相の謝罪)です。

生々しすぎる恐怖の代償の項目の。
二つに分かれている前段の後半部分。
『事実とすれば、航空会社および規制当局、政府全面的な責任があります。この面からも国としての謝罪が必要なのです。』と論述されていますが、自分には理解できません。

副操縦士の心理的な健康面を把握しきれなかった航空会社は別として、政府の責任が分かりません。
精神疾患が発病して、航空機事故を引き起こした副操縦士との因果関係がどうしても結びつきません。
人の心は刻一刻と変化する中にあって、法規制など作るドイツ立法府や施行する政府に落ち度が有ったのか?
自分には短い文章の中では汲み取る事ができません。

因果関係も無いのに直ぐ謝罪する日本。
自分的には今回の事故で行政府の長たる首相に道義的にも法的にも責任が結び付きません。
謝罪すべき原因と言うか根拠が理解できずにすいません。
謝罪する明確な因果関係を明示頂ければ幸いです。
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