新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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W杯の正体はマネー至上主義

2014年07月10日 | 社会

 スポーツというより興行   

                    2014年7月10日

 

 W杯ブラジル大会の決勝は、ドイツ対アルゼンチンによって行われることになりました。ドイツはブラジルを予想もしない大差で破り、アルゼンチンはオランダを大接戦の末のPK戦で下し、欧州対南米の対決に、ファンは熱狂するでしょう。あと一戦となったW杯を振り返ると、ルール違反を見てみぬ振りをしてまで、興奮をかきたて、テレビの視聴率を上げ、巨額の収入を稼ぐFIFA商法が見事に勝利したことは明らかです。

 

 サッカーファンはゲームに熱中ばかりしていないで、FIFA商法に踊らされ、熱中するように仕向けられていることに気づくべきでしょう。おびただしい観戦記、技術評を大会中、読まされました。いったい、このスポーツは何なのだという記事、論評はまずなかったように思われます。スポーツジャーナリズム、とくにサッカージャーナリズムは、巨額の広告収入、CM収入に、ジャーナリズムとしての中立性を失っていますから、当然の結果でもあります。人気のあるスポーツほど、商業主義化し、ジャーナリズム精神は衰退していますから、必然の結果でもあります。

 

 八方塞がりの国際および国内問題ばかり、眉間にしわを寄せた指導者の姿ばかりが目につく時代です。W杯に熱中して、肉弾が飛び交い、ゴールを破ると雄たけびを上げる野生味あふれるドラマを見たくなるのでしょう。民族対立、文明対立の代理戦争の典型がサッカーで、日ごろの不満を吹き飛ばしているとすれば、実際の戦争よりましなのでしょうね。

 

 優勝杯を争うドイツは、ブラジルのエース、ネイマールに脊椎骨折させたコロンビアのスニガに感謝状を送るべきでしょう。開催国、ブラジルを破れた最大の勝因は、ネイマールの負傷欠場、主将のチアゴシウバの累積警告による欠場でしょう。個人ワザ中心のチームが主軸の2人を欠けば、どうなるか。7対1の大差はドイツが強かった、戦術が見事だったという選評をたくさん、読みました。本当はそんなことより、勝敗はブラジルの自滅で決まったのでしょう。

 

 FIFAは調査に乗り出しました。結果は無罪放免です。反則数は一般には一試合あたり20を超えないのに、この試合では、コロンビアの23に対してブラジルは31と多く、ブラジルは勝ちたいために、殺気立ち、ルール無視で反則を繰り返しました。それがコロンビアの強烈な反則(後方からタックルまがいの行為)を誘ったとみて、どっちもどっちという判断だったのかもしれません。自業自得です。主将の累積警告による欠場もラフプレーの結果で、これも自業自得なのでしょう。だから勝利欲しさに自滅したのです。

 

 ルール無視のラフプレーが今大会の特色だとすれば、審判部門の功績によるとの見方もありえます。サンパウロ発の共同電によると、ドイツ紙が「FIFAの審判部門の責任者が主審に、なるべく警告をださないように指導している」とのことです。あってはならないことですから、当事者は当然、全面否定です。データをみると、ありそうな話なのです。試合中の平均警告数は、94年大会がカード4枚、前大会が3・8枚、今大会はさらに一枚少ないそうです。審判団がラフプレーに甘くなっているというのです。

 

 ゲームを盛り上げるには、反則に甘い態度をとり、それに両チームの選手がカッカして、反則プレーで反撃するという繰り返しがいいのでしょうね。開幕戦で主審を務めた日本人の審判団が厳しい判定を下し、ブラジルにペナルティーキックを与え、得点に結びつきました。スロー映像を見ていましたら、明らかに禁止のハンド(手)を使って相手の袖か腕を引っ掛けていました。この判定にブーイングが起きたくらいですから、かなりのラフプレーでも黙認せよという暗黙の了解があったのかもしれません。サッカーはスポーツというより、興行なのです。

