新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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騒然とする世界情勢

2014年05月26日 | 国際

 変化に無関心な日本人

                   2014年5月26日

 

 中国機の自衛隊機に対する異常接近といい、ウクライナ大統領選挙に対する親ロシア派の妨害といい、国際情勢の動揺が一段と広がりをみせています。タイ、エジプトでは軍部が強大な権力を握るなど、国内情勢が緊迫しています。強硬な対日批判で国民の人気をつなぎとめてきた韓国大統領は、沈没船の事後対応の失敗で、支持率が急落するなど、足元の問題でつまずいてしまっています。

 

 世界情勢の回転軸が明らかに狂ってきたようですね。これから先、いったいどうなるのだろうかと、異様な雰囲気が日ごとに増してきました。日本の多くの人たちもそう感じているのだろうと思うと、どうもちがうのですね。今朝の朝日新聞に載った世論調査によると、支持政党なしの無党派層が44%にものぼっています。日経の調査では39%です。政治学者の猪木武徳氏は「世論調査の回答率が50%程度(実際は60%強)として、その半数が支持政党なしであれば、政党や政策に対する民意を推量するのは容易ではない」と、指摘しています。

 

 猪木氏は「世論調査の質問に、分らない、どちらとも言えないと回答する人の多さにも驚かされる」と、新聞の解説に書いています。その理由として「確信をもって賛否を表明できないほど、政策内容が複雑になってきている」、「政治が自分の生活にさして影響を及ぼすものでないという冷めた政治観を持っている」、「政党の打ち出す政策のすべてに全面的な賛意を示すことができない慎重な人々もいる」などと、多様な分析をしています。

 

 ウクライナでもタイでもウイグルでも、ニュース映像でみる街頭の人たちは、こぶしを振り上げ、絶叫し、怒りを浮かべ、なんとかして政治を動かそうと、必死の形相です。日本人はどうなってしまったのでしょうか。さらによく分らないのは、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更に55%が反対し、集団的自衛権を行使すると紛争が起こりやすくなるとみる人が50%、原発の再稼動に反対が59%と高率です。本来なら政権を維持できなくなるかもしれない高率です。

 

 実際はどうでしょうか。安倍政権の崩壊どころか、これらを推進しようとしている安倍政権の支持率は49%と微増、自民党の支持率は37%(朝日)でかなり増加、他の野党は一ケタの低いほうばかりと、勝負になりません。安全保障や原発政策という国の根本にかかわる問題で反対が過半数なのに、安倍政権や自民党への支持率は高いのですね。いったい、どう考えたらよいのでしょうか。新聞はこのあたりをもっと深く分析する必要があります。

 

 ひとくちでいうと、世界は騒然としてきたのに、日本人は距離をおいて平然としており、「自分たちは巻き込まれたくないね」、「これまでのように米国がなんとかしてくれるさ」と、思っているのかもしれません。26日に中国機の異常接近をさっそく社説で取り上げたのは読売の「習政権は常軌を逸した挑発慎め」、産経の「危険な挑発は絶対に許せぬ」で、怒っています。朝日、毎日はいつ書くのでしょうか。読売は「自衛隊機は通常の監視任務中だった。(それに対し)中国国防省は、自衛隊機が中露合同演習を偵察、妨害したとの声明を発表した」と書き、「海洋覇権の拡大を目指す習政権の強硬姿勢が背景にある」と、かんかんです。

 

 その通りであるにせよ、社説にはもっと危機の背景を掘り下げてほしいのです。戦後の国際政治は、米ソ対立の冷戦構造、ソ連の崩壊と冷戦終結、米国への一極集中、イラン・イラク・北朝鮮の脅威の強調、米国の一極集中の崩壊・中国の台頭など、いくつかに区分けされるでしょう。いまや、そうした時代区分にとらわれていると、本当の変化の底流をつかみきれない時代になってきたような気がします。

 

・民主主義と市場経済が成熟するにつれ、それらの欠陥もめだってきた。民主主義と市場経済に代わるものはないはずだと、いつまでも居なおってばかりいられない状態になりつつある。

・民主主義国では、価値観が多様化し、国としての意思統一が難しくなってきた。情報化社会のスピードが速まる一方、国としての意思決定には多大な時間がかかるようになっている。

・民主主義国では、政権を握り、維持するため、人気とりの甘いポピュリズムが幅をきかせ、財政を悪化させ、結果として経済危機の原因を作っている。

・市場経済、とくにマネー経済のグローバル化で貧富の格差が拡大し、世界を、そしてそれぞれの国を分断している。

・成長や資源の限界、環境の制約、格差拡大など、壁があちこちにあり、それらを克服しながら国内経済を維持していくことに困難がつきまい、はけ口を海外に求めるようになった。

・そうした中で、軍事力主導型、独裁者型の国家が増長するようになった。中国には、欧米型の社会経済モデルには背を向け、力づくで国家権益を確保していこうという戦略がありありとしている。ロシアも独裁者型国家の道を歩む。こうした中で、紛争の平和的解決、法の支配が後退している。

 

 日本についていえぱ、原発の再稼動が容易でなく、将来は再生可能エネルギーへの依存度を高めようとしています。それでは十分なエネルギーは確保できず、経済成長の鈍化どころか規模の縮小が進むでしょう。経済水準、生活水準をそうとう、引き下げないと、財政は悪化し、社会保障が裏づけとなる年金、医療システムも行き詰まるに違いありません。そうした将来図がみて取れるにもかかわらず、裁判所(福井地裁)が再稼動差し止めの判決をくだすのですからね。国としての一体感は失われる一方です。安全保障については「日本が国際紛争に巻き込まれるのが嫌だよ」を助長する新聞があるのですからね。エネルギーは国の経済の基本です。国際環境の安定がエネルギーの安定供給の前提なのに、その国際情勢が波乱含みになっているのです。

 

 韓国大統領は、日本の戦後責任を追及していれば、政権が持つだろうと思っていたことでしょう。今回の客船沈没の背景には、利益をあげるための貨物の過積載で船舶の操舵がきかなくなった、官民癒着で安全管理がなおざりになったなどの問題がすくなくともあるのでしょう。他国を批判してナショナリズムをあおった責任は大統領にありますね。中国と手を握ろうとしたり、国家運営のやり方をどこかで勘違いしているのでしょうか。

 

 中国、ロシアも今のような振る舞いをいつまでも続けられないでしょう。どこかで壁にぶつかることでしょう。国際的な勢力圏を広げれば広げるほど抵抗勢力を増やすだろうし、国内の自由をいつまでも弾圧できないことも確かでしょう。それに気づくまでには相当な期間を要することも確かで、その間、多大な犠牲をはらわなければならないとすれば、不幸なことです。メディアも目先の紛争ばかりに気をとられるのではなく、もっと大きな視点が求められる時代です。

 



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