新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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北鮮と南に引っ掛かった日本外交

2015年07月07日 | 海外

 

したたかさに翻弄

2015年7月7日

 

 日本の外交は甘いですね。日本人拉致被害者をめぐる北朝鮮の外交のしたたかさ、というかずるさ、さらにユネスコの世界資産登録をめぐる韓国外交のしたたかさ、というかずるさに、日本は翻弄されました。先週は北朝鮮がまたか、と思ったら、今週は韓国がまたか、日本の失点は立て続けですよ。


 メディアは「不誠実極まりない」とか「極めて遺憾だ」などど、怒っています。相手はもともとそのような国なのではないですか。外交的、政治的な期待値だけ高めておき、日本に気を持たせ、得るものを得たらさっと逃げるか、最後は居直る。もういい加減に、日本は外交技術に磨きをかけたらどうなのでしょうか。正直すぎるのです。


選挙や支持率を過剰に意識


 安倍政権が選挙や支持率をひどく気にするものだから、外交問題に限らず、政権周辺はそれに合うような案件を持ち込み、ご機嫌をとろうと懸命になる。それに伴うリスクや落とし穴は十分に説明しない。あるいは、政権運営に自信つけてしまった安倍首相が、忠告に耳を傾けず、功を焦って、自ら間違った判断をしてしまう。その両方でしょうか。メディアは相手国ばかり責めないで、安倍政権の甘さをもっと追求すべきです。


 政府間合意に基づき、北朝鮮が日本人拉致被害者らの再調査を始めて、約束の一年たっても、返事がきません。北から「包括的な調査を誠実に行っている。しばらく時間がかかる」という連絡です。安倍首相はそれを認めたうえで、「被害者の帰国が実現していないことは遺憾だ」と述べました。


期待値を高めて墓穴


 再調査の開始は首相自ら、一年前に官邸で記者団に明らかにしました。大きな政治的なホームランになるとの読みでしょう。初めから北朝鮮には、真面目にやるつもりはなく、安倍政権が引っ掛けられたような気がしてなりません。期待値が大きいと、自分に都合のような解釈をするものです。日本政府は経済制裁の一部を解除し、事態の進展を待ちました。なしのつぶてです。


 調査対象者は800人、生存者、行く方不明者、日本人配偶者などの包括的な情報提供をする、日本からは警察などから専門家の派遣を受け入れるとか、北にしては、一見、誠意があり、真剣そうな計画でした。こんなに手を広げたら、「調査はまだ終わってない」といい続けることができます。公安のトップを最高責任者に据えるなど、演出だけは大きく見せていました。拉致被害者を日本に戻したら、北はカードがなくなる。はじめから解決するつもりはなかった。被害者の家族の読みは正しく、「調査なんかより、生存者の帰国だ」と主張していました。


 政府声明で「強制労働」に譲歩


 ユネスコの世界遺産登録では、日本は韓国ともめ続けました。「明治日本の産業革命遺産」で韓国人労働者が「強制労働させられていた」、「いや強制ではなく、徴用だ」で対立しました。外相による事前の政府間交渉で歩みよりがみられたのに、ドイツで行われた最終決定委員会で、韓国が態度を翻しました。見送りになるよりはと、日本側が譲歩、つまり実質的に交渉に負け、政府声明では「意思に反して多くの労働者が連れてこられ、厳しい環境で強制労働を強いられた」と、なりました。


 これではまるで、慰安婦の強制連行の続編ですね。韓国側に誇張があるのに、外交戦でしてやられました。安倍首相のお声がかりで、是非とも、登録のこぎつけたいという気持ち強すぎたので、足元を見られたのです。事前に十分、調査し、日韓が対立しているこんなタイミングで持ち出さなければよかったのです。


急ぐことはなかった


 個人的には、韓国が強引すぎ、世界遺産登録案件を外交問題にまで発展させたのは問題だと思います。そうだとしても、なにも急ぐことなかったのです。急ぐような案件でもありません。日本に非はなくても、もめごとになるとは予想せず、不用意に持ち出したのは安倍政権の失点です。


 





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