 

 もうひとり感謝状を贈るべきなのは、ウルグアイのスアレスです。イタリアの選手に背後からかみつき、これはさすがに9試合の出場停止処分を受けました。これは普通の人間ならできない芸当です。これで3度目だそうで、野生を脱し切っていない人間なのかもしれません。試合後、「バランスを崩して相手に倒れ掛かった際にぶつかった」」と言い訳もしていましたね。国際社会を生き抜くには、平気でうそをつけることが必要なのかもしれません。こういう人たちとは、日本人選手は対等に戦えません。とにかくサッカーの正体を分りやすく見せてくれた功績があります。

 

 今大会の賞金総額は587億円で、前大会に比べ、37%増、優勝チームには35億円、準優勝チーム25億円、一次リーグ(予選)敗退でも8億円、もらえるそうです。優勝すれば、一人あたり2、3億円になりますから、選手は命をかけるのでしょう。怪我などは、そのコスト程度にしか考えていないのかもしれません。勝つことを最優先し、まわりもそれを認め、あおる世界ですね。

 

 W杯の総収入は約3000億円(放映権料は2000億円)とかいう記事をみかけました。とにかく気の遠くなるようなマネーがふところに入る世界です。それだけ世界中を熱狂の渦に巻き込むから、桁違いのマネーが飛び込んでくるのでしょう。一方、ファンを熱狂させるためには、ルール違反の黙認などは朝飯前でしょう。自国にW杯を招致するにあたっては、億円単位の賄賂が飛び交うという話に事欠きません。FIFA自身も、巨額のマネーに、われを忘れるのでしょう。

 

 そうはいっても、基本は躍動するエネルギーであり、人間離れした身体ワザでしょう。それがなければ、ゲームは盛り上がりません。その基本にテレビ受けするいがみ合い、揉めごと、怪我などのショー的要素が絡みます。マネーが誘引になって、選手自身が消耗品になってもいいと、思わせるよう追い込めば成功です。

 

 主要国はデフレ脱却のためと称して、中央銀行の超金融緩和を通じ、巨額の過剰マネーを市場に送り続けています。めぐりめぐって、サッカー界にバブル・マネーが落ちているのかもしれません。今大会は、マネー・バブルの波及効果も大きかったのではないですか。そいういう意味でも、次元の違うスポーツ論評を今後、期待したいですね。

 

 



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1 コメント

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ワールドカップ雑感 (松本慎二)
2014-07-29 07:01:05
仁さんの総評はあたっています。一つだけコメントすれば、サッカー(ヨーロッパではフットボールと言う方がふつうですが)そのものとワールドカップは違うということです。サッカーはヨーロッパ、ラ米、その他多数の国々でプロ・リーグがあります。その中で契約の高い国に選手は流れていくわけですが、フランスの場合は一部リーグでもチームの収入はホーム競技場におけるファンの年間座席使用料がかなりを占めます。土地のチームを土地の人々が自前で金を払って年間を通してホームゲームを観戦し、応援するわけです。『ホームの方がアウェイより有利』なのはだから当たり前です。しかしこうしたあり方では巨額の金は動きようがなく、アフリカヤラテンアメリカから若いうちに才能を見いだされた若手がフランスリーグでもまれ、さらに裕福なスペインや英国の一流チームに拾い上げられていくのです。ワールドカップはオリンピックのあいまに国対抗をやろうというFIFAの知恵者が発明したことで、今のような大騒ぎになったのはフットボールと言うゲームとは関係ないことです。英国やスペインのトップチームの監督たちは自チームの花形選手がワールドカップのためにチームから抜けるのを苦々しく思っています。ワールドカップで怪我をして残りのシーズンを棒に振ったらチームとしては大損失ですし。結論的にワールドカップの狂騒をサッカーそのものの野蛮さによるとするのは誤りです。
